第132話 魔族の兄弟を買う男

奴隷商のテントを出て、冒険者ギルドに向かいながら、


魔族をお留守番担当にするか否かを考えながら歩く…


べつに、連れ歩かないから問題ないし、


あの奴隷商人がいうのには、

食べるものは人も魔族も同じらしいから大丈夫、〈血を吸うとかで無くてよかったよ…〉


兄弟の魔族らしくて、旧魔王領に隠れて住んでいた主の魔族の馬の世話係だったらしいから、うちの従魔牧場にもってこいではある…


しかし、魔族との常識のズレとか心配だなぁ…


と悩んでみたが、


まぁ、異世界だしズレが有るのが普通かな?


〈よし、性格重視で決めよう。〉


と結論がでた。



そうと決まれば、素材の買い取り額で出来る事が変わってくる、


頼む、大金貨五枚いや四枚にはなってくれ、従魔召喚とアイテム鑑定が欲しい、魔物牧場には必要だし、〈魔族くずれ〉から回収した指輪や銃の鑑定もしたい、


それに、ブルーが言ってたけど、


〈パーシー君みたいに、植わっている状態では無理だけど、引っこ抜けばある程度はアイテム鑑定で、名前と、食べれるかどうかは解るらしい。〉


森での生活には必要なスキルだ。



色々考えているうちに、冒険者ギルドに到着した。


買い取りカウンターで、


「F級のユウです。

買い取り結果を聞きにきました。」


と告げると、先ほど対応してくれたギルド職員さんが窓口にきて、


「お待たせしました。

こちらが買い取り伝票です。」


と言って紙を渡してきた。


〈跳ね鹿の皮 小銀貨7枚〉×6

〈雄跳ね鹿の角 小銀貨3枚〉×4

〈アーマードベアーの肝 大銀貨2枚〉×2


等と丁寧な内訳が記されており、


最終的な合計が、大金貨二枚と小金貨二枚に大銀貨が六枚…少ない…


もう一度伝票をみるが、間違いはない…


まぁ、肉と魔石が無いから、仕方ないよね少なくても…


と思いながら伝票とにらめっこをしていると、ギルド職員さんが、


「驚きましたか?

解体場の親方から、

〈肝の鮮度が良いから色を付けてやれ〉

と言われたから少し多いでしょ。


それと、ギルドランクが〈E級〉を飛び級して〈D級〉になりましたのでギルドカードをお返しします。」


と笑顔で言われたので、


「ありがとうございます。」


とは言ってみたが、〈少ない〉事に気をとられて、上手に笑えていたか心配だ。


窓口でお金を受け取り、待ち合わせ場所の街の入り口の門に着くと、既にヒョロッっとした奴隷商人が待っていた。


「お待ちしておりました。」


とニコニコ営業スマイルの奴隷商人に導かれ門の外に向かうが、


奴隷商人は一時間以内に戻る事を門兵さんに告げると木札を渡されていた。


〈そんなシステムがあるのかぁ〉


と感心しながら俺も真似した。


奴隷商人の後に続きテントが並ぶ場所の一番端にやってきた。


狭い檻に二名のかなり痩せこけた、ボサボサ頭で、顔色が悪い?

青っぽいのは…元からかな?


まぁ、とりあえず元気のないフンドシ姿の男性魔族がいた。


「えらく元気が無いね。」


と感想を言うと、奴隷商人は慌てて、


「食事を最低限にして一年近く連れ回したので痩せてはいますが健康です。」


と説明する。


「服は?」


と俺が質問すると、


「私どもが手に入れた時にはすでにこの姿でして…


では、洋服代金として一人につき小金貨一枚お値引きいたします。


しめて大金貨1.8で…」


と値引きをはじめた。


全く売れそうに無いので、一刻も早く手放したいのだろう。


俺は檻に近づいて、


「はじめまして、

二人とも、ウチの〈牧場〉で働かない?」


と質問したら。


右の魔族は狭い檻に座ったままこちらを見て、


「この生活から抜け出せるのなら、悪魔にでも魂を売るぜ!」


と言ってニヤリと笑って見せる。


すると左の魔族が、


「兄さん、そもそも魔族は悪魔の末裔だよ。」


と突っ込む。


「ご先祖に魂売っても説得力ないかぁ」


と右の魔族ががっかりしている。


左の弟らしき魔族が、


「兄さんは、購入希望者の方がなかなか現れないので、何周も回ってあのセリフにたどり着いたみたいです。


少しアレですが、悪い性格では無いですし、僕も一生懸命働きます。」


と頭を下げた。


〈あっ、良いヤツらだ。〉


俺は奴隷商人に、ベンさんから貰ったお小遣いの中から王国金貨を取り出して、


「購入します。」


と告げた。


魔族の二人からも、奴隷商人からも感謝をされたが、


フンドシ姿でお留守番はさせられない。


奴隷商人に、


「服やサンダル、それに日用品を買ってから、また来ますから軽く小綺麗にしといて下さい。」


と告げて街に戻り買い物を始めた。



服や日用品、ついでに畑道具一式と、野菜の種も購入した。


俺が留守にしても自分で作れば野菜不足は補えるだろうし、草食魔物のご褒美食材にもなるから一石二鳥だ。


そしてここからが本題…スキルショップだ。


店に入って辺りを見回すと、


「いらっしゃいませ、本日はどの様なものを?」


と女店員がすっ飛んできた。


初めての経験だった。

初見で接客してくれるスキルショップに初めて入った…


「えーっと、〈従魔召喚〉と〈アイテム鑑定〉が欲しいのですが、予算の関係でどちらか1つでも購入できれば嬉しいのですが…」


と店員さんに相談すると、


「うーん、テイマーギルドでしか〈従魔召喚〉は扱ってないからこの店、と言うか、この街では売ってないわね。


アイテム鑑定なら大金貨三枚よ。」


と、応えてくれた。


「王国金貨が混ざっても構いませんか?」


と質問すると、


「構わないけど、ワイズ王国金貨なら手間が掛かるからお断りよ。


あの国は決まりを破って金貨に混ぜ物をして水増しするから、年代によってレートが変わるのよ。」


と言われたので、


「セントラルです」


と告げると、


「なら大丈夫よ」


と了解を得たので、王国の貨幣中心で支払い、


これで、俺が持っているのは帝国のお金だけになった。


アイテム鑑定を取得してから再び門を出て奴隷商のテントに向かうと、水をぶっかけられた様に、びちゃびちゃの二人がいた。


「ご主人様、すまない。

久しぶりの水浴びが気持ち良くて、隅々までゴシゴシしてたら乾かす時間が無くなってしまって…

待たせたらダメだから急いできました。」


と兄が頭をさげる。


弟も気まずそうに、


「恥ずかしいながら、僕も…」


と答えた。


風邪をひくとダメなので、


濡れて安物の薄手のフンドシが透け透け状態の二人に、身体拭きの布と着替えの下着と一般的な作業着を渡した。


二人はテント村担当の奴隷商人が見守る中でも鼻歌を歌いながら身体を拭き、着替えを始める。


〈メンタル強めだなぁ〉


と感心して眺めていると、


弟が、俺の視線に気がついて、


「ま、まさかご主人様って…」


と、言ってお尻をおさえる。


んな訳有るか!


と突っ込みを入れようとした瞬間に


兄が、


「俺は、買って頂いた時点で覚悟は出来てますぜ。」


と、〈バッチコイ!〉とばかりに自分の尻を叩く


「アホな事を言ってないで、さっさと服を着て…」


と俺が呆れていると、兄の方は少しホッとしている様子だった。


〈こんな所で一世一代の賭けに出るなよ…〉


もしも、俺が〈そういう〉ご主人様なら、弟よりも自分に先に手を出すように仕向けている様に見えた。


考え過ぎかもしれないが、少なくとも優しくて、心に芯の通った強い人物なのは理解できた。



うん、仲良くなれそうだ。

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