第172話 弟子と龍人と松下と俺

隠れていた木が、


射たれたと同時に丸く覗き穴が出来てしまう威力の銃口が向けられる緊張感のある環境の中で、


内容的に緊張感の無い会話が続く、


「松下君、俺は土屋、土屋 優。


今はこの先で、マヨネーズ王国の王様をしている。」


と大声で語りかける俺に、


「だから、そんなふざけた名前の国の知り合いは居ない!」


と答える〈松下 竜司〉


「では、一度は君の手足をもぎ取った相手と言えば?」


と聞くと、


〈パン!〉


と音が鳴り、


「出てこい!


てめぇの体も手足もぎ取って、カロリーハーフマヨネーズにしてやる!!」


と言ってくる松下に、


焦りながら、


「ちょ、ちょっと待とうか?


松下君、神様に逢った事ある??」


と俺が聞くと、


「宗教の勧誘なら間に合ってるぜ!」


と松下が呆れる


「ちがう、違う、この世界の甘党の神様だよ。」


と追加情報を加えるが、


松下は、


「知らねぇ!」


とだけ答える。


俺は、


「なら、その神様からのお願いで、君達全員を解放しに来たと言ったら信じてくれるかい?


銃をおろしてユックリ話さないか?!」


と提案するが、


松下は、


「今回ばかりは駄目だ、


奴隷紋で俺達全員、〈セントラル王国の人間と進行を妨げる人間は殺せ〉と命令されている。


銃を構えているから、会話が可能だが、銃を下ろして、仲良くお話しようものなら、心臓を締め上げられて、こっちの命が危ない。」


と教えてくれた。


「厄介だな、なら松下君は俺とサシで、竜人さん達は俺の弟子達が〈呪解レベルMAX〉で奴隷紋から解放する。


解けた者から他の者を取り押さえて〈呪解〉する手伝いを頼みたい…


乗るか?!」


と、俺が確認をすると、


「この、忌々しい呪いが無くなるのは願っても無い事だが、さっきも言ったが、視界に入った時点で攻撃はするからな!


それでも良いなら…


了解だ。


呪いが無くなりゃ、あのジジィ達の指示に従わなくていい、


シバいても命を奪われる呪いが発動する事は無い!


皆もそれで良いな?!」


と竜人達に確認を取る松下、


竜人達は、


「応!」


「了解」


「リーダーに従う」


と口々に〈了承〉の意思を示す。


松下が


「よし、意見がまとまったぜ、


マヨネーズ師匠!!」


というので、


「いやいや、土屋だから、松下君よりもこの世界歴の長い〈日本人〉だから、


芸人みたいな名前で呼ばないで。」


と訂正を入れた。


すると松下は、


「では、土屋パイセン!


殺す気で行くんで、死なないでくれよ!!」


と気合いを入れる…



神様からの情報で、こうなる予想はしていた。


ブルーとアースの二人にも、〈呪解〉だけでは無く、皇帝陛下からの準備金も投入して〈アサシンの心得〉や〈バリアー〉に〈大地の檻〉など、出来るだけ敵も自分も殺さずに済みそうなスキルを取らしてある。


「では、ブルー、アース!


こちらも気合い入れて行くぞ!!」


と指示を出し、


誰も死なない事を目標にした、ガチンコの戦闘が始まった。


初めに仕掛けたのはブルーとシュートのコンビが少し離れた位置にいた〈竜人〉に襲いかかる


〈竜人〉の方々は見た目からだいぶ違いがあり、ガタイの良いマッチョ系や羽が生えた細身系から、他の鱗と角の有る人型よりも、顔がドラゴンっぽい人も三人程いる…


その中で、ブルーは不意打ちで〈スピード系〉っぽい細身の龍人を〈呪解〉した。


青白い光が光ったあと、


翼持ちの〈竜人〉が


「すげー!本当に攻撃を止めても苦しくない!」


と騒いでいる。


他の〈竜人〉達はブルー達に注目するが、それは同時に〈ブルーをターゲット〉にする事と同じ…


「ヤバい!」


と呟いたブルーは〈解放竜人〉と一旦離脱して木々に隠れる。


アースもブルーをお手本にして〈もぐら叩き〉の様な作戦を開始している…


〈よし、あっちは何とか成りそうだな。〉



弟子を信じて俺は目の前の厄介事に集中した。



マジックシールドを出しながら松下に突進するが、


魔導銃の一撃を食らう。


マジックシールドと従魔達のステータス補正でほぼ無傷だが、

困った事に〈ノックバック〉はさせられる様で、


マジックシールドでいなした筈が、低木の繁みに弾き飛ばされる、


松下が、


「パイセン、生きてるか?」


と銃を構えながら聞くので、心配しているのかどうか判別は出来ないが、


心配してくれていると信じて、


「いっぺん死ぬ気で、俺を撃つの我慢出来ないの?」


と草むらから大木の影に移動しながら聞く、


すると松下は、


「ちゃんと死ぬから我慢はしないよ、土屋パイセン!」


と答える。


〈あっちも必死かぁ…〉


とガッカリするのもつかの間、


遠くで青白い光が瞬いては、


「ヤッター」などと歓喜の声が竜人から上がる。


アース君も上手くやっている様子だが、


いきなりブルーの


「うわぁー!」


という叫びが聞こえた。


俺は心配なしながら


「大丈夫か?!」


と大声を上げると、


「師匠、ブレス出されてビックリしただけです。


ご心配なく!」


と答えるが…心配しかない…


顔面ドラゴン系の方々は〈ブレス〉が出せるのね…死ぬなよ。


と、言ってる俺も近寄れない事にはどうしようも無い、


〈松下の銃さえ無ければ近寄れるが…〉


アイテムボックスのリストを出して打開案をひねり出す。


〈弓で銃を持つ手を射抜くか?〉


〈銃の方が早いから駄目だ〉


〈片手のマジックシールドは、是非モノだから片手剣…〉


〈剣の達人でもないと意味ないな。〉


頭をフル回転させるが、


積んでは崩し、崩しては積んでを繰り返してもナイスアイデアが浮かばない…


もう、どうしたらいいのよ…


と諦めかけた時にリストの名前に一瞬意識を奪われた。



〈…イケるんじゃね?〉

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