第174話 呪いの深さと痛みを知った男

漆黒のドラゴンが近づく、


人に傷つけられて、人を憎んで…


その憎しみまでもオモチャにされた、


哀れな〈カースドラゴン〉が…



甘い考えかもしれないが、助けてやりたいと心から思えた。



しかし、アイツは理性がない状態で、説得は効かない、


下手に近づくと禍々しいブレスを吐く…


遠距離攻撃しか安全な手段がない。


俺は松下に、


「よう、後輩…


魔導銃のストックは有るか?」


と聞くと、


「ストックが3丁有るぜ。」


と言ってアイテムボックスから出して、俺の前に並べた。


エトナ軍からの押収が3丁


俺と松下のを合わせても8丁か…


バリスタもあまり役に立たないかも知れないが、あの足の輪っかさえ無くなれば、何とかなるかも知れない…


本当ならば〈呪解〉が魔導銃で打ち出せれば楽な話なのだが、


〈呪解〉は、触れた対象の呪いを消す魔法、


打ち出す事は出来ない〈アドラとメレクの奴隷紋〉を消す時に実験済みだ…



考えに考えた末に、


〈この手しかないかも〉


という作戦を閃く。


〈念話レッドキャップ〉で指示を出す。



〈えー、次の作戦を通達する。


魔導砲台の一撃を合図に作戦を決行します。


作戦の準備として、


まず、魔導銃担当者は医務室まで銃を持って集合、


続いて、親方バリアー隊は三人一組で、各組にアイテムボックス持ちを1人は配置する様に組分けし、フル装備で医務室まで来てください。


バリスタ隊の指揮はガルド騎士団長に任せます、


目や翼膜など弱そうな所にバリスタを撃ち込み、粘らず退避する予定で動いて下さい。



ブレスの威力は未知数だが、奥にいたグリーンドラゴンの比ではないモノです。


遠距離攻撃が無理そうなら、


親方チームが魔導銃を使い遠距離から〈ピットホール〉大穴と、〈ストーンウォール〉で壁の林を作り、凸凹で移動の速度を可能な限り落として、


ワイバーン部隊のメテオレインで奴を埋め立てから、呪解の作業に移ります。


親方チームも、穴や壁がある程度出来たなら退避して下さい。〉


と指示をだした。


魔導銃4丁は魔石ランドセル持ちの親方三人に対して1丁渡して、


交代制で、魔導銃担当、バリアー担当、魔石補充担当で休まず四方から穴を開けて、壁をつくる様にお願いする。


残りの魔導銃は松下と、


魔石ランドセルを背負った、


俺と弟子二人に渡した。


短い時間で魔導銃担当者から扱いを習った親方達は配置に着くために移動を始める…


それから暫くして、


念話で、


〈目標、間もなく射程に入ります。〉


と連絡が入り、つかの間の休息は終了した…




サンに乗り、ワイバーン騎士団と上空で待機していると、


念話で、


〈魔導砲台準備完了です。〉


〈魔導砲、放て!!〉


と聞こえ、


〈ズドゥム!!〉


と腹に響く音が鳴り、弾丸がカースドラゴンの足首を撃ち抜く、


〈命中!〉


と、遠くヨクミエールで確認している兵士からの報告が念話で入る。


カースドラゴンは、いきなりの攻撃に慌てながら四方八方にブレスを撒き散らす、


すると、ブレスに当たった森は一瞬で枯れて砂の様に崩れ去った。



…ヤバイ、ヤバイ、ヤバい!!…あんなものどうする事も出来ないだろ…



〈滅びのブレス〉と云うべき禍々しいブレスは、カスッただけで人生終了するタイプの攻撃だった。


そんな中で、ブルーからの念話報告が入る、


〈師匠、右足から出血が有りますが、足の輪っかは無傷です。


眼鏡を使ってアイテム鑑定した結果、


〈ミスリルの隷属の足枷〉


〈隷属の呪い付与〉


〈不壊〉


の効果が有ります。


外部からの破壊は困難かと…〉


と言ってくる。


ヤバイ呪いと壊れないスキル…


えげつない…第13研究所の奴ら人間じゃねぇな。


俺はブルーに、


〈俺が直接呪解する〉


と指示を出して、


少し離れた位置に降り立ち、岩に隠れながら接近し、


カースドラゴンの足元にたどり着く、


ヤツは、砦の砲台や、ドラグーンやワイバーンにペガサスが射程ギリギリをうろつき、注意が足元に及んで居ない、


飛ばない今しかチャンスは無いかも知れない…


アイテム鑑定眼鏡と鑑定スキルの併用で効果が上がったので、


呪解の腕輪と呪解スキルの併用でも効果が上がるのを期待しつつ、


血まみれの足枷に触れて〈呪解〉を放つ、


背負った〈魔石ランドセル〉からの魔力供給を使いながら〈呪解〉を続けると、


足元からの青白い光に気がついた〈カースドラゴン〉が呪解の光を嫌って足を引く、


タッチの差で足枷は左右に別れて外れたが、ヤツの足の傷から吹き出た血が俺の腕にかかると、籠手の無い左手の手首辺りが真っ黒になり動かなくなる…


左手の手袋を外すが指先迄黒く変色している、


どのタイミングで?


と考えるが、


〈兎に角この場を離れなければ〉


と、ヨタヨタと移動をはじめる。


俺の異変に気がついたサンが急降下して、


俺を摘まみ安全圏に離脱して降ろしてくれた。


ブルーが駆け寄り


「師匠!」


と心配している俺は動かなく成った左手の袖をまくると、


ジワジワと黒色が肘近くまで上がってくる。


咄嗟に俺は腕を横に差し出して、


「ブルー!」


と叫ぶと、状況を察した弟子は阿吽の呼吸で、


「承知!!」


と言って、父親の形見の氷属性の魔剣で俺の左腕を切り落とした。


激痛が襲う、


「んぅぁがぁぁぁ!」


と唸り声を上げる俺だが、傷口は氷で塞がっているので大量出血には至らない、


半泣きのブルーが


「師匠、師匠!」


と言いながら〈クリーン〉や〈呪解〉を念のため掛けてくれた後〈エクストラポーション〉を差し出してくれた。


俺と弟子二人と騎士団長のみに一本ずつ支給した物だ…



クソ不味い液体を飲み干して、


一息つき、


「有り難うブルー、助かったよ。」


と礼を言うと、


「師匠、よがっだぁぁぁぁ!」


と張りつめた糸が切れた様で、俺に抱きつき泣いている。


切り落とされた腕は真っ黒に成った後で崩れ去った…


アイツの血までも呪いが詰まった〈呪物〉の様だ。


咄嗟で頭が回らなかったが、〈クリーン〉で血を取り除いてから、〈呪解〉をつかえばハイポーションでも何とか成ったかも…


しかし、

生きながら体を切り取られる痛み…これをアイツは何回も何回も…


〈助けてやらなければ〉


と心に決めて、魔石ランドセルを満タンにしてから、サンに股がり戦いに戻る。


すると、バリスタ攻撃も終了し、


親方達の作戦も終了していたが、


予想外だったのが、


〈隷属の足枷〉が外れて、まともな思考が戻ったカースドラゴンが空に逃げた事だ、


〈これはイケない!〉


俺は念話で、


〈全員退避!〉


と指示を出すが、カースドラゴンが一歩早く〈滅びのブレス〉をバリスタ兵やワイバーン騎士団に撒き散らす。


俺の目の前で砂になる兵士達…


数は少ないが、確実な〈死〉を見せつけられて心が折れそうになる…


〈ここで踏ん張らなければ街ごと殺られる…〉



しかし、ここで気がつく、


…泣いている…?


カースドラゴンが泣いている!


〈痛いよぉ、苦しいよぉ、みんなぁどこ?〉


と怪我した迷子の様に泣きながら〈皆〉を探している。


俺は念話で、


〈竜人の側に居るもの答えてくれ!〉


というと、


〈我が王よ、私ガルドめが彼らと居ります。〉


と返事が有った。


〈その中に元々ドラゴンの世話係がいるか聞いて。〉


と聞くと、


ガルドから


〈数名居ります。〉


と返事がきた。


俺は、


〈ワイバーン騎士団と連絡をとって、彼らがドラゴンに呼び掛けれる様にして。〉


と指示をだすと、


〈承知しました!


そのドラゴンの名前はドルクだそうです。


どうか、御武運を〉


とガルドが報告してくれた。


〈ドルクだな、〉



俺はサンに乗り、〈滅びのブレス〉を避けながら〈ドルク〉に呼び掛る事にした。


頼む答えてくれ…

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