第84話 帝都に圧倒される男

帝都の大通りに圧倒される俺がいた。


ガイルス辺境伯領から半月あまり


知らない道なので長く感じたが、街道はしっかりと舗装され、王都迄の所要期間はさほど変わらないが、馬車の乗り心地は雲泥の差だ…


そして、王都より…遥かにデカくて、文明レベルが進んでいる。


〈神様、帝国がこの世界のメイン地域なのでしょうか?〉


と口を半開きで眺めていた。


クロイとバゲットの引く六人乗りの客室の馬車に、俺とサラと狼チーム、

御者役に〈ガルドさん〉それと、帝都の案内約として、女騎士の〈ノーラさん〉

ピピもサラの肩が定位置なマスコットとして、


このメンバーで旅をしている。


夜は馬車をアイテムボックスにしまい、クロイとバゲットは〈送喚〉して、〈ホランさん〉にケアを頼み、


俺たちはマジックハウスで休む、


マジックハウスはベッドが入る程度の部屋が3つとダイニングがあるが、


狼チームはダイニングに〈ペータさん一家作〉の、ふかふか狼用のベッドが3つあり、

それぞれお気に入りの〈巣〉がある。

それと椅子の背もたれを止まり木にピピがくつろぐ。


ノーラさんの部屋と、

ガルドさんの部屋、最後に俺とサラの部屋なのだが、ベッドを2つ入れるのには狭いので、また師弟で寝る事になった。


サラは喜んでいたが、いつまでもこんな反応でいて欲しいが、もう多感なお年頃だし、


「師匠臭い!」とか「師匠キモい」とかになるのかな?


はぁ、不安だ…



しかし、帝都観光に出発するまで半年近くかかるとは思わなかった。


出発が遅れた原因、

それは〈社交シーズン〉である。


陞爵した年だから、王都で王族や公爵家は勿論、軍務卿や他の辺境伯家などの有力貴族が開くパーティーに呼ばれまくった。


本来ならば俺もパーティーを開かなければ失礼にあたるらしいが、ただの平原や町の工房ではパーティーは出来ない。


なので、行く先々で手土産の焼き菓子などを配りまくった。


ミルキーカウと卵鳥のお陰で安定生産できる我が商会の自慢の品だが、


呼んでくれたホスト貴族には、プレミアム仕様の非売品を渡している。


ケーキなどが作れば良いのだが、俺が、作った事の有るケーキはチーズケーキぐらいだが、クリームチーズの作り方が解らない。


クラッカーは作れるからあとはクリームチーズが有れば〈レアチーズケーキ〉とかが作れるのだが…


無い物ねだりをしても仕方ないが、退屈なパーティーに、踊れもしないダンスの曲が流れる。


現実逃避でもしないと〈ヤっていられない。〉未だに、ぬるいエールと塩味のきつい料理が並ぶ、冬なので保存食の肉等は分かるが、塩抜きが足りないのかな?


王族が俺の〈独り者料理〉で興奮するのも解る。


せめてエールだけでもと、隠れて〈プチフリーズ〉でキンキンにして飲んでいた。


そんな苦行を繰り返し、新年のパーティーに春の宴…と行事をこなしていく。


一緒に参加した〈ライザさん〉には


「ダンスを来年に向けて練習しましょう」


と誘われるが、


群がる誰の娘さんか解らないご令嬢のダンスのお誘いを


〈自分不器用なもんで…〉


みたいに断る手段として踊りたくないのだが…。



そんなこんなで、出発が春になった。




そして今、帝都のメインストリートに、やっと来れたのだ!


入り口前で馬車を降りてアイテムボックスに馬車をしまい、クロイは俺、サラがバゲットを〈送喚〉して、メインストリートを歩いてスキルショップを目指しながら観光をする。


狼チームが門番に首輪の確認をされ、


「従魔は確認出来たが、リードを着けろよ。」


と言われた。


そりゃそうだよね。


俺はアイテムボックスからロープを出して三匹に〈お散歩ヒモ〉を着けてから帝都に入った。


王国と比べて、町の規模も遥かに広いし、建っている建物も頑丈そうだ。


建設技術もすすんでいる様子、


ノーラさんに、


「凄いですね。文明が王国より進んでいますね。」


と話すと、


「帝都は〈流れ人〉が定期的に現れて様々な知恵を与えてくださったからです。」


と答えてくれた。


確かに、板硝子を扱う技術が高いのかショーウィンドーが並び、中にはマネキンがお洒落な服を身に纏っている。


王国には〈流れ人〉が余り来ないと言っていたが、外からの刺激で文明の差がここまでとは…


帝都には騎士学校に魔術学校、魔導工学専門学校など各種学校に


様々な研究を行う〈学術研究エリア〉に


工房や工場の並ぶ〈工業エリア〉など、


…絶対、転生や転移するならこっちだろう!!


と俺は生まれて初めて味わう、

敗北感とも憧れとも悔しさとも違う

名前の知らない感情のまま帝都を歩いていた。


そして、俺は驚く出会いをした。


メインストリートの店の看板に


『雑貨屋 山田商店』


と〈日本語〉で、書かれていた。


「ガルドさん、二匹をお願い。」


とガルドさんにリオとプラを預けて、山田商店に入る。


店は思いの外広いが、店員は少ない。


一人の店員が、


「見ない顔だね、何屋かも判らずに迷いこんだクチかい?」


と聞いてきた店員の胸ポケットには


『店長 山田』と日本語で書いたプレートがあった。


「あっ、店長さんでしたか、表に雑貨屋

山田商店と…」


と俺が、言ったとたんに、


「なんだい、読めるって事は、何世だい!?」


と聞いてくる。店長、


「何世って?」


と聞き返すと、店長さんは、


「なんだい、違うのかよ、日本人の末裔か何かだと思ったが、興奮して損したぜ。」


と呆れられた。


俺が、


「そう言うことなら、一世になるの…かな?」


と告げると、


「えぇぇぇぇぇぇ!!」


っと、店長 山田さんは叫んだ。


心配したサラがガルを預けて、店内に飛び込んできて、


「兄貴、大丈夫!?」


と聞くので、


多分、大丈夫かな?


俺もよく分からないけど…。



帝都に、着くなり〈当たり〉なのか〈ハズレ〉なのか解らないイベントに出会したようだ…。



大丈夫だよね?

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