第154話 生えた腕と強い決意を見る男
宿屋で泊まり朝を迎えた。
冒険者ギルドに向かうにも朝一番は悪いので、町をぶらつく。
リール家と魔族組も麻の服一枚で冬は辛いだろうから、財布の中身と相談しながら必要な物を買い漁る、
正直、俺のセンスはあまり無いので、一時しのぎで、状態の良い女性物の古着セットと子供服を数パターン買った。
まぁ、それを着たネネさん辺りに途中の町で衣装は揃えた方が良いだろう。
布団も少し多めに購入して、
体拭き用の布や鉄製の食器類や調理道具
布類は余分に反物を購入しておいた。
最悪寒さしのぎや簡単な服の作成用にするためだが、
…俺は縫い物は出来ないけどね、一度試しに〈接着〉を使ったら、縦と横の繊維が一つになり、硬い板状の物が出来上がった。
下敷きやウチワとしては活用出来そうだが、ウッドブロックでも同じ様な物が作くれるので意味がない…
女性陣に期待しての購入である。
騎士二人に片手剣を護身用に一本ずつと、フード付きマントを購入したが、大金貨一枚程度しか使わなずに済んだ。
予算は足りたが、俺の金銭感覚がおかしい事を痛感した。
まぁ、スキルスクロールやエクストラポーションで、億の買い物をする冒険者はそうそう居ないのだろう。
良く考えたら、大金貨五枚で500万円位有る…日用品で怖がる必要はなかった…
アダルティーな宿屋でも良かったのでは?!
と気づいてしまい少しガッカリしながら買い物を続け、昼過ぎに冒険者ギルドに到着し、
窓口にまわると、ステラさんが対応してくれた。
「ユウさん、お待ちしていましたよ。
こちらが素材の買い取り料金に成ります。
既にキラーマーリンは宮殿の方に納入済みで、料理長から〈助かった、とても良い鮮度の品をありがとう。〉と伝言を頼まれております。」
と言って大金貨80枚が目の前に積まれた。
八千万円って初競りのマグロみたいな額だな…
と思いながらアイテムボックスに買い取り料金をしまう。
するとステラさんは、
「ギルマスからの伝言です。
〈1月の真ん中には帝都に来て下さい。
誰に挨拶するか解らないから服も良いヤツをヨロシクね。〉
との事でしたので…」
と伝えてきたが、流石に子爵風の貴族服はマズイだろうから、どうしよう?
あと2ヶ月あるから慌てなくて良いけど、冒険者のヨソ行きの服ってなんだ…
と考えながらギルドを後にした。
帝都を出て、バンバで街道から離れた丘を目指し、サンに乗り換える。
丸2日出遅れたが、子供連れなので、もしかしたらまだ、帝都に着いてない可能性が有るので〈南〉に向かうと、
帝都と大草原の中間辺りの小川の側に、ドラグーンの群れとマジックハウスが見えた。
ブルー達も〈マイ・マジックハウス〉持っていたんだぁ~
と感心しながら降り立ち皆と合流した。
やはり、子供達に空の旅は〈寒くてキツい〉らしくてなかなか進めないらしい。
焚き火を囲むリール家と魔族組に、古着の山をだして選んでもらう間に
小川の横に〈ピットホール〉で穴を空けて川の水を貯めて〈サーモ〉で温めて、アースウォールで目隠し壁をつくり、
子供と女性陣に順番に〈お風呂〉で温まってもらう。
そして、最後に男達で風呂に入り、〈ケルト〉さんと〈マギー〉さんに〈エクストラポーション〉を渡し、
「何も云わずに、飲んでくれ!」
と、前置きすると拒否されそうなので、強引に飲ませた。
あまりの〈マズさ〉に、うずくまる二人の肩口から、
倍速映像の発芽の様に〈ウニョウニョ〉と腕が生えてくる。
〈リアルだなぁ〉
と眺めていると、
流石は元騎士団長、〈ケルトさん〉は何が起こっているのか理解したようで、
涙を流しながら生えた片手を見つめている。
〈マギー〉さんはまだ、
「まっずぅぅぅぅ!」
と騒いでいる。
数分後、
マズさに耐えきり武器が持てる様になった二人に護身用の武器を渡す。
すると二人は、片膝をつき片手剣を両手で受け取り、
「リール家に捧げる物と同等の忠誠をユウ様に捧げます。」
と、宣言する。
ヤングさんやマーズさん、ブルーが拍手で二人の騎士への復帰を祝う。
風呂上がりで全員パンツ一丁でなければ絵になったのに…
残念な部分も有ったが、子供と女性陣は、麻の服より暖かい服を着て、一人一枚の布団でグッスリと眠っている。
マジックハウスの警備を男性陣で交代で行っているが、ケルトさんとマギーさんは休まずに、生えた腕を確かめる様に剣の素振りをして過ごしている。
翌朝、風呂の後すぐに寝てしまった子供達やリール家の方々が、腕の生えた二人を見て驚いていた。
領主夫人のエラさんは泣きながら二人を抱きしめたあと俺に、
「なんとお礼をすれば良いか解りません、
私、エラ・ド・リール、亡き夫に代わりまして心よりの感謝を…」
と言いながら泣き崩れた。
奴隷から解放されても、二人の腕の件が有ったから喜べないし、不安だったんだろう。
エラさんは、騎士二人に慰められている。
俺は、
「リール家の皆さんもこれで、普通の生活が始めれますね。
俺もロッカ侯爵にスタンピードをぶつけられた仲間だから、
あまり、気にしないで。」
と言っておいた。
アース・ド・リール君は十五歳になったばかりだが、今の状態を良く理解しており、
母親達と話していた俺の前に進みでて、
「ユウ様、私、アース・ド・リールにも、父の無念を晴らし、リール領の民を救える力を、知恵を、技術を授けて頂けないでしょうか?」
と頭を下げてくる。
ドリル母を見ると深々と頭を下げている。
騎士の二人も頭を下げ、
メイドのネネさんも、皆の真似をしてアナちゃんまで…
見ていたヤングさんは、
「旦那、弟子にしてやんなよ。」
と援護射撃をする。
マーズさんもウンウンと頷くし…
「解ったよ、弟子にするから。
頭を上げて下さい。」
と俺がいうと、
「やったぁー」
と、ブルーが喜んだ。
?と不思議に思っていたら、
「弟が出来た!」
と、ブルーがはしゃいでいる
…弟〈弟子〉だよブルー?!
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