第110話 ダンジョンと似た者師弟

ブルー君とサンダーが帰ってきた。


スキルが増えて自信に満ち溢れた顔つきだった。


サンダーも嬉しそうにしている。


俺は、ブルー君に、


「メモしたやつ以外のスキルは何を買ったの?」


と聞くと、


「店長さんのオススメで、〈クリア〉という、毒や麻痺を消す魔法と、


〈マジックエッジ 炎〉という一定時間武器に属性追加ダメージ与える効果がつくスキルと、ダンジョンに行くのならと、〈アイテム鑑定〉を買いました。」


と答えるブルー君、


えっ3つだけ?


「あれ、少なくない?」


と俺が聞くと、ブルー君は、


「あとは、サンダーに初級雷魔法の〈サンダーショット〉を買いました。


あまり入荷しない雷魔法らしいですが、


店長さんが、


〈ペガサスの魔力量は人間より多いから魔法が撃てたら空での闘いが楽になる〉と…」


と話してくれた。


なんだって、雷魔法…羨ましい。



そして、ブルー君に相棒の狼を決めてもらったのでだが、


やはり〈プラの旦那〉が名乗りでたらしくブルー君はオスの高原狼に〈シュート〉と名付けていた。


〈ネーミングセンスは既に師匠越えだな。〉



スキルも、従魔も、準備できたし。

装備も工房で整えた。


ブルー君は〈ブラックさん〉の形見の装備は体格的にまだ使えないので、成長するまで工房特製の〈地竜の鱗鎧〉と〈魔鉱鉄の兜〉に〈魔鉱鉄のミドルシールド〉と〈ミスリルエッジの片手剣〉を今は装備している。


アイテムも揃えた時に気がついた。


「ブルー君のアイテムどうしよう?

マジックバッグは前衛職には邪魔だし…」


と言ったら、サラが、


「姉弟子からのプレゼントだよ。」


とブルー君に、自分がはじめの頃使っていた〈マジックポーチ〉を渡した。


「ありがとうございます、サラ姉さん」


とブルー君が喜ぶのを見て、


満足そうなサラ。


〈サラ姉さん〉って、同い年だろ?




準備も整い、俺としても久しぶりのダンジョンだ。


ダンジョンに潜った日数と土木工事をしていた日数では土木工事が百倍多いくらいで、


ダンジョン素人みたいなものだ、しかも初めての我が領内のダンジョン、


通称〈カレー州ダンジョン〉…


兎に角〈香り〉がキツそうな名前だ、


マジで勘弁してほしい。



このダンジョン入り口の受付はマヨネーズの街の冒険者ギルドから交代制で勤務している。


受付でマーキングをすませると、


「ご領主様、お気をつけて。」


と受付嬢に見送られて、師弟三人で入っていく〈カレー州ダンジョン〉は王都のダンジョンと全く違うものだった。


洞窟を少し進むと、急に草原が広がったのだ。


〈一階層から草原なんだぁ〉


と俺が感心していたら。


サラが、


「兄貴、敵の数がかなりいるけど、スライムとか角ウサギとか弱そうなのばかりだよ。」


とサーチ結果を教えてくれた。


どれどれぇ、〈魔物鑑定〉っと、


〈グリーンスライム〉

〈跳躍〉〈体当たり〉


〈角ウサギ〉

〈跳躍〉〈頭突き〉


うーん、ジャンプしてくる系のフロアかぁ、

まぁ、ブルー君と〈シュート〉の連携の練習にもってこいだな。


「ブルー君、シュートを召喚して二人で頑張ってみて。」


と指示をだす。


俺とサラは仲良く見学だ。


「あっ兄貴、薬草が生えてる」


と俺に見せてくるサラに、


「後で採集しょっか。」


などと話していると、


ブルー君は草原の真ん中に立ち、〈ピシッ〉っと、地面を指差して、


「こい!シュート」


と叫ぶと、シュートが現れる。


えっ、〈こい!〉ってカッコいい…

俺も今度やってみよう。


ブルー君は〈C級〉冒険者になるまでコツコツとこのような敵を倒してポイントを稼いでいたそうで、危なげ無くスライムやウサギを〈シュート〉と倒していく。


「凄いね、シュートとの連携も上手だったし、

とても、従魔との戦闘が初めてとは思えないよ。」


と、俺が誉めると、


「いえ、師匠。

今までも従魔と一緒に戦ってきましたので、

それが生きているのだと思います。」


とブルー君が答えた。


「えっ、じゃあ今その従魔は?」


と俺が聞くと、


「妹のピンクがテイマースキルを授かりまして、僕がサンダーを師匠から賜ったときに、


〈お兄ちゃんだけズルい!〉


と泣かれまして…」


と話してくれた。


〈あげちゃったのね〉


シュートを見たらまたグズるかも、最悪、商会から卵鳥を1羽貰ってこようかな?


そんな事を考えながら、皆で魔石などのドロップ品と薬草を採集した後に、二階層に降りる。



二階層は荒野のエリアだった。


サーチをサラが担当してくれているのだが、


「兄貴ぃ、いっぱい居るけど、また弱そうだよ」


とご不満のご様子のサラ


サーチで見つけた魔物に〈魔物鑑定〉をかけると。


〈アシッドスライム〉

〈酸性攻撃〉〈不意打ち〉


〈ジャイアントラット〉

〈高速移動〉〈体当たり〉


と出た。


確かに街の周りでもたまに居る、


衣類を溶かしちゃう〈エロスライム〉とデカいだけのネズミだ。


「確かに弱いな。」


と俺が答えると、サラが、


「兄貴は、王都の側のダンジョンに潜ったこと有るんだよね?


入ってすぐは、こんな感じだった?」


と聞くが…コボルト以外あんまり出会わなかったし…


「うーん、入ってすぐが〈コボルト〉とかだったけど、冒険者だらけで殆ど戦わなかったからよく解らないなぁ


11階層からはソコソコ戦えたけど…」


と答える。


その間にもブルー君がシュートと一緒に、敵を倒して、「パシュン」と乾いた音が響く。


が、ブルー君から異様な殺気を感じる。


「あの時の恨み思いしれぇぇぇっ!」


とアシッドスライムをメッタ刺しにしている。


怖いよぉ~、どうしたの?


俺はたまらずに、


「ブルー君?」


と声をかけたら。


〈ハッ〉っとしたブルー君が、真っ赤な顔になり、


「取り乱しました、すみません。」


と恥ずかしいそうに答える。


…ハッキリはわからないが、少し心当たりが有る俺は、


「何か有ったんだね…」


と優しく言うと、ブルー君は小声で、


「はい、師匠


実は〈D級〉の試験の時に、皆の目の前で〈ヤツ〉に襲われまして…」


と言い辛そうに切り出した。


俺は、直感で


〈サラ〉に聞かせたくないヤツだな…


と気づいてブルー君の近くに移動する。


ブルー君はヒソヒソと、


「試験中なので手を貸して貰った時点で失格と成ります。


だからヤツに巻き付かれ、溶かされながらも何とか倒しました。


しかし僕のズボンは下着ごとヤツに、ヤツに…」


と涙をためるブルー君、


俺は、大体の事を把握し、ブルー君をそっと抱きしめ、


「もういいよ。もういいんだよ。」


と声をかけるが、

ブルー君のダムは決壊してしまった。


「じゅ、十三歳でボーボーなのが、そんなにおがじぃーでずかぁぁぁぁぁ!」


と、彼のトラウマに触れてしまったらしい。


泣き止むまで慰めたが、


同じ冒険者仲間から「大人越え」という二つ名を付けられて、

イキったヤツと間違われてチンピラ冒険者に喧嘩を売られ、弁解の為に何度もボーボーの話を説明したらしい。


ブルーくんの引っ越しの要因の1つなのだが、


サラに聞かせたくないらしいが、あの声量で泣けば、絶対聞こえていると思う。


しかし、サラは有る筈もない〈採集アイテム〉を探しているフリをしてくれている。


〈嬉しいよ、気が利くレディーで〉


と考えていると、


急にサラがモジモジしてこっちを見ると、


〈ほんと?〉


と念話が飛んで来た。


絶対聞こえてたな、これは…




なんか、ダンジョンに誰かと潜るの初めてだし、


サラとの冒険も久しぶりで楽しい。


それに、ブルー君は、

なんか、好感がもてるエピソード持ちだ…


こちらに来てすぐの頃の俺の悲しい記憶と通じるモノがある…


俺は小声でブルー君に


「俺が溶かされた時のあだ名は、〈モロちゃん〉だったよ。」


と囁いた。


〈アシッドスライム!〉アイツは危険だ…

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