第152話 キラーマーリンを売り払う男

職員さんに連れて来られた解体場はデカイ体育館の様な空間で、


中には20人程の革エプロン姿のオッサンが並んでいた。


受け付けの女性職員さんは、


「では、ユウさん、お願いします。」


と、俺に獲物の提出を促す。


俺は、オッサンの前に歩みでて、


「ここら辺で良いですか?」


と聞くと、


オッサン達が、


「おう!景気良く出してくれや。」


と気合い十分で答えてくる。


〈では。〉


と、アイテムボックスから〈キラーマーリン〉を取り出すと、


オッサン達が色めき立つ、


女性職員さんが、


「確認いたしました。


ユウ様、全て買い取りで宜しいでしょうか?」


と確認してくる。


〈本当なら味見をしたいけど、エクストラポーションの値段が値段だから、仕方ないなぁ〉


と諦めて、


「はい、お願いします。」


と俺が言った途端に、女性職員さんは、


一緒に来た男性職員さんに、


「宮殿の料理長に連絡をお願いします。」


と指示をだし、


つぎは、オッサン達に、


「開始してください!」


と叫ぶと、


オッサン達が


「応!!」


と答えて解体をはじめる。


女性職員さんは、


「ユウさん、では手続きの為に別室へ移動をお願いします。」


と、買い取りカウンターとは違う個室に通された。


個室にはデカい机に細身の初老の男性が座っていた。


男性は、


「ようこそ、B級冒険者のユウさん。

私は、ここのギルドマスターの


〈クロッカス〉という者です。


今回は、キラーマーリンを納品してくれたらしいね。


本当に助かった…ありがとう。」


と礼を言われた。


〈?なんで礼を言われたのかな?〉


と不思議そうにしていると、


〈クロッカスさん〉は、


「え、〈ステラ〉ちゃん、まだ説明してないの?」


と女性職員さんに質問する。


「はい、解体場で確認後直ぐにマスタールームにお連れしましたので、」


と答える〈ステラちゃん〉にクロッカスさんは、


「えー、じゃあ、書類を持って来て下さい。」


と指示をだし、ステラさんは一旦退室をすると、


「ユウ君、ゴメンね。


いきなりこんな部屋に通されてビックリしたでしょ?」


と言いながら、クロッカスさんは机からソファーの方に移動して、


「ユウ君も楽にして。」


と、俺をソファーに座るように促し、


テーブルの上のお菓子の入った木製のボウルを差し出して、


「飴でもたべる?」


と聞いてくるクロッカスさん


…オジサンと云うより〈おばちゃん〉みたいな物腰の柔らかい方で、


〈本当にギルドマスターかな?〉


と思うくらい〈普通〉の感じがする。


とても、荒くれ者の冒険者達を束ねてるとは…


クロッカスさんは、ボウルの中を物色して、


「まだ有った、ラッキー。」


とニコニコして、お気に入りの味の飴ちゃんを頬張りながら


「いやぁ~。

何年も前から、新年のパーティーに間に合う様にと、〈キラーマーリン〉の肉の討伐・納入依頼が〈宮殿の料理長名義〉で出ていたんだけど、


冒険者にどうこう出来る案件じゃないから、


来年の新年の挨拶も皇帝陛下に、


〈キラーマーリンの納入が出来ずに、申し訳ございません。〉


と謝る予定だったから、本当に助かったよ。」


とソファーに体を預けて脱力するクロッカスさん。


すると、ステラさんが書類を持って帰ってきた。


「失礼します…って、


ギルマス、またダラケテる!


ギルドの冒険者の前では〈ピシッ〉としてくださいよ。


元帝国最強のS級冒険者なんですから…」


と呆れるステラさんに、


〈へぇ、S級だったんだ…〉と驚く俺に、


クロッカスさんは、


「えー、単騎でキラーマーリンを討伐できるユウ君の前で威張っても、仕方ないよ。

自分より強い人の前で格好つけるほど、血気盛んでないのよねぇ~」


と飴ちゃんを楽しんでいる。


俺は、


「ギルドマスター、単騎ではありませんよ。

信頼できる従魔が手伝ってくれて、やっと討伐出来ましたので。」


と伝えると、


クロッカスさんは、


「ユウ君は、〈テイマー〉なんだね。

どんな子を連れているの?」


と背もたれから体を起こして聞いてくる。


俺は、


「今回はドラグーン三体と一緒に討伐しました。」


と答えると、


クロッカスさんは、


「テイマースキル買っちゃおうかな?


でも私は、高いところ苦手だから…無理かな?


どうせ皇帝陛下は今回で味をしめて、また〈キラーマーリン〉やら、他の国でご馳走された美味しい魔物の肉を依頼してくるから、


私が行って〈チャイ!〉っと出来たら、新年一発目が、謝罪じゃなくて済むんだけどね…」


と、鼻からため息を吐いた後に、〈ボリボリ〉と飴ちゃんを噛み砕いている。


なんだか〈ギルドマスター〉も色々大変なんだね…


と思いながら、


ステラさんと討伐の手続きを済ませて、


討伐依頼達成の大金貨30枚を受け取った。


〈キラーマーリン〉の買い取りは解体後に精算になるので、明日以降になるそうだ。


無事に手続きも終わり、


ギルドマスタールームから出る間際に、


クロッカスさんが、


「ユウ君、年始に二週間程予定空けて、帝都に来てくれる?


宿はギルドで用意するから。」


と言ってくる。


俺は、何とかキャンセルしようと、


「拠点はザムダの街なんですけど…」


と言ったのだが…


「良いじゃん、ドラグーンで〈ピュン〉と来てよ。


ヨロシクねぇ~」


とヒラヒラと手を振る〈クロッカスさん〉に送りだされた。



はぁ~、仕方ない…よく分からないけど、新年の挨拶まわりにくるかな…


と諦めながら冒険者ギルドを後にし、その足で錬金ギルドのポーションショップに再び入り、


〈エクストラポーション〉を二本購入した。


財布の中身は大金貨六枚程度に成ってしまったが、解体が済めば、少しは復活する…はず…と思う。


時間はまだ有るが、宿を取ってから情報ギルドに行くことにする。


一瞬、〈認識阻害の指輪〉を使い、〈アダルティーな宿屋〉も頭を過ったが、お財布事情に、不安が有るので諦め、


日用品の買い出しも、

今のお財布事情でも行けるだろうが、念のために〈解体後〉にすることにした。



情報ギルドに報告した分の〈情報料〉を今回は貰おうかな…?


でも、教えて貰う情報に〈情報料〉を取られたら嫌だから、


今回も〈相殺〉かな…

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