第131話 お留守番要員を探す男
王国を出て約1ヶ月、
俺は帝国領寄りの魔物ひしめく森の中、世の中に点在する、どこの国にも属さない危険な森…〈魔の森〉の中ほどに有る小高い山のふもとで…
伐採し整地して、
そして石壁を作っている。
もう、〈土木作業員としてこの世界に来たのでは?〉
と、思える生活を送っている。
戦争の為にアイテムボックスに積めてきた魔石の山はスタンピードの対処と松下戦で半分以下になり、
そして伐採と整地で完璧に使いきってしまった。
今はリオとレイとサンが倒した魔物を解体して取り出した魔石と、自前の魔力で壁を張り巡らしている最中だ。
拠点が無いことには何も出来ない。
従魔に出来そうな魔物はいるが、今はまず壁を整備することからだ。
眠くなる寸前まで魔力を使いきり、従魔に交代で守ってもらい魔力が回復するまで眠るのを繰り返す。
〈少し欲張り過ぎたかな?〉
と思うくらいの拠点が囲い終わるのに2ヶ月かかった。
山からの湧水が涌き出る池とその池からの小川を取り囲むように
ほぼ放牧地だが…なんと親方達の仕事を〈記録〉したので、大小の厩舎と住居を建てる事に成功した。
草食魔物なら牧草と川の水で生活出来る環境、
拠点の出入り口には1トン以上の重さの木製の落とし扉を設置し、扉の中にゴーレム君に魔力を込めて配置をすれば、扉の開け閉め当番になってくれる。
お陰で、皆で狩りに出掛けても、
「あーけーてっ。」
と扉の中のゴーレム君に頼めば、
〈ゴゴゴゴっ〉と音をたててウッドブロックと〈接着〉で作った、だだ重くて硬いだけの落とし扉が持ち上げられる。
皆で入り口をくぐり、拠点の中に入ると、
「お疲れ」
と言ってゴーレム君を土に戻す。
人工ゴーレムコアをアイテムボックスにしまってから、
拠点内部を流れる川の下流の解体場で血抜きをして、皮を剥ぎ、魔石を抜く。
あとは角や牙それに爪や肝など買い取り可能な部位をアイテムボックスにしまい、
肉はほぼ〈お肉大好き〉チームのリオ、レイ、サンのごはん用になる。
拠点の使い心地はなかなか良い具合に仕上がった。
この拠点ではアホみたいに金を稼いで町を発展させる事など考えなくて良いので、
従魔が楽しく住める〈牧場〉があればいいのだが…
〈俺が留守中の従業員が欲しい〉
…ぐらいかな?
しかし、野菜も少なくなってきたし、買い物にも行きたい…
〈よし!町に行くか?〉
と思いたち、アイテムボックスから魔物分布図を取り出して、近くの町を確認する。
この魔の森は帝国領の一番北西に位置する〈ザムダの街〉の更に北に位置する森らしく、最寄りの街が〈ザムダの街〉になるのだが、その街自体に行った事がない…
〈不安だ。〉
ワイズ王国から〈
流石に帝都までは遠すぎる…
俺は、悩んだ末に〈ザムダの街〉に向かう事にした。
ウッドブロックに〈形状変化〉と〈硬化付与〉でパーツを作り〈接着〉で仕上げた、〈持ち手の着いたゴンドラ〉を作った。
リオとレイはお留守番で、ゴンドラに俺だけ乗り込み、〈サン〉にゴンドラを掴んでもらい数時間の遊覧飛行と洒落こみ、
〈ザムダの街〉が見下ろせる高台に降ろしてもらい、ゴンドラはアイテムボックスにしまった。
〈サン〉には周辺で待機してもらう。
流石にドラグーンで街に乗り付ける馬鹿ではない、高台からは歩いて町を目指す。
ザムダの街は、
高い壁に囲まれた城塞に綺麗に円形に成るように街が配置された、
二重の壁に守られた、いかにも頑丈そうな街だった。
街の壁の外には石垣に囲まれた畑や農場に木造の家屋が点在する。
街の門の近くには何か解らないテントが並び市場?のような場所がある
村も街も城もある小さな国家のような街…
実際帝国は国家の集合体だから、ザムダの国なのかも知れない。
市街地の門まで来ると、門兵が、
「身分証をだせ」というので、
以前作ったまま使用してなかった帝国の冒険者ギルドカードを提出した。
「兄さん、その年で〈F級〉かよ、
もっと頑張って早く〈C級〉に成らなきゃ街に入る度に小銀貨二枚がかかっちまうぜ」
と心配してくれた。
「住んでた村が潰れて、最近成ったばかりなんだ、頑張るよ。」
と山田商店で両替してもらった帝国の貨幣袋から小銀貨二枚を渡す。
門兵さんは
「南の方の出身かい?
仲良く成ったはずのセントラル王国が攻めてきたらしいな、
そりゃ災難だったな
まぁ、このザムダ国の街は防御力が自慢だから、安心して拠点にするといいぞ。」
と言ってくれた。
〈感じの良い門兵さんだ〉
と思いながら街に入る。
辺境の街にしては活気のある街で、人々もイキイキとしていた。
最初に冒険者ギルドを探し解体した魔物素材を買い取ってもらう事にする。
街の目抜通り沿いの冒険者ギルドの建物に入り、買い取りカウンターに素材を幾つか出して〈ギルドカード〉を提出し、
職員さんに、
「まだまだ素材が有りますが、カウンターに乗り切らないのですが?」
と相談して解体場に通されて、部屋の端でガラガラと角や爪に皮などを出していく、
ギルド職員さんは、カードを確認しながら、
「ユウさんは、本当に〈F級〉ですか?」
と引いているが、
「従魔が狩ってきたのを解体しただけですよ。」
と答えながら、ポイポイと素材を出していく。
解体場の職員さんが近づいてきて、
「兄さんが解体したのかい?
見事なもんだ、冒険者が嫌になったらウチにきな、これなら即戦力だ。
〈アーマードベアー〉の肝があるが…
こいつの肉はどうした?
高値で買い取りしてるぞ。」
と聞いてくる。
俺は、
「あぁ、ウチの従魔が美味しく頂いちゃいました。」
と答えると、
解体場の職員さんが
「アーマードベアーを狩ってくるくらいだから大所帯なんだろうから仕方ないか…
旨いんだぜ、アレ。」
と残念そうだ。
ギルド職員さんは
「確認と買い取り代金の計算に2…
やっぱり、三時間ください。」
と言われたので街をぶらつく事にした。
野菜を中心に調味料なども合わせて、食糧を買い、
調理器具も欲しいので大きな鍛治ギルド直営の金物屋に寄る。
〈大工道具や釘や建具金物があれば、引戸以外も作れ、厩舎の改造ができる。〉
と思いつき少し衝動買い気味に調理器具とは別に大工道具と釘や蝶番に、
まだ時間があるから、街の露店商をまわって居ると、
奴隷商のテントがあった。
〈お留守番要員に一人来てもらうのもありだな…
時間潰しにもなるし見ていこう。〉
となりテントにはいる。
ガイルス辺境伯の町で見た〈サーカステントの様な大きなテント〉では無かったので、あまり人数の居ない小規模な奴隷商なのだろう。
「いらっしゃいませ、本日はどの様な〈者〉をお探しで?
とヒョロッとした奴隷商人がカタログを差し出す。」
えっ、カタログショッピングなの?と思いながら、
「これは?」
と俺が聞くと、
「商品は壁の外に待機させて有ります。
連れて来るにも一人に小銀貨二枚かかりますので…それに街に入れれない品物もございますし」
と、答えた。
街の外のテント群は彼らの物だったようだ。
「街に入れれないとは?」
と興味本位で聞くと、
奴隷商人はカタログを開きながら、
まぞくの隠れ里が帝国領内で見つかりまして、その村を壊滅させた時の生き残りです。
と説明した。
「魔族ですか?」
と思わず声をだしたら、
「お客様は魔族をご存知ないのでしょうか?」
と確認されたので、
「帝国の端の村の出身でセントラル王国のほうで行商していたもので、都会のことは…」
と誤魔化すと、
「南部の国なら知らぬ方が多いでしょう、帝国の北東にある魔王が治める国を昔、勇者様が攻め滅ぼして、帝国領にしましたが、
未だに小競り合いや不法居住が有りまして、たまに下級奴隷として回って来るのですが、魔力はあるが体力がなく不人気な商品となっております。
どうでしょうお客様、入れぬ街も有りますが、行商の馬車の管理用の奴隷にお一人…
なんならもう一人居るのでまとめていかがでしょう?
捨て値で構いませんので是非」
と、強めにセールスしてくる。
「金額を聞いて、直に見てみないと…なんとも。」
と答えると、細身の奴隷商人は、
「魔族の貴族とやらの男と抱き合わせで引き取った商品ですが、貴族は直ぐに売れましたが、オマケの魔族は売れ残り、西の果てのこの街まで来てしまいました。
二人まとめて引き取って頂けまるのであれば、経費の大金貨一枚ずつの計大金貨二枚で結構ですので是非。」
とスッゴい笑顔でしゃべってくる。
どうしよう?
「一応聞くけど、セントラル王国金貨でもいい?」
と聞くと、
「全く問題有りません。」
と応えたので、
〈用事が済んで、本人見てからね。〉
と言って奴隷商を後にした。
まぁ、拠点のお留守番だから真面目な人なら人種は問わないけど…
魔族かぁー。
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