第85話 山田家〈家訓〉を聞く男

えー、今なぜか雑貨屋の片隅でお茶をいただいております。


「土屋さんは本当に日本から?」


とワクワクしながら山田店長が聞いてきた。


「ええ、生粋の日本人ですよ。」


と俺が、答えると、


辞典の様な分厚い本を持ってきて、


「やった、お爺ちゃんの残した日記兼研究資料の中に、漢字という複雑な暗号が、沢山あって長年研究しているが読み解けない所が有るんだよ。」


とキラキラとした瞳で俺にグイグイ迫ってくる。


近い、近いって!!


これは、やっぱり長くなる。

サラ達を別行動させて正解だよ。


「何が解らないの?」


と俺が聞くと、


「俺のお爺ちゃんは興味が有ることにのめり込む性格で、実験や研究ばかりしていた人だったんだけど、

結果の出た研究には全く興味が失くなって、次の研究を始める感じで、

お爺ちゃんの研究を世に出したかったのだけど、研究資料が漢字だらけで…

読めないんだよねぇ」


と俺に上目遣いで「お願い」って言ってくる。


キモい…


「あれ、おかしいな、

死んだお婆ちゃんが、


日本人はこれをすりゃイチコロよぉ。」


と言っていたのに。


と、不思議そうにしている店長に、


「女性と幼子限定だ。」


と言っておいた。


店長に許可をもらいページをめくると、


『どうも、読めていると云うことは、

流れ人などどいう、ふざけた制度に巻き込まれたようだな。


俺は山田 登、あだ名は〈登山〉だ。


二十歳の時に大学の帰りに事故と言うか、魔物が目の前に出て来て殺されて、こちらに来た。


こちらの世界のミスで、魔物が日本に転移して俺が死んだとなって、日本の神様とこっちの神様の話し合いの結果、

体を修復してもらい転移したのだが、こっちの神様は魔物の転移の後始末に神様パワーを使いきってしまって、


馴れない日本の神様が転移させてくれたが、〈学問系〉の神様だったらしく


バリバリ、非戦闘スキルばかりで魔物がいる世界にきてしまった。


だから、後の〈流れ人〉のために研究を行い、結果をこの本に記す…

出来るなら俺より長生きしてくれ。』


と表紙の裏に書いてあった。


「お爺さんはいつ亡くなられたので?」


と俺が聞けば、店長さんは、


「十三年前かな、俺もだいぶ可愛がられてたから泣いたよ。


九十歳だったよ。」


〈長生きじゃねぇか! 〉


「えっ、店長さん何歳なの?」


と九十歳の孫が二十歳前後なのが気になった俺、


すると店長さんは、


「俺が、一番下の孫だから、」


〈だから若いのか、〉


「43になったよ。」


〈オッサンじゃねーか!〉


「お若く見えますね…」


と俺がいうと、


「流れ人の家系は若く見えますからね。」


と答える店長


〈そんなレベルじゃないから!〉


そんなどうでもいい会話よりも、この資料はとても値打ちがあった。


これはヤマダ・ノボルさんの怨念と努力の結晶だった。


『異世界一日目、

大学の帰りに牛丼を食う筈だった。

牛丼の口になったまま異世界にきた。


攻撃できるスキルはないが、検索スキルとやらがある。


どうにかして、牛丼を食ってやる。』


という日記からはじまったその資料には、

米の栽培、脱穀、精米の方法


醤油の製作、大豆の栽培


大豆について、

枝豆の収穫時期や、

豆腐の作成方法…


と、食いたいものを異世界で食べる為のあれこれが、調べて書き出してあった。


店長さんに、


「お爺さんは〈検索〉というスキルで日本の料理を再現する方法を探さしていたみたいですね」


と教えてあげると、


「トンカツの作り方は有りますか?

親父は幼い時に食べたらしいのですが、その後は違う物に没頭したお爺ちゃんはトンカツを作る事は無くなり、


俺は食べた事がないんだ。

味を知ってる親父は、説明が下手だが、〈兎に角旨かった〉と言っていたが、

いまは…」


親父さんの事、なんか不味い事を聞いたかな…


「俺も食ってみたいのだが、漢字にてこずり〈トンカツ〉のページを見つけたがどうともならず。


悔しい、我が家の家訓は

〈食いたい物は死んでも食う、

努力を惜しまず食うまで死なない〉

ですから…諦めなくて良かった。」


俺は店の奥を借りて、〈トンカツ〉を作ってやった。


お爺ちゃんのトンカツのページを説明しながら…


完成したトンカツを食べながら店長さんは涙を流し、


〈旨いよぉぉぉぉ。〉


とトンカツを頬張っていた。


すると奥から初老の男性が現れて、


「わぁ、トンカツじゃねぇか!」


と騒ぎ出す。オッサン


「親父、ギックリ腰なんだから寝てろよ!」


と店長が注意する。


〈生きとるんかぁーい!!〉


と、心中でツッコむ…


どっと疲れたが、収穫もあった。


チーズが作れるみたいだ。



「店長さん、この本の好きなメニューを5つ翻訳するから、

このチーズの製法のページの知識を使って商売していい?」


と聞いてみたら、


ギックリ腰の会長さんが、


「死んだ私の親父からの伝言です。

書いてある知識まとめて、どこの国のでも構わないので〈大金貨五枚で売ってやるから〉この商会で醤油・みりん・酒を買え、なんなら原料の大豆や米でも構わない、大量にかえ、

子供や孫の生活の為に金を使いまくってくれ!


以上になります。」


なんだか、家族思いの先輩だったんだな、

この資料が、あれば流れ人がこの店にくる、勇者みたいな職業の転移者なら何代にもわたり金があるだろうから、

自分が死んだ後も米や醤油欲しさに来る流れ人やその子孫に対して商売が出来るための研究、


人生をかけて、子孫の為に研究を成し遂げたのだろう…


頭が下がる。


俺は大金貨五枚を渡して、サラ達が迎えに来るまで〈記録〉のスキルをフル活用して研究資料をおぼえる。


膨大な資料に全てに目を通すことは出来なかった。


山田商店で醤油に味噌、みりんと日本酒を大量に買い付けた。

大豆と米は、食べる用と植える用の二種類買った。


店長に、


「研究資料の残りは次回買い出しの時に読みます。


翻訳したのを手紙で送りますから楽しみにして下さい。」


と伝えて店を後にした。


やった、やったぞ、なんでも作れる。

醤油と味噌でラーメンだって夢じゅない…



俺もあんな感じで、人生を賭けて何かを成し遂げられるだろうか?


と考えながらスキルショップを目指した。

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