第108話 ゆっくり街を巡る男
従魔が落ち着く迄の1ヶ月ほど、
マヨネーズの街でゆっくり過ごす事にした。
街の冒険者になったつもりでウロウロしてみる。
宿屋からスタートして通り沿いの屋台で買い食いをする。
湖が近いからか焼き魚を売る屋台が有ったのだが、店主の奥さんに元気がない。
話を聞けば、
旦那さんが釣りの名人で、魚型魔物を沢山釣ってくるが、
焼き魚にしても、あまり売れず。
頑丈な皮や鱗と魔石は少額で冒険者ギルドで買いとってくれるのでギリギリ生活出来ているらしい。
魚の種類もまちまちだし、焼いて美味しいのや少し硬いのやら有って、当たり外れがお客が遠退く原因の1つみたいだ。
〈1メートル近い魚が切り身で焼かれてたら、見ただけで何の魚か当てるの難しかろう。〉
奥さんは、
「子供が毎日残った焼き魚で可哀想だ…」
と嘆いていた。
屋台を見るとまだ焼いてない魚が氷が入った木箱に二匹分ほどある。
奥さんに、
「この氷は?」
と俺が質問すると、
「旦那の魚が痛みにくい様に、嫁入りの時に〈プチフリーズ〉を父にかってもらいました。」
と言っていた。
センスが良いパパさんだね。
なんとかして、稼がしてやりたいが…
!閃いた!
俺はアイテムボックスからボウルを数個とミンサーと塩と片栗粉と卵と酒と砂糖そして、ウッドブロックそれに小岩を取り出して、
奥さんと新しい商品を作っていく。
しっかり冷えている切り身をミンサーに入れて、〈さかなのミンチ〉にする。
塩を加え更にミンサーで細かくする。
〈石レンガ生成〉と〈形状変化〉〈硬化付与〉のスキルで石のすり鉢パーツをつくり〈接着〉スキルで仕上げる。
ウッドブロックを〈形状変化〉で、スリコギと木製のパイプを作り30センチの長さに切り離す。
すり鉢に〈すり身〉と調味料と卵白を入れて滑らかになるまで、すり潰す。
木製のパイプに巻き付けて、石レンガで焼き魚を焼いている炭コンロを改造して、
〈ちくわ屋さん〉の出来上がり。
試しに奥さんに食べてもらったら。
驚いていた。
新たな名物の誕生だ、
「正規のレシピは料理酒とか少し値がはるから、調味料や使う魚とか工夫して。
おいしいオリジナルレシピをめざして下さい。
焼くだけじゃなくて、平たくして油で揚げても美味しいから。
話は通しておくから、明日商業ギルドマスターを訪ねてね。」
と立ち去ろうとしたが、すり鉢とか大丈夫?重くない?と心配して聞いたら、
「荷車がありますので、」
と言って奥さんは、すり鉢をヒョイと持ち上げてみせた。
「大丈夫だね、料理道具は先行投資だから、美味しいのが出来たら食べにくるよ。」
と言い残し立ち去った。
こんな事が出来るのも、ウチのベンさんがマヨネーズの街の商業ギルドマスターを引き受けてくれたからだ。
あとは任せたよ、ベンさん
俺は、お土産にもらった〈ちくわ〉を大通りで頬張り、
「うまっ!」
と一声上げてから、それはそれは旨そうに食た。
実際、数年振りの〈ちくわ〉は、懐かしさも相まって泣きそうになる、
しかし、なぜかその後、鮮明にサービスエリアを思いだしただけで、泣くまでには至らなかった。
まぁ、そもそも〈ちくわ〉には社会科見学とサービスエリアの思いでしか詰まってなかったから仕方ない。
あぁ…おでんが食べたい…
続いて冒険者ギルドに行く
クエストボードには、溝掃除や薬草集めなどユルいクエストが並ぶ、その中で、
『オリジナルスキルスクロール求む
複製師 オットー』
と書いてあるが、長年情報の無い不人気ダンジョンだった我が領内のダンジョンは調査が終わるまで、街の冒険者には入るのをオススメしていない。
なので可哀想だが、オットー君の依頼は当面ウチ領内では叶わないであろう。
すまない。見たこともないオットー君…
他のクエストも確認していると、
ギルドの受付の方が騒がしい。
少し遠巻きに見にいくと、
「ご領主様に会いたいのです、ギルドマスターから紹介して頂けないでしょうか?」
と若い冒険者が騒いでいる。
受付嬢は、
「冒険者ギルドではその様な業務は行っておりません。」
と拒否している。
ちなみにマヨネーズの街の冒険者ギルドマスターは…
「騒がしいわね!? はい、仕事する!」
と、奥から出てきたのは、
冒険者ギルドグランドマスターの娘で、王都本店の幹部だった、〈アリシアさん〉だ。
アリシアさんは青年冒険者を見るなり、
「あら、ブルー君じゃないの?」
といった。
そして、彼越しに俺をみつけたアリシアさんが、
「珍しい、やっぱり運命ってあるのね。
ブルー君普段は絶対居ない人物が後ろにいるよ。」
と伝えると、俺の方を振り向く青年は、あの時の少年から背も顔つきも一人前の、冒険者になっていた。
「師匠!お久しぶりです。」
と駆け寄り深々と頭をさげる〈ブルー君〉
「よぉ、ブルー君。
立派になったね。お母さんとピンクちゃんは元気?」
と俺が聞くと、
「はい!母から毎日の様に師匠の偉大さを聞いて育った妹は、〈男爵さまのお嫁さんになる!〉と料理や裁縫を頑張っております。」
と、笑顔のブルー君…
いや、流石にマズイよそれは、七歳くらいでしょ?
と考えていたら、
「師匠、ヒドイですよ。
〈C級〉冒険者になったらロゼリアの町に来て師匠を見つけるように仰いましたが、
貴族ならば、ご領主様に聞けばと、ガイルス辺境伯様にお目通りをお願いしたのですが、
事情を話すと、
〈私の口からマヨネーズの居所は教えられぬ。〉
と言った上にマヨネーズ商会にも箝口令を出してしまわれ、
探すのに苦労しました。」
と苦情を言われた。
あのオッサン懲りてないな…
〈面白い〉につられてブルー君にまでイタズラをしかけて…
「すまない、ガイルスという暇なオッサンに関わらせて、
苦労をかけたね。」
と謝る俺に、
「師匠は悪くないですよ
それより、師匠、俺、C級になりました!」
と、ギルドカードを見せるブルー君、
「良く頑張ったね、早速サンダーを…」
と言っている最中に、
「ありがとうございます。コレからは師匠に、ご恩返し出来るようにお仕えさせて頂きます。」
え?
と驚く俺に、
「C級になって師匠を探し出したら、試験合格でしょ?
〈俺の元に来たら〉サンダーと一緒に師匠に認められた騎士に…?」
えっ?そうだったっけ?
何の準備もしてないけど、騎士かぁ
と考えていたら。
「えっ、もしかして…」
と悲しそうな目をするブルー君に、俺は、
「そ、その通り我が領民を守る騎士なって欲しいが…まずは、弟子として頑張って…
って、母や妹はどうする?」
と俺が苦し紛れに話題をそらそうとすると、
「既に家を引き払い、この街の宿屋に来ております。」
と…
住む家は何とかなるし、
ピンクちゃんは学校に行くとして、
ブルー君は、騎士学校には成長し過ぎだし…
連れ回して強くなって貰うしかないな。
はぁ、サンダーを種馬がわりにしてるのバレたらどう言い訳しよう…
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