第9話 森で頑張る男
料理指南も終わり、
また冒険者生活に戻った俺は、森でキノコ狩りキャンプをしている。
サラとガルを誘ったが、
〈夜の森はあまり良い印象がなく魔物も強いから…〉
と言っていたので、無理に連れては来なかった。
俺にもガルみたいな相棒が居たら良かったが…
と、嘆いてみても始まらないので行動有るのみだ。
しかし、一人でキャンプしながら換金出来る物を探すって、〈冒険者〉と名乗っているからまだしも、やってることは街角でアルミ缶やスチール缶を集めながら生活されている方と大差がない…
唯一の違いは、猟師も兼ねている所ぐらいだ。
キノコや薬草類に山菜を手当たり次第アイテムボックスに放り込み、アイテムリストをチェックする。
すると、
〈薬草〉
〈美味しい茸〉
〈偽美味しい茸〉
〈眠り茸〉
〈森葡萄〉
等と、出てくるので、
〈偽〉とか〈毒〉と有るものは穴を掘ってポイっとするのを繰り返しながら魔物の罠を巡回する生活をもう五日続けている。
3日ぐらいで、帰ろうか?
とも思ったが、折角来たのと、ガイルス辺境伯様に、〈猪の魔物の良いヤツ〉の狩猟をお願いされてしまったからだ。
〈タックルボア〉という出会えば突進してくる一般的な猪の魔物は2頭血抜きが済んだ状態で、アイテムボックスに入っているが、〈一般的なヤツ〉であって〈良いヤツ〉ではない、
上位種の〈スタンプボア〉という一回りから二回り大きな、出会えば物凄い速さで突進され、体に鼻の形(逆ハート)をスタンプされてしまう猪の魔物を探して罠を仕掛けまくった。
〈サーチ系のスキル〉が有ればどんなに楽だろう。
と考えながら森を進んでいると、俺の罠が丸ごと壊されていた。
壊された感じから、一旦罠に掛かったが、力任せに暴れまくり罠が固定してあった大木をなぎ倒して脱出したみたいだ。
「あーぁ、折角罠に掛かったけど、大物過ぎたな…
面倒臭がらずに、大型の落とし穴を掘れば良かったなぁ…。」
と、後悔していると、
バキバキバキバキっ!!
っと物凄い破壊音と共にワンボックスカー位の猪の魔物が怒りの表情で突進してくる。
「まだ壊したてホヤホヤかよ!!」
と悪態をつきながら走り出す俺に、
罠に掛かったのが相当お気に召さなかった模様で、殺意のこもった突進を続ける〈スタンプボア〉
有難い事に周辺は大木の密集地帯、ワンボックスカーのサイズでは進み辛い事が唯一の救いで、何とか距離を取れたのだが、かといって事態が好転した訳ではない、
兎に角走りながら考えたが、何も浮かばない…
マズイ…
アイテムボックスに岩は入っているが、
俺の最大火力の〈岩雪崩れ〉を食らわすにはヤツの真上を取らなければ成らない。
今さら木登りをしている時間は無い。
走り続けるが、後ろから破壊音が近付いて来る。
その時、前方に小さな洞窟?を見つけた。
〈最悪何かの魔物の住み家であっても後ろのヤツよりマシだろうから〉
と腹を決めて小さな洞窟に滑り込んだ、
直ぐに後ろを振り返り弓を構えて敵に狙いを定める。
〈ビュン!〉と弓が鳴き矢が猪の眉間を目掛けて飛び出す。
〈カン!〉と甲高い音がして、俺の渾身の矢は惜しくも硬い〈逆さハート〉の部分に弾かれた。
次の瞬間、
「ズドーン!!」と大砲みたいな爆音と共に〈スタンプボア〉の牙や鼻先が洞窟の入り口から中にめり込み、俺の前を行ったり来たりしている。
「ひぇー」っと心の中で叫ぶ
少し穴が広がったとたんに諦めたのか、鼻先が後ろに下がった。
恐る恐る外を見ると、ヤツは距離をとり、もう一度突進するべく後ろ足で地面を掻いている姿が見えた。
ヤバい、ヤバい、ヤバい!
何かのスキルを使ったのかヤツの体から魔力の光が漏れる。
マズイ!!
今までに無いスピードで、洞窟ごと俺を仕留めにくる〈スタンプボア〉
「どうにかなれ!」
と叫びながらアイテムボックスから〈デカイ岩〉を取り出し入り口に蓋をした。
「ドーーン!!」
と耳が痛くなる程の音が木霊し、静かに成った。
これは、耳が馬鹿に成ったせいか?
猪に何か起こったせいか?
全く判断が着かないが、恐る恐る岩をアイテムボックスにしまうと、
洞窟の前に白目を向いて泡を吹いて、ピクピクしている〈スタンプボア〉がいた。
俺は慌ててロープをアイテムボックスから出して〈スタンプボア〉の足を固定した後にまわりを一旦岩で埋めてからナイフで足や首の血管を切り裂く、
痛みで目が覚めたスタンプボアが暴れようとするが、もう遅い、ガッチガチに固定された猪君の眉間に至近距離から渾身の一撃を撃ち込む、
矢が猪に吸い込まれる様に刺さり、
〈ビクン〉と震えたあと静かに成った。
試しに猪をアイテムボックスにしまう、
アイテムリストに〈スタンプボア〉の名前が追加された。
岩を片付けて足元を見ると、ガルよりも少し小さい狼が俺の足元で震えていた。
何故か、
〈あの洞窟がこの狼の巣穴で、大変怖い思いをした〉
と直感で解った。
「スマン、お前のお家をボロボロにしてしまった。
お陰で俺は命びろいしたよ。
ありがとうな。」
と、震える狼を軽く撫でて鹿の魔物のブロック肉を目の前に差し出した。
狼はこちらと肉を何度か見た後に、
〈いいんですか?〉
みたいな感じで鹿肉を頬張り始めた。
よしよし、お礼とお詫びも済んだから町に帰ろうと歩き出したが、
狼が後ろをついてくる。
〈いやだ、俺、ターゲットにされてる?〉
と一瞬思ったが、狼から敵意が感じられない、
むしろ
〈ご主人様、何処に行かれます?〉
的な声が聞こえる気がする。
どうしよう、狼の魔物を町にトレインして帰る訳にもいかないけど…
何となく狙われてる気がしないんだよなぁ?
変な幻聴が聞こえるし…
「疲れてるのかな?」
と呟いたが、
〈疲れているなら、少し先の泉で休みましょう。〉
と狼が心配してくれている気がする…
な、なんじゃコリャ?
実際に少し先に泉があった。
しかも狼は泉の畔の木から梨の様な果物をもいで俺に渡して来た。
〈ご主人様どうぞ〉
と言われた気がした。
コリャあれだな、〈テイマースキル〉が生えたな。
と、納得してみた。
この世界では、スキルを買う意外にも何かしらの条件を満たす事でスキルが生える事があるらしいが、俺的に初めての経験である。
コリャ帰ってから冒険者ギルドで調べて貰うか、小銀貨六枚 (約六千円) かかるけど仕方がない。
試しに、狼の頭を撫でたら、
尻尾をブンブン振っていた。
確定…かな…。
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