第128話 勝ち取る為に失う男

松下 竜司の従魔…


日本人が関わっている。


ワイズ王国の〈流れ人〉かな?


話し合いでどうにかは…無理だよなぁ


等と考えていたら、


肩に衝撃が走る。


遅れて「パン!」と乾いた音がこだまする。


肩当てに穴が空き腕を真っ赤な血が伝う。


〈撃たれた?〉


と思ってから、じわじわと熱いような痛みが込みあげる。


「痛っ!」


二百メートルは離れているので、魔法やスキルとは考えにくい。


ハイポーションを飲みながら考えるが、狙撃さたれたとしか思えない。


魔鉱鉄と地竜の鱗の鎧の肩当てを遠距離から貫通させたのだ。迂闊に近づくわけにはいかない。


ブルードラゴンが飛ばずにノッシノッシと歩いているのも気になる。


ここで、初めて俺がポーションを飲んでいるのに気づいたノーラ騎士団長が


「ご主人様、いかがなさいました?」


と聞いてくるので、


「撃ち抜かれた!

ドラゴンだけじゃない、別の敵がいるから余り近づくな!」


と答える俺、


「何と、この距離で当たるどころか傷を…」


と驚くノーラ騎士団長は、

暫し考えたあと、


「ご主人様、遠距離攻撃の敵をあぶり出します。


ご主人様は敵のサーチに専念して下さいませ。」


と言ってワイバーン騎士団は編隊を組みぐんぐん上空を駆け上がる。


そして今まで見たことがない高さから岩をばらまく。


岩は木々をなぎ倒し、ドラゴンの羽を貫きダメージを与えている。


そして、狙撃した敵は探すまでもなく、


ドラゴンの足元でバリアを展開している。


そいつは岩の雨が降りやむと、ドラゴンに何かを与える。

すると、みるみる傷ついたブルードラゴンが回復する。


〈エクストラポーションか?〉


ぼろ雑巾まで追い込んだブルードラゴンが、何か指示を受けたらしく、ワイバーン騎士団めがけて飛び立つ。


俺はこの隙に、リオ・レイ・ミーを召喚した。


「前方の敵を倒す。


俺がサブローで空から攻撃をして注意をそらすから、散開してチャンスを伺い敵を倒せ!」


と指示をだす。


リオとレイは「グルッ」っと唸った後に左右に別れて走り出し、


ミーは、〈任せて!〉と言ったあと、木々の影に潜った。


俺はサブローで、プチメテオで荒れ地に成った場所に立つ人物を目指す。


遠距離攻撃が有ると解れば、殺り様はある。


ワイバーン騎士団と同じく、超上空からの〈プチメテオ〉に合わせて降下して接近する!


サブローに全速力で相手の真上を取らせる。


時折「パン」と乾いた音がするが、全力のサブローが一枚上手のようだ。


「いくぞ、サブロー」


と叫ぶと、


〈了解!〉


とサブローが答える。


アイテムボックスから岩をばらまき、その岩の影に隠れて急降下を始める。


アイテムボックスから魔杖を取り出して魔法の射程まで降下してからバリアを張っている相手に〈ターゲット〉を合わせて、ランドセルの魔石の続くかぎり〈集中〉つきの魔法を打ち込む。


ヒビが入りきしみだすバリアにランドセルの魔石を使いきる魔力を注ぎ込み、〈ターゲット・集中・ストーンフォール〉を放った。


巨石の質量の岩が砲弾の速度でバリアを貫く!


〈やったか!?〉


と考えたその瞬間、


〈し、しっかり掴まって、くだ…さい〉


とサブローの声が聞こえ、


サブローが体勢を崩し落下する。


ギリギリ胴体着陸で俺は無傷だったが、


…サブローは胸を撃ち抜かれ、


既に事切れていた。


死してなお、無事に俺を地上に降ろしてくれたのだ。


俺は、怒りや哀しみ…、訳の解らない感情に飲み込まれそうになるが、


〈サブローが命と引換にくれたチャンスを逃しては駄目だ!〉


と冷静になり、敵に走り寄る!


顔色の悪い男は片腕がもげた状態で叫んでいる。


「痛ってぇぇぇ!

んだよ!糞がぁぁぁぁぁ!!」


と俺を睨みながら


懐から小瓶を取り出して飲もうとする。


そこへリオとレイの〈噛み千切り〉が決まり


敵は小瓶を飲む事ができなかった。


残された腕と片足をもがれた薄紫の肌の男は、痛みに顔を歪めながらも落とした小瓶を飲もうともがくが、


影から現れたミーに押さえ付けられる。


観念したのか、


「んだよ!ジジイ…王国は頭の悪い猿ばかりじゃねーのかよ!


痛ってーよー、んだよ帝国の奴ら!

無理やり連れて来やがったのに、自分等は何もせずによぉー!」


とぶちギレている。


帝国の一味なのは解ったが、


…どうしてくれよう。


と考えながら男を見ていると、


「てめぇは何だよ、」


とミーに押さえつけられながら吠える男に、


「セントラル王国のドラグーン子爵だ、

お前こそ誰だ?」


と聞くと、


「松下竜司…だった男…

帝国の奴らに無理やり〈魂のみの召喚〉をされて魔族の体を与えられた、お前らの言う〈流れ人〉の〈モドキ〉だ。


そして…元の魔族の命を使い捨て…〈二度死ねる〉男だぁぁぁぁ!!」


と叫ぶと奴はミーをはね飛ばす程の魔力を爆発させた。


砂煙が消えた時には、やつの身体は完全に回復しており、背中の翼で飛んでいた。


「クソ!てめぇのせいで、俺の〈強み〉が1つ減っちまったじゃねぇーか!!


代わりにてめぇのスキルを1つ奪ってやるよ。」


といった瞬間に、俺の身体から何かが抜け出て煙状になる、


そして、煙の様な物はヤツの右目に吸い込まれた。


「何が出るかな?何が出るかな?」


とヤツはご機嫌で何かを確認している。


そして、ヤツはガッカリして、


「んだよ、ハズレかよ!

従魔召喚って、あそこで死にかけてるドラゴンしか呼び出せないじゃねぇーかよ…


〈スキル奪取の魔眼〉って対象1人に一回だけの運ゲーだからな…


帰ったら運気上昇アイテムでも探すか?…」


と言って背中から羽を出して空に舞い上がり、アイテムボックスからまたべつのライフルを取り出し、


「あばよ子爵さん、恨むんなら頭の悪い猿の王国に生まれた事を恨みな。」


と俺に向かいライフルを撃ち放ち、そのまま振り返らずに去って行ってた。



撃たれた俺は…かすり傷だったが、


心にポッカリ穴が空いてしまった。


ミーが…


影から飛び出したミーが盾になってくれたのだ。


自分が俺の代わりに撃ち抜かれたのに、


〈ご主人、ご主人、大丈夫?〉


と…


「あぁ、ミーのお陰で無傷だよ、ありがとう。」


と優しく答える俺に、


〈ありがとう、ご主人、大好…き…〉


と、ホッとしたように静かに眠るミー…



…松下 竜司、てめぇだけは許さない…


サブローとミーの仇をとる。


必要ならば〈帝国〉でも潰してみせる…


ミーを抱きしめながら飛び去るヤツの背中を睨んだ。

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