第5話 弟子を育てる男

三年前に一度通ったF級からの道のりをなぞる様にサラとガルのコンビを鍛えている。


街の近所の草原の入り口で、


「サラ、これが薬草で、こっちが薬草に似ているが何の役にも立たない雑草だ。」


と良く似ている草をサラに渡して違いを理解させてから草原で薬草採集をさせる。


ガルに〈探せ!〉と命令すれば、わけなく見つかると思うが、初めからそれをしてしまうとサラが薬草を見分けられないままに成ってしまうので、初めの一束 (十本)は本人のみでやらせている。


心配そうについて回るガルに、


「ガルは辺りの警戒をしておく、

草原にも小型の魔物は居るからね。」


と言って指示をだす。


「ワン」と吠えた後にサラの近くで警戒の姿勢をとる狼、


「賢いな…ガルは俺の言葉を理解しているみたいだな。」


と感心していると、


「ガルはユウの兄貴をリーダーと認めているからアタイの近くでなら大体の言葉はアタイの心経由で理解してます。」


と答えるサラに、「凄いな、テイマースキル。」と改めて感心した。


30分程かけて薬草を一束集めたサラに、次はガルとコンビで薬草採集をさせる。


ものの数分で小袋一杯の薬草が手に入り驚くサラに、ガルの有り難さを教える。


正直採集においてガルが居れば怖いものなしだな…


あとは、最初の一本目を見つけるサラの能力が安定すれば採集だけでも安宿で暮らせるだろう。


しかし、採集だけではガルの腹は膨れない、やはり獲物を倒してこその冒険者だ。


ろーぷをアイテムボックスから出して、角ウサギが通りそうな岩影や、低木の根元を教えて、


サラに小型魔物のくくり罠を教えて罠を仕掛けさせた。


ガルに頼めば角ウサギぐらい捕まえてくるだろうが、それではサラの能力が上がらないので、今日は罠を仕掛けて宿に帰る事にする。


帰る途中で冒険者ギルドに寄り、薬草の納品を済ませて、サラの昇級ポイントを受けてから肉屋でガルのご飯を買う、


「明日からは自分で捕った獲物になるから。」


とサラとガルに説明して、宿屋でオヤジさんの晩御飯を楽しみにしながら部屋で読み書きの授業を開始する。


そんな日々を過ごすうちに、サラとガルのE級昇級試験が決まった。


試験内容は簡単だ、

〈E級〉昇級試験の冒険者と試験官のチームでゴブリンの集団の撃破、一人三匹のノルマ達成で〈E級〉に成れる。


しかし、この試験はイレギュラーが多く発生する、

なぜなら、この世界に丁度良いゴブリンの群れなどそうそう存在しないからだ。


大概はゴブリンの数が足りないので数日掛かる場合…その場合はまだ良い…時間がかかるだけだから。


しかし、


困るのは芋づる式にゴブリンの集落を見つけてしまう場合である。


そして、悪い事にサラとガルの試験は一番悪いパターンに当たってしまった。


ここ数年で一番デカイ集落を見つけてしまい試験どころでは無くなってしまったのである。


ゴブリンの村には確実に上位種がいる様子が見受けられ、しかももっと悪い事に、ゴブリン村に子供のゴブリンが複数確認されたのだ…。


町で試験の終了を待っていた俺に、しょんぼりしたサラとガルが近付き、今回の試験の中止を告げた。

サラは試験の中止にしょんぼりしていたのではなく、


「アタイはユウの兄貴に助けてもらったけど、あのゴブリン村にはママにされた人がいるみたいだから…」


と元気のない弟子の頭をポンポンと叩き、


「俺も討伐隊に参加するからサラとガルは明日は宿屋で待っているように。」


と指示をだして、サラ達を宿屋に帰らせた。


本当ならゴブリン狩りなど割に合わない討伐は参加したくない、オークならまだ旨味があるが、ゴブリン狩りは精神的にもゴリゴリ削られる。

特にデカイ集落に成れば成る程に、メイジやナイトなどの上位種ゴブリンや運が悪ければ、〈ゴブリンキング〉などというただ強いだけで身入りの少ないヤツを相手にしなければ成らない。


そして、デカイ集落には捕らえられた〈苗床〉と呼ばれる女性が可哀想な目に逢っている事がほとんどだ…


しかし、弟子の悲しむ姿を見てしまった俺は、「何とかしなくては!」と感じてしまったのだ、


サラとガルを育てるつもりだったが、俺自身が弟子に対して恥ずかしくない師匠に成るための修行をしているのかも知れないなと、ゴブリン討伐隊への参加手続きをしながら考えいた。

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