第11話 金が転がりこんだ男
森に〈美味しい茸〉の採集に行ってから半月が経ち、ガイルス辺境伯様から、
「屋敷に来て欲しい。」
と連絡があったので、リオを連れてご領主様のお屋敷に向かうことにした。
サラとガルはあと少しで依頼達成ポイントが〈D級〉に届きそうなので朝早くから狩に出かけて行ったので別行動だ。
前回の料理指南の事もあり、馬車の迎えを拒否したので、リオの散歩を兼ねてのんびりお屋敷に向かっているのだが、
なぜ呼び出しを食らったのか全く解らない…
〈猪肉〉と〈美味しい茸〉の支払いなら宿屋の晩飯を食べにちょくちょく顔を出すのだからその時で構わないのだが…
こ、怖い。
モヤモヤしながら屋敷に到着すると、数名のメイドさんに案内されて屋敷の応接室に案内された。
中にはご領主様家族がテーブルについてお茶を楽しんでいる最中だった。
「お呼びにより参上致しました。」
と俺が挨拶をすると、
「ユウよ、そういうのは良いから、まぁ、座ってくれ。」
とガイルス辺境伯様が俺にいう、
「あなた、呼びつけておいて、挨拶をして頂いた相手に失礼ですわよ!」
と奥様のお叱りを受けて、
「スマン、スマン。
もう、嬉しくて嬉しくて。早くユウ殿とパーティーの首尾について話したくて、つい焦ってしまった。
許して欲しい。」
と、頭を下げる辺境伯様に、
「毎度まいど、頭を下げないで下さい!」
と慌てる俺、
そのやり取りを見て、クスクス笑うお嬢様…
〈どうも、パーティーは上手く行ったようだな…〉
辺境伯様が興奮気味にパーティーの状況を説明してくれた。
辺境伯家に来た公爵家や王家に縁のある大貴族たちは、初めはマウントを取るぐらいのつもりで辺境伯家のパーティーに来たのだが、
パーティーが始まり来賓が料理に手を伸ばしたら直ぐに会場の空気が変わった。
「あんなに和やかで皆が食べ物の事ばかりを話題にしていたパーティーを私は他で見たことがない!」
と辺境伯様が熱く語っていたが、
お嬢様は、
「おかげで、私とマルス様の婚約の発表会の影が薄く成ってしまいましたわ。
もしかしたら、参加者の中には発表を聞いてすらいないのでは?
と思うくらいレシピ、レシピと騒ぐ方も居られましたわ!」
と、いささかご不満な様子。
奥様は、
「しかし、王家の方までレシピを欲しがっておられたので、
娘が中央の貴族の中でも存在感が出せる良い武器に成ったのも確かですよ。
娘の為にあれ程の数のレシピをありがとうございます。」
と感謝してくれた。
すると、ガイルス辺境伯様が、
「それでじゃ、ユウ殿のレシピは王家の知的財産として管理され向こう三年は王家が開催するパーティーで使用され、その後レシピを購入した貴族家のパーティーでの使用が出来る事に成った。
ただ、ご婦人達から戦争を起こしそうな勢いで、〈プリンのレシピは除外で、レシピ購入者はお茶会で出せる様に!〉と抗議が入りプリンは商業ギルド預かりと成った…。
ユウ殿のレシピなのに勝手な事をしてすまぬ。」
と頭を再び下げる辺境伯様、
今度は奥様とお嬢様まで頭を下げている。
「皆さん、どうか頭を上げてください。
別に、あれらの調理はマリーお嬢様のパーティーの成功の為に私からプレゼントした様な物ですので、自由にしていただいて結構ですので。」
と俺は言ったのだが、ガイルス辺境伯様が、
「自由にして良いのであるなら、これを受け取ってくれるな?」
と大きな革袋を出してきた。
「これは?」
と俺が聞けば、辺境伯様が、
「レシピに対しての王家からの買い取り分と商業ギルドからの〈プリン〉のレシピの販売料金と、王家指定の菓子店でのプリンの販売についてのマージンなど諸々だ、受け取ってくれ。」
と革袋の口を緩めると大金貨や小金貨等がジャラジャラと出て来た。
怖い怖い怖い!
「えー、王家からお金なんて貰えませんよぉ。
恐ろしい…
ご領主様、悪いんですけど、ハンバーグやカツのレシピは王家にプレゼントしますからお金を王様に返してくれませんか?
その代わりマヨネーズだけは辺境伯様預かりでこの領地の産業に出来ませんかね?
俺もマヨネーズ使いたいし…」
と、お願いしてみた。
ガイルス辺境伯様は、
「うーん、困ったな…
しばらく時間をくれぬか?」
と言われたので、
「いくらでも待ちますし、未だ出して無いレシピだって有りますので、追加で王家に出しても構いません、余り悪目立ちしたくありませんので、どうかこんな大金は勘弁してください。」
と、一旦お金を辺境伯様預かりにして、猪肉と美味しい茸や山菜等の料金として、大金貨三枚と小金貨八枚 (三百八十万円)を貰いソソクサと逃げ帰った。
怖い怖い、いきなり王家とかハードル高いよ、
王家なら冷凍庫有るかも知れないから、アイスのレシピとか…今回出さなかった甘味のレシピとか思い付く限り書き出しておこう。
猪肉の代金だけでも手が震えるのに…
あの革袋なんか持った日には〈暗殺者が来るかも〉って怯える日々を暮らさなきゃいけなくなりそうだ。
このお金で、身体強化とか索敵のスキルみたいな実用的なスキルを買おう。
買えるはずだ、
炎魔法なんて贅沢品は後回しだ!!
ヤバく成ったら逃げれるスキルも要るかな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます