第83話 出発前と帰還後の違いに戸惑う男

全て片付き〈ロゼリアの町〉に帰ってきたのだが、


一瞬別の場所かと思った。


旧市街の再開発地区が、町になっていたのだ。


商店街や職人町、工業地区に住宅地区…


規模こそ村程度だが、ちゃんと人々が暮らす町に変わっていた。


旧市街をまわりながら、


ベンさんが、


「難民が訪ねて来た時には焦りましたよ。」


と、恨み節を言って来たので


「大丈夫、俺も王都で同じぐらいビックリしたし焦ったから…


恨むならガイルス様を恨んでよ。」


と言ってやった。


ベンさんに、


「領地貰ったけど、どうしよう?」


と相談したら。


うーん?と考えたあと、ベンさんは、


「現在、少し手狭ですが、十分暮らせますし、

マヨネーズ、バター、牛乳、生クリーム、

最近ではヨーグルトを生産しています。


ドーナッツなどを出す〈喫茶店〉も王都と領都で出店する予定で動いておりますので、


出来上がるまで領地に関しての税金は免除ですし、


のんびり着手されたら良いかと…」


と言ってくれた。


でも、着手するにもアソコは何も無さ過ぎる。


「帰りに見て来たけどビックリするぐらいのただの

平原だよ。湖の周りは湿気が多いし、魔物とかも多そうだし。


せめて道や壁、それに水路が魔法で〈バン!〉っと出来たらなぁ?」


とぼやいていると、今日は俺の護衛当番の女騎士の〈ノーラ〉さんが、


「たぶん、出来ますよソレ。」


と言ってきた。


「本当?」


と確認する俺に、


「えぇ、帝国の帝都の騎士学校に通っていましたが、王宮に〈土木魔法師〉という集団がおりました。


田舎の町や村の水路等の整備や道の舗装を行っているのを見たことがあります。」


と答えてくれた。


「えっ、欲しい、絶対欲しい!

スキルショップにあるかな?」


と俺が食いつくと、ノーラさんは、


「なにぶん学生だったもので、

高価なスキルは買う用事が無く…


すみません!」


と謝るノーラさんに俺は、


「いや、ありがとう、

とても参考になったよ。」


と礼を言った。


これは、帝国観光がてら買い物に行かないと駄目だな。



あと、帝国に謝罪の旅の帰りに辺境伯領に寄った国王陛下の一団が〈ライザさん〉はじめメイドさん達を俺に預けて帰って行った。


なんで?


と思っていると、ライザさんが、


「子爵様、ご迷惑をかけているのは重々承知しておりますが、私の家族ともいえる旧ワルツ男爵領の皆さんと一緒に過ごすことをお許しいただけないでしょうか?」


と深々と頭をさげた。


まぁ、それくらいは良いけど、

うーん…


「ライザさん、俺の事はユウでいいよ。


ウチで過ごすのは構わないけど、贅沢とか、今から町を作るから出来ないよ。」


というと、


「私は、奴隷商に売られ、

人生に絶望しておりました。


そんな私を救ってくださったユウ様に恩返しがしたいのです。


一生をかけて…お側で…駄目…でしょうか?」


後半声が小さくて聞こえなかったけど、

ウチで構わないらしいから、

旧男爵領組のまとめ役をしてもらおう。


…なんだかメイドさん達が、

「やった、言えましたね。お嬢様!」

とか

「ご立派でした。」

とかザワザワしているけど…?


まぁ、いいよね。


「では、ライザさん

これから宜しくね。色々助けて欲しい事もあるので、一緒に頑張りましょう。」


とお願いしたら。


メイドさん達が、


「一緒にって、良かったですね。お嬢様!」

とか

「あぁ、旦那様や奥様に見せたかった。」


と騒いでいる中でライザさんが真っ赤な顔で俯いて、


「ユウさま、こちらこそ、

末永くよろしくお願いします。」


と言ってくれた。



商会の皆が新居に移り、空いた部屋にライザさんとメイドさん達それにお抱え料理人のお姉さんの〈イルミナさん〉がお屋敷チームに参加した。


メイドさん過多になったが、交代で、職員寮や工場の掃除などもしてくれるので大助かりだし、


俺の屋敷にガイルス様からのレンタルではなく〈専属〉の料理人が出来たからラッキーだった。


人員も増え、

職員も揃い

ようやく商会が本格的に動きだした。


旧男爵領のメイドさんに〈クリスさん〉という商人の娘さんが一人いた。

子供の扱いも上手で、人当たりも柔らかい好感が持てる人物だったので、


無理を言って先生に成ってもらい、

読み・書き・計算 が出来ることを目指す〈学校〉を作った。

商会関係者の子供や、孤児院の子供に知識を与えて少しでも思った仕事に着けるようにと…


〈クリス〉先生の評判が良く、ロゼリアの町の子供達の親からも〈通わせたい〉と問い合わせが来るぐらいだ。



商会も王都に時間停止付きのマジックバッグでマヨネーズやバターの販売がはじまったので、


当面はこの調子で大丈夫だろう。



一度帝国に行って、〈土木魔法〉とやらを探すとしよう。

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