第4話 事情を聞く男

井戸で狼を洗っていると、タオルを持った跡取り息子の〈タタン君〉が水気の拭き取りを手伝ってくれた。


そして、


「ユウさん、姉ぇちゃんが、〈ユウさんが女を連れ込んだ〉って機嫌が悪いから後でフォローしてあげて下さい。」


と、更に面倒臭い事を言ってきた。


女など連れ込んだ覚えはない…

が、あの小汚ないガキは「アタイ」と言っていた気もする。


洗い上がってホワッホワになった狼を撫でながら、


「お前のご主人は女の子なのか?」


と聞いてみたら


「ワン!」


と吠えた。


なんか「はい!」って答えたっぽく見える仕草に、


「そうか。」


と、答えてガルの頭を撫でた。


食堂に戻ると看板娘が二人に成っていた。


「兄貴、アタイの格好変じゃない?」


と聞いてきた狼の飼い主に


「とりあえず、飯にするぞ」


と、遅めのランチというのか、早めのディナーというのか解らないが、ロールキャベツを出してやった。


なぜか、宿屋の一家も三時のおやつ感覚でロールキャベツを食べている。


ガルには出汁を取り終えた鳥の身をほぐした物を出したが、ペロリと食べた。


腹ペコの押し掛け弟子達の食欲は止まらず、俺の晩飯と非常食のパンに肉を全て放出するはめに成ってしまった…。


「さて、腹も膨れただろうから、自己紹介をしてくれないかな?」


と、俺が聞く


「!兄貴、し、失礼しました。

アタイは、〈サラ〉です。

こっちは、森狼の〈ガル〉です。


えーっと、村の掟で、十二歳に成ったら相棒と旅に出る決まりで、

この町に来ましたが、もう何日もご飯を食べてなくて、

ガルが鹿の魔物を見つけたけど、ゴブリン達に持って行かれて…


兄貴に助けて貰わなければ、今頃はアタイはゴブリンのママに成ってました。」


と頭を下げるサラに、


「想像しちゃうから〈ゴブリンのママ〉とか止めようか?」


と、釘をさし


「何日もご飯を食べてないって、冒険者ギルドに登録すれば、何か仕事にありつけただろうに?」


と、俺が聞いたのだが、


サラがモジモジしながら、


「登録は出来たけど、字が読めないし書けないからどうしたら良いか解らなかった。」


と白状した。


はぁーーっ…これは放り出してもまたどん底生活でゴブリンに喧嘩を売って、お持ち帰られてママになるな…たぶん。


俺は、事情を聞いた事を少し悔やんだが、聞いてしまった物は仕方ない。


サラが一人前の冒険者に成るまでは面倒を見ることにした。


まずは、いつまでもアイシャちゃんの服を借りている訳にもいかないし、サラ自身の武器も何も無い状態だ。


「よし、買い物に行くからサラとガルは俺に付いてくるように。」


と、言って弟子達と買い物に向かうことにした。


「アイシャちゃん、サラにもう少しの間服を貸してあげてね。」


と、アイシャちゃんにお願いをしたら、


「べ、別に良いよ、

し、下着は私が買って来てあげるから、ユウさんはそれ以外を用意してあげて!」


と言ってくれた。


「さすが、アイシャちゃんは気が利くなぁ、下着とかまで気が回らなかったよ俺、


じゃあ、任せて良いかな?」


とアイシャちゃんに大銀貨を三枚ほど渡した。



小銅貨 約 10円


大銅貨 約 100円


小銀貨 約 1,000円


大銀貨 約 10,000円


小金貨 約 100,000円


大金貨 約 1,000,000円



ぐらいなので、三万円ほどだ。


アイシャちゃんは、


「こんなに要らないよ。」


と言っていたが、


「男の俺では解らないから靴下とかパジャマとか見繕って欲しい」とお願いし、


この間のオーク討伐の臨時収入が有るのでサラに冒険者セットを買い与えても予算は大丈夫なはずだから、俺はサラ達を連れて冒険者ギルドに向かった。



ギルドに着いて、受付でパーティー申請を出す。


サラはやはり成り立てのテイマーで、ガルに従魔の首輪と申請もまだな状態だった。


「だって、村ではそんなルール無いもん」


と言っていたので、


「弟子は口答えしない!

帰ったらまず、文字を読む練習だ!」


と、師匠ぽい事を言ってみた。


ガルの申請が終わり、ギルドの中のショップで、従魔の鑑札付きの首輪を買ってガルに着ける。


相変わらずご機嫌で尻尾を振っている狼に若干の不安を覚える。


こいつの〈野生〉はゴブリンにタコ殴りされた時に死んだのではないか?


と…


まぁ、本人がご機嫌なら別に良いか、首輪嫌いでストレスなら可哀想だが、気に入ったみたいだし…


つぎに、ギルドショップで、サラの装備を整える。


鞄に始まり、ナイフにボウガン、罠用のロープ等に、丈夫な服に革の胸当てにブーツと、


一揃え買い与えた。


「兄貴…こんなにしてもらって…ありがとうございます…」


と気不味そうなサラに


「ガキはそういうの気にするな、悪いと思うなら頑張って一人前の冒険者を目指せ、


って、言ってる俺が半人前の〈C級〉だけどな。」


と笑ってみせた。



ギルドショップを出て、底をついた非常食の買い足しや、本屋で文字を学ぶ為の本や雑貨屋で、筆記用具を買う。


そして、露店で可愛い髪飾りを一つ買い宿屋に戻った。


宿屋に着くとアイシャちゃんがドサッと紙袋を渡してきた。


「お釣です。」と残ったお金を渡して来たので、


「本日のお礼です。」と言って、先程買った髪飾りをアイシャちゃんに渡す。


アイシャちゃんはとても喜んでくれたが、タタン君が親指を立てて俺にウィンクを飛ばした意味が良く解らない。


この日から、この世界に来て初めての弟子が出来たわけだが、


文字は俺の〈異世界言語スキル〉で教えられるし、四則演算ぐらいを教えれば依頼料や買い物で困る事も無くなるだろう。


テイマーの戦いかたは知らないが、罠と弓くらいなら教えてられるし、血抜きや下処理を覚えれば森で肉集めだけでも食べて行けるだろうから、明日からみっちり教えてやろう。


少なくともゴブリンのママには成らないぐらいに成って貰わなければ寝覚めが悪いから…

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