第133話 魔族の兄弟と拠点に戻る男

魔族の奴隷、

兄の〈アドラ〉は馬や家畜の世話が得意な元魔族の貴族家の馬番頭で、

弟の〈メレク〉は馬具の管理や制作が得意な兄と同じく馬番の馬具係だったらしい。


昔、倒された魔王様のペットを管理する役職の貴族の家来で、住み処を替えないそのペットと共に旧魔王領に隠れ住んでいたのだが、


ついに見つかり〈魔族狩り〉にあってしまい奴隷に落ちたらしい。


気の毒な話しだ。


新たに俺の拠点管理役となった、作業着姿の二人を連れて、ザムダの街を見下ろせる高台に昇ると、どこで見ていたのか〈サン〉が迎えに来てくれた。


「サン、また頼むよ。」


と言って俺はアイテムボックスから〈ゴンドラ〉を出す。


〈メレク〉が


「ご主人様、まさか僕たちをドラグーンさんのエサにでも?」


と不安そうな顔で聞いてくる。


〈食べないから。〉


とサンが自ら呆れ気味にツッコミを入れている。


〈アドラ〉が弟に、


「変な事を聞くから、ドラグーンさんが呆れながら〈食べない〉って言ってるぞ。」


と注意する。


えっ!?


「アドラは〈サン〉の言葉が聞こえるの?」


と俺が聞くと、


「はい、それはもうバッチリと、

俺の唯一のスキルがテイマーなのと、

奴隷商で先ほど刻まれた奴隷紋で、ご主人様との繋がりが出来ましたから、ご主人様の従魔であれば会話も可能です。」


と、〈アドラ〉が答えた。


凄いじゃないか!


王国では奴隷は〈首輪〉や〈腕輪〉に主人に攻撃を加えられない機能や、罰を与える機能がある。

※俺は即時解放したので使っていない。


だが、帝国では呪いにも似た〈奴隷魔法〉の研究が進んでいて、魔法で身体に契約の印である〈奴隷紋〉を刻む、


刻むと云っても、焼き付けたりするわけではなくて、魔法で描くペイントみたいな物だ。


奴隷紋には色々な種類があり、


禁止事項等が多ければ多い程に高価になるが、奴隷を意のままに出来る。


しかし、俺は金がそんなにないし、別に魔族の兄弟をどうこうしようとは思わないので、


基本の〈主人に危害を加えてはイケない〉破れば〈罰則〉タイプの奴隷紋を二人にお願いした。


罰則は〈お腹がユルくなる呪い〉にしてもらった。


俺に敵意を持てば、〈お腹が痛くなり〉


俺に害を成そうとすれば、〈引くほど下痢になる〉


という契約だ。


かなりアホっぽいが、消去法で〈死ぬ〉〈切断〉〈激痛〉などえげつない罰の中でましなものを選んだ。


この契約のお陰で、主従の絆が出来たぶん〈アドラ〉は俺の従魔とも、〈近い仲間〉的なノリで話が出来ている様子だった。



俺は二人に


「すこし狭いけどゴンドラに乗って」


と指示をだす。


三人が乗り込んだ時点で、〈サン〉がゴンドラの持ち手を掴んで空に舞い上がる。


〈メレク〉が不思議そうに、


「ご主人様、こんなに立派なドラグーンになぜ騎乗しないのですか?」


と空からの景色を楽しみながら何気なく質問してきた。


俺が、


「ドラグーンの鞍を持ってないからね。」


と答えると、


「ご主人様、僕が作るので、今度〈皮加工道具〉を買い与えて頂けないでしょうか?」


とメレクがお願いをしてきたが、むしろこちらがお願いしたい。


後で必要な物を聞いて、ザムダの街で買うことにしよう。


数時間の遊覧飛行の後に拠点の中心に降り立った。


魔族兄弟は拠点の広さに驚いていたので、


「整地から壁や家も俺が作ったんだよ。」


と伝えるとさらに驚いていた。


二人を部屋に案内し、先に作っておいたベッドに今日購入した布団セットを並べる。


拠点の住居は、アルバート伯爵領で親方が建てた平屋の長屋で、5部屋一棟なので、一人一室使っても二部屋余る。


トイレは別の建物だが渡り廊下で繋がっているし、

ダイニングキッチンも別棟で建ているので、森の中だが文明的な生活が可能だ。


〈アドラ〉と〈メレク〉に〈リオ〉と〈レイ〉の狼親子を紹介して、皆でご飯にする、


二人の魔族に肉じゃがとご飯を出したら、泣きながら食べていた。


この一年近く、味の薄い麦粥やカチカチのパンとほぼお湯のスープばかりだったらしい。


「旨い、味がある。」


「スプーンが止まりません!」


と兄弟が感激しているが、


急に食べ過ぎたらお腹が痛くなるかな?


当面は栄養価が有るが消化に良さそうなものにしよう。


ご飯を食べながら二人に、この拠点で従魔を集めつつ、魔物を狩ってお金をためる事、


倒したい仇が居ること、


等を話して、


拠点の管理運営を頼んだら、


〈アドラ〉は、


「従魔の事は任せてくれ!」


と胸を叩き、


〈メレク〉は、


「畑仕事に家事全般と革細工ならお任せ下さい。」


と頭をさげてくれた。


良い仲間に出会えた事を感謝しながらその日は休む事にした。



次の日狩りに出る前に、アイテム鑑定したかった指輪2つと壊れた銃をアイテムボックスから出して鑑定してみる。



壊れた〈魔導銃〉

魔法を圧縮して打ち出すことができた。



…やっぱり〈集中〉の上位版の魔導具だな、

大魔法を指先サイズに圧縮して打ち出すのなら、だいぶ頑丈な俺でも怪我させるだけの火力があるのも頷ける。


指輪は、


〈認識阻害の指輪〉

装着者の容姿、風体を特徴のない一般的なものに誤認させる効果をもつ指輪



〈指輪〉

金とミスリルで出来た指輪



…うーん、〈認識阻害の指輪〉は松下本人が、どこかの街をうろつく為に使っている指輪だろうが、


ただの指輪は…良く解らん、


?千切れた左手の薬指から取ったような…?


もしかしたら〈松下〉のボディーにされた魔族は既婚者だったのかもしれない、


…だとしても、手がかりには薄かったかぁ…


折角大金はたいたが、手に入れた情報が、いまいちだった。


残念…



まぁ、魔法技術研究所に探りをいれたりしたらまた何か解るかも知れないし、


今は、気にせず足場固めを頑張ろう。


従魔と金!


馬車は有るけど馬はいないし、

戦える従魔もほしい。


ミルキーカウとか牛系も欲しい。


〈シズカ〉も〈トサノ〉も農業顧問のパーシー君に譲ってしまった。


ハイミルキーカウやレッドキングオックスで無くても構わないから


拠点に欲しい。


まずは、お金を稼ぐ為に狩りを頑張り、


帝都で〈従魔召喚〉を手に入れてからだ、帝国を回って従魔を集めつつ、冒険者ランクも〈C級〉を目指すぞ。

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