第116話 腐ったメイドに頭を悩ます男

あっ、ブルーが泣いている、


新たなトラウマを作ってしまったようだ。


そして、トーマスさんが珍しく激怒しているし、


シルビアさんが泣きながら詫びている。


それを元主人のジェルバ公爵様と一緒に見守っている。


…カオスだ…


アンナちゃんとミーアちゃんがシュンとしながらトーマスさんのお説教を聞いている。


そうです。

今回の俺とブルーの薄い本は、なんと、この二人の作品だったのです。


あまり大事にしたく無かったのだが、ジェルバ様が乗り出して来たから、そうもいかない…


二人も〈乙女会の誓い〉とやらで最初は沈黙を保っていたが、


怒ったジェルバ様の、


「疑惑のあるメイドを全員解雇する!」


の発言で〈アンナちゃん〉が物語を書き、〈ミーアちゃん〉が挿し絵を描いたと白状した。


しかも、〈乙女会〉とやらは玄人裸足の印刷技術を保有しているようだ。


絵から精密な版画を作成可能で、


王都の中に秘密の活版印刷場を保有している秘密組織らしい。


しかし、構成員の事になると再び口を閉ざす二人、


読まなくて良いのに、しっかり最後まで読んだブルーが魂が抜け出た後の〈脱け殻〉と化している。


〈パパが見えてるかもな…〉


などと哀れんでいると、


シルビアさんが泣きながら、


「どうか、お許しを…

修道院に入れますので、どうか、どうか、二人の命ばかりはお許しを…」


と俺やジェルバ様にすがりつく。


トーマスさんが、


「馬鹿者!

自分の主人を貶める物を作り、

その事を主人に問われて口を閉ざすとは、お前達二人にメイドである資格はない!


…そして、私たち夫婦にも、その様な愚かな娘しか育てられなかった責任がある…」


と言い放ち、ゆっくりと俺の前に進み出て、


「ご主人様、勝手なお願いを申しますが、この老いぼれの退職金代わりと思い聞き入れては頂けませんでしょうか?


どうか、私の首一つで養女達の命は、どうか、ご容赦を…」


と頭を下げる。


その様子と、養父ちちおやの決意を見た二人が、泣きながら、


自分達が悪いから、裁くなら自分達だけを裁いて欲しいと懇願するが、頑なに乙女会の構成員については話さなかった。


腐ってもメイドと言うべきか、秘密は死んでも話さない気迫…


?主人の有らぬ噂を垂れ流した時点で、メイドとしては腐っているのか…?


?趣味が腐って…?


…よく分からないが、


作品はともかく、俺は、乙女会の印刷技術には興味がある。


それに、ここで貝に成っている二人をこれ以上攻めても仕方ない。


「ジェルバ公爵様、ここでどうこう言って居ても根本的な解決にはなりません。


どうでしょう、一度皆で王都に行って、〈乙女会〉全員に話を聞きましょう。」


と、俺が提案すると、


俺が、本気で〈乙女会〉を潰し、構成員の命を奪うと思ったのか、


アンナちゃんが、


「御姉様方は関係ない、私が勝手にした事です。」


と騒ぎだし、ミーアちゃんも、


「お嬢様は私達に発表の場を与えてくれただけです。

命を奪うのは私達だけにしてくださいませ。」


とすがりつく。


しかし、二人の口から出た、


〈御姉様方〉と〈お嬢様〉に心あたりが有る様子のジェルバ様は、頭を抱えて天を仰いでいる。


そして、ジェルバ様は、


「すまぬが、この者達と、あと我が養女ライザも含め、子爵の他の婚約者も一緒に我が屋敷に来てくれぬか?」


と頭をさげて、


「どうも、我が娘が一枚噛んで居るようなのでな…」


と寂しそうに話した。


ミーアちゃんは〈しまった!〉という顔をして、


アンナちゃんは、


「もう、ミーアは!」


と怒っているが、


それを見たトーマスさんに、


「お前が怒れた立場ではない!」


と再び叱られていた。



婚約者三名にBL本の被害者の俺とブルーを乗せた馬車は、ジェルバ様の馬車隊の後ろを追いかけて王都のジェルバ公爵邸に向かった。


今回の問題の説明を婚約者チームにして、例の薄い本を見せる。


サラは〈クスッ〉と笑って俺とブルーをみて〈お気の毒様〉と俺に念話を飛ばした。


アイシャさんは食い入る様に薄い本を一気に読み、真っ赤な顔で俺やブルーを見てから、再度読み直す。


ライザさんは、読む前から本の製本技術などから、


「ヒルダ御姉様の〈趣味の本〉ですわね」


と見抜いた様子、


〈ヒルダ御姉様〉についてライザさんに、聞くと、


花嫁修業の時に仕切りにライザさんを仲間に引き込もうとしていたらしい。


ライザさんは、


「趣味をとやかくは言いませんが、

貴族家の当主を貶める物を作るとは、

愚かな行為ですわ…」


と静かに怒っていた。


馬車に揺られながら本を読み続けたアイシャさんが盛大に酔いまくり大変な事になりながら王都に到着した。


ジェルバ様のお屋敷に着くなり、


「使用人全員とヒルダの馬鹿を縛ってでも広間に連れてこい!」


とジェルバ様が兵士に指示をだした。


暫くして隠れたり、逃げようとしたメイド数名とお嬢様が縛られた状態で、他のメイドさんや使用人さん達と共に広間に現れた。


ジェルバ公爵様は縛られたお嬢様に、


「ヒルダよ、申し開きはあるか?」


と聞けば、お嬢様は、


「誰がバラシましたの?

誓いを破ったのは誰ですの?」


と騒いでいる。


「黙らぬか!」


とジェルバ様に怒鳴りつけられ


「ひっ!」っと小さく叫び、静かになるヒルダお嬢様に


ジェルバ様は、


「お前の趣味か何かは知らないし解ろうとも思わぬ、


しかし、他家の当主を貶める物は許せるものではない!」


と、叱っている。


すると、アンナちゃんが


「ジェルバ公爵様、お嬢様は悪くありません」


とお嬢様の前に駆け込み土下座をした


ミーアちゃんも、


「私達が、悪いのです」


と、アンナちゃんの隣で土下座をする。


しかし、ぶちギレモードのジェルバ様は、


「トーマス!シルビア!

養女むすめ達を引っ込めろ!!」


と、怒鳴り付ける


トーマス夫婦は二人を引きずってジェルバ様から離れた。


ジェルバ様は再び、


「ヒルダよ、何故ゆえドラグーン子爵を貶める様なまねをしたのだ?!


この様な卑猥な本まで作り、お前は我が公爵家を滅亡させたいのか!!」


と、叱りつける、


しかし、ヒルダ嬢は


「我が家を滅亡などと大袈裟な、


我が家の援助で成り上がった子爵家の、しかも、私の妹に成ったライザの婚約者、つまり弟を題材にして何がいけないんですの?


それに、卑猥な物ではなく〈尊い作品〉ですわ!」


と反論するが…


〈この女、色々な意味で腐ってるな…〉


ジェルバ様は静かに、


「馬鹿者、


考え違いも甚だしい、ドラグーン子爵の商会立ち上げ資金は、彼に非礼を働いた私からの詫びの代わりだ、


しかも、彼はがむしゃらに頑張り、既に投資金の、三倍以上の配当金を納めてくれた。


婚約者のライザも、私が無理を通して養父として彼と縁故を結ばせて貰う立場だ。」


と諭す。


父親の言葉に驚くヒルダ嬢だが、


しかし、ゆっくりと事態を把握し青ざめる。


「父上、私は、あたくしは…?…」


と絞り出すヒルダ嬢に、ジェルバ様は、


「そなたを追放する、以後家名を名乗る事も禁止する。」


と告げると泣き崩れるヒルダ嬢、


そして、


「この件に荷担した者は前に出よ!


今であればヒルダ共々〈我が家から追い出すだけ〉で許してやる、


しかし、後日新たに関係が明るみに出た場合その命をもって詫びて貰うことになる。」


と宣言すると、


十三人のメイドや使用人が名乗り出た。



そして、

アンナちゃん、ミーアちゃんも含めた〈乙女会〉の構成員が全員集合して俺等の前に並ばされ、


ジェルバ公爵様が、


「ドラグーン子爵殿、誠に勝手な願いだが、この者達の命だけは許してやって欲しい、


不敬罪を犯した犯罪奴隷として奴隷商人に売り払った金銭を賠償金の一部として納めて頂きたい。」


と涙を堪えながら俺に頭をさげた。



さてさて、どうしてくれようかな?


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