第117話 腐らずに頑張れ!と願う男

別室に移って〈乙女会〉のメンバーに事情を聞いたジェルバ様からバトンタッチされた俺は、


ヒルダ嬢以下、腐女子十五名の処遇を任された。


ヒルダ嬢は、腐りに腐った性癖の27歳、こちはではかなり〈適齢期〉を過ぎているが、性格に難が有るためにジェルバ様も無理に嫁に出さなかったお嬢様、


そして、ジェルバ公爵家にトーマスさんやシルビアさんが勤めていた時からの古参のメイドさんと、料理人に護衛の女騎士とバリエーションにとんだメンバーで、


〈乙女会〉という組織を作り、


薄い本を作り、ヒルダ嬢が社交シーズンに各地の顧客に納品し、お金を貰い、ソレを元手に次回の薄い本の制作に取り掛かるサイクルらしい。


今回の『コバルト君とワイバーン様のお風呂物語』が社交シーズン前に全て回収出来た事は不幸中の幸いだったかもしれない。


一足先に〈乙女会〉のメンバーが楽しむ風習に感謝だ。


過去作品をもって来させたら、


王国の騎士団の団長と団員が訓練所で…とか、


軍務卿がその団長を〈目覚め〉させた時の物語とか、


とある公爵が屋敷の庭師の青年を…


〈コイツ親父まで薄い本にしてる!〉


ジェルバ様はソレに目を通したのち、


「奴隷などでは済まぬかも知れない、


これは、刑場にて首が並ぶ…」


と青ざめている。


その言葉を聞き、トーマス夫婦も膝から崩れる。


養女むすめだけでは無く、弟子とも云えるメイド達の多くが刑場送りに成るかも知れない事を知らされたからだ。


なんと、言ってもこの王国の文化が遅れているのが原因の1つ、


俺自体は〈腐り文化〉は個人が楽しむ分には良いと考えるが、コイツらみたいに楽しむ為に〈誰でも薄い本〉にして良いとは思っていない。


俺はヒルダお嬢様に、


「ヒルダさん、現在の顧客は何名居ますか?」


と聞くと、


「百名余りでございます。」


と答える。


百名ならば何とかなるか?


過去作品を全て回収させてから、〈乙女会〉を解散させて…全員奴隷に落として奴隷商人を何人か挟み、名前を変えたらあるいは…


よし!決めた。


「ジェルバ様、この者達は私が奴隷に落とすなり何なり好きにして良いのですか?」


と俺が聞くと、ジェルバ様は、


「娘は追放し、使用人達は解雇だ。


奴隷に落とすなり、衛兵に突き出すなり子爵の気の済む様にしてくれ、


命ばかりはと願っておったが、それも叶いそうにない…」


と過去作品に目をやり、ため息をつく。


トーマス夫婦も小さく頷きアンナちゃんとミーアちゃんの処遇を委ねてくれた。



俺は乙女会の前に歩み出て、


「皆さんの身柄は私が預かる事になりました。


家も仕事も失くなった皆さんには、


今から死ぬ……気持ちで、


これまでの最高傑作の薄い本を作って頂きます!」


と、俺が宣言すると、


ジェルバ様やトーマス夫婦は勿論、乙女会の面々も驚いていた。


そして、


「これ迄の最高傑作を作り、顧客を回り過去作品全てと交換のみで最高傑作を提供し、それと同時にどの様な組み合わせやどの様な場面に心が踊ったかを聞いてきて、集計をしてください。


しかし、これ迄の題材の様に、実在の人物を連想させる物は禁止です。」


と俺が予定を話すと、


ヒルダさんが、


「其ではイメージが固まらず、〈滾り〉ませんわ。」


と抗議した。


ジェルバ様が、


「黙って聞かぬか!」


と叱った。


「まぁ、まぁ、ジェルバ様も、

皆の命を守る為に全力でやって貰わなければならないので、意見や質問は受付ますから、余りカリカリしないでドンと構えていて下さい。」


と俺がお願いすると、ジェルバ様は「うむ、」とだけ答えた。


「では、皆さんのイメージを試してみましょう。」


と俺が言って、アイテムボックスから一振の〈剣〉を出す。


メイドの数人が、手打ちにされると思い、「ヒイィィィ!」と悲鳴をあげた。


「はいそこ、驚かない。


では、皆さんの〈腐のイメージ〉を全開にして、ここ〈剣〉を見てください。


この剣は聖剣でも魔法剣でもない普通の剣、いわば一般的な騎士です。


いつもは鞘に入っていますが、鞘から抜かれ、他の武器とぶつかり合います。


例えば槍、


槍は中距離ならば剣より強い。


そうですね、近寄りがたい尖った騎士です。


しかし、一度懐まで詰め寄られると、


途端に…」


と俺が語ると、数名のメンバーがハァハァしている。


ジェルバ様やトーマス夫婦は不思議顔でそれを見ている。


「散々外で暴れた〈剣〉だが、

最後には相棒とも云うべき〈鞘〉に…」


と言いながら、俺が〈剣〉を〈鞘〉にソット、かつ、ゆっくりと焦らす様に収めると、


「きゃぁぁぁ!」と興奮した黄色い声が響く。


さすが、異世界でも〈腐のイメージ〉の使い手の想像力は逞しい。


俺はトドメとばかりに〈思い出モニター〉を出して、


薄い本の題材にされる事が多そうなキャラクターを写し出す。

そして、

俺も読んだ事がないので中身は知らないが、広告等にあるその手のイラストを観せると、


〈乙女会〉のメンバーは涎を垂らしながら異世界の強い衝撃に耐えている。


〈なぜそんな事を知ってるの?〉


みたいな目で婚約者組と弟子がこっちを視ている。


〈視線がイタイ〉


今の所、乙女会とやらに絡んで〈損〉しかしていない…


でも、俺は必死に折れそうな心を守りつつ今後の予定を続ける。


「過去作品を差し出した者には、今後の作品を買う権利が与えられ、一冊でも隠し持った者には未来永劫、薄い本の販売をしない方針を顧客に伝えて、


過去作品の回収と処分を始める。


そして、回収が済めば、皆さんには一旦奴隷になり名前を捨てて貰い、私の商会に買われてもらいます。」


と俺がいうと、ザワザワしだす乙女会、


ジェルバ様が、


「えぇい、騒ぐな!


死ぬよりもマシであろう、


子爵殿は、要らぬ出費を払ってでも、お前らを助けようとしてくれておるのだ、名前ぐらい痛くも痒くも無いだろう?!」


と叱りつけると〈シーン〉っとなった。


「その後はウチの商会の出版部門として働いてもらいますが、


老若男女問わずに読める本を作り続けて貰います。」


と、俺が告げると、メンバーから落胆のため息が漏れる。


ジェルバ様はイライラしているが、構わずに進める。


「しかし、一年に一度だけ会員限定で薄い本を販売する事を認めます。」


と発表すると、また、ザワザワしだす。


ジェルバ様が〈ウォッホン!〉と咳払いをすると、すぐに静かになった。


俺は、


「でも、その題材は、その年に自分達が作った物語の〈架空〉の物に限ります。


奴隷になり、名前と過去捨てて貰いますが、


〈腐らずに頑張ってください。〉


私からの提案は以上です。」


と締めくくった。

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