第8話 料理を伝授する男

翌日、狩りに向かうサラとガルを送り出したあと、

俺は宿屋に留まり、

何時来るのか解らない料理長さんの迎えを待っていた。


オヤジさんと、女将さんにアイシャちゃんとタタン君の宿屋一家とお茶を楽しんでいると、ザワザワと宿屋の前が騒がしく成ってきた。


「何事だい?」


と女将さんが玄関に向かうと、馬鹿みたいに豪華な馬車が宿屋の前に止まって、今まさに中から持ち主が出てくる所であった。


「ご領主様!何ですかこの豪華な馬車は?


いつもみたいに普通の馬車でしたらこんな騒ぎに成りませんのに。」


と女将さんが騒いでいる。


「ワッハッハ、女将よ許せ!

我が家の料理長が師匠を迎えに行くと申しておったので、我が家としても、最高の形でお迎えしたいと考えての事ゆえ、


町の皆も朝からすまなかった、騒がせておる。」


と、陽気なオッサンの声がした。


「宿屋のオヤジの料理旨いからな」とか、「食堂だけの利用が出来れば良いのに…」などと町の人達は宿屋のオヤジさんが料理長の師匠に任命されたと勝手に納得して、ワラワラと各自の仕事に戻って行った。


陽気なオッサンは執事さんやメイドさん数人で宿屋に入ってきて、


「ユウよ、早くB級にしてくれと冒険者ギルドに頼んでおったのに、今回のパーティーの為の食材を集める指名依頼を出したかったが、頑なにB級に成るのを嫌がっておるそうではないか?!」


と拗ねるオッサンは、この町の〈ご領主様〉である。


「ご領主様、指名依頼で無くとも、同じ宿屋でたまに並んで晩飯を食っている仲間だから、お願いしてくれたら肉ぐらい取って来ますよ。」


と、答える俺に、


「料理長から、


〈ここの宿屋の旨い料理はユウが大将に教えていたらしい〉


と、昨晩聞いて驚いたぞ!

なぜ、黙っておったのだ知らぬ仲でもないのに…」


と膨れるオッサン…。

これが、この町のトップで大丈夫かと心配になるが、まぁ、悪徳領主で無いことは確かだ。

料理の勉強と言っては屋敷の料理長達と食べ歩きが趣味の食い道楽で、この宿屋にもちょくちょく顔を出していた、気さくなご領主様である。


「ご領主様、この料理は俺が教えたと仮に言ったとして信じますか?」


と俺が聞けば、


「うーん」と悩んだあとで、

「酔っぱらいの戯言と思うだろうな。」


と答えるご領主様


「だから言わなかったんですよぉ」


と俺も膨れてみせた。


「ワッハッハ、なら、仕方ないな!」


とご機嫌になったオッサンは、

スッっと真面目な顔になり、


「では、ユウ殿、我が家の料理人にレシピの伝授をお願いいたす。


今回のパーティーでは王国中央の貴族達が来るのだ、〈辺境伯の娘は田舎者〉と嫁に出した後も言われては娘が可哀想だから…頼む。」


と改めて頭を下げるご領主様。


「ちょ、ちょっと止めて下さい。


頭を上げて下さい!」


慌てる俺を見て〈シテヤッタリ〉と満足気なご領主様の一団に連れられて、豪華な馬車でお屋敷に向かう事になった。


この町一番の大豪邸に着いた俺は、玄関に並ぶお屋敷の従業員に出迎えられて、「あぁ、このオッサンは〈お貴族様〉なんだな。」と改めて実感していた。


料理長が一歩前に出て、


「お待ちしておりました師匠。」


と言って来たので、


「止めて下さい、ユウとでも呼んで下さい。」


と〈師匠〉を断固として拒否した。


「では、ユウ殿、本日の御指南宜しくお願いします。」


と料理長以下十人の料理人が頭を下げてきた。


俺も負けじと頭を下げてみたが、料理長から「止めて欲しい」とストップを食らった。


もう、どうして良いか、こういう時の普通が解らない…



屋敷の方々の中心に、サラ位の背丈の少女が立っていた。


「ユウ殿、娘のマリーに逢うのは初めてかな?


マリー、ご挨拶を」


とご領主様がいうと、


「ガイルス辺境伯が娘、マリアローゼ・ファン・ガイルスです。

どうか、マリーとお呼び下さい。」


と、丁寧な挨拶をしてくれた。


ご領主様…ガイルス辺境伯様とおっしゃるのね…。


今の今まで知らなんだよ。


気さく過ぎるのも考えものだな…



でも、目の前の少女が中央のお貴族様に舐められるかどうかの大勝負に成るのか…


俺は暫く考えた、


そして、


〈よし、出し惜しみせずに、旨い物大好きな独り暮らし男の本領を発揮してやろうじゃないか!!〉


との結論に至った。


屋敷の調理場に案内されて、調理器具を確認すると、流石はお屋敷の調理場だ、


宿屋に無い冷蔵庫があった。


魔法師団の隊員が交代で氷魔法で出した氷の冷気で冷やすタイプの冷蔵庫だと言われた。


〈魔法買う時、氷魔法も候補に入れよう〉


これは便利だ。


出来る事が増えたので、片っ端から知ってる料理を実際に作って食べてもらう事にした。


立食パーティーらしいので、ハンバーガーやピザにサンドイッチ辺りからだろう。


料理長さんが〈クリーン〉の魔法を使えると知り、生卵に〈クリーン〉を掛けてもらった後に〈マヨネーズ〉を作った。


野菜がご馳走に変わる魔法の調味料の完成に料理人達はどよめくが、〈マヨネーズ〉は通過点である。


卵サンドに照り焼きソースモドキのバーガーにマヨネーズソースをそえたり、ケチャップベースのピザモドキを作ってみせた。


ジャガイモでフレンチフライやポテチを作り、キンキンに冷えたエールと合わせたりした。


そして、一番マリーお嬢様に気に入って貰えたのが〈蒸すタイプの固めのプリン〉であった。


延べ一週間使い各種料理を伝授した。


もう、サンドイッチやバーガーならば料理長達は大概作れる、


つまり、カツの技術やハンバーグ等のひき肉料理と合わせて、魔法の調味料〈マヨネーズ〉も使いこなせる王国最先端の料理人チームに成った、



よし、これでマリーお嬢様が舐められる心配はないはずだ。

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