新しい自分になる！とは言ったけど、

第100話 ヤツの影に怯える男

社交のシーズンを目前に控えた１０月、

我が領地、カレー州にも実りのシーズンがやってきた。

初めての田植えから約半年、農家組の家族達の頑張りで、刈り取れるまで育ち、重たそうな穂先が風に撫でられ、うねっている。

「ではイキマスよぉ～！」

と俺は、皆に確認をとり、田んぼの地面と水平に、

「ウィンドカッター！」

と風魔法を滑らせる。

なぜか農家組からあがる

「ご領主様、万歳ぃ！」

の掛け声は恥ずかしいから止めてほしい。

パタパタ倒れた稲穂を束ねて、〈山田 登〉さんの資料通りに天日で乾かす。

全部食べる様な馬鹿はしない。

半分は来年の種籾にまわし、来年は今年の三倍以上に田んぼを増やす予定だ。

乾かして、工房の親方達も交えて、山田商店で購入した農機具で、脱穀や籾すりを行い唐箕(とうみ)で籾殻と米に分ける。

親方達が、

「理屈は理解した。コレならば複製も可能だし、馴れてくれば改良も出来そうだ。」

と話してくれた。

試しに炊いて皆で食べた白米は中々の味がした。

ちなみに自生していた〈ライス〉も刈り取り食べてみたら、サッパリ系の米だった。

カレーに合いそうなので、コレはコレで少し離れた場所で、来年は栽培してもらおう。

そして、ヤツがやってくる。

そう、発情期だ、

リオはまだ子育ての最中、子供達と群れを形成し狩りなどを教えている。

がしかし、プラは立派にサラと力を合わせて、

出ていったガルの代わりを見事に果たして…

その代償にプラは母性愛が、もう、ビッシャビッシャ状態で、そこに発情期が来たもんで、

もう、見てられない。

可哀想なので、高原地帯にパパン一家の様子を見がてらプラの高原総出の〈婚活イベント〉に参加させにいく

今回も参加の、

ヤングさんとマーズさんは、〈トラベルホース〉の群れから従魔を決めて愛馬として可愛がっている。

俺もクロイを連れて行こうとしたのだが、

ホランさんからストップがはいる。

？へっ？

と驚いていると、

「ご主人様、クロイは子供が出来たみたいなので別の馬をお願いします。」

と爆弾発言がとびだした。

「相手は？」

と俺が聞くと、

〈私です。〉

とサンダーさんが歩み出た。

「えぇぇぇぇぇ！」

ホランさんに、

「ぺ、ペガサスと馬ってイケるの？」

と聞くと、ホランさんは、

「生まれる子馬が、ペガサスかトラベルホースの二択になるだけで問題ないですよ。」

と答えるが厩舎の奥に見知らぬペガサスが三頭いる。

どれもお腹が大きい。

「あの方々は？」

と俺が聞けば、トーマスさんからの依頼で、ウチで預かる事になった。

〈国王陛下のメスペガサス〉と

〈ジェルバ公爵様のメスペガサス〉と

〈ガイルス辺境伯様のやっと手に入れたメスペガサス〉です。

と答えるホランさん。

「お腹が大きいのは？」

と聞けば、

〈頑張りました。〉

とサンダーが歩み出た。

〈た、種馬野郎…〉

またも、俺の前に立ちはだかる〈発情期〉どうやってもヤツには勝てないのか？

子馬チームも今では立派に育っている。

その中の灰色のオス馬が、

〈僕と契約して、ご主人様になってよ。〉

と、どこぞの魔法を餌に少女を騙す謎生物みたいなセリフを話す。

俺は、こいつに〈ウマベェ〉と名付けて、クロイの産休中はメインの愛馬として働いてもらう事にした。

ウマベェに荷馬車をつけ、

ヤングさんとマーズさんは、鞍を着けた愛馬で、

プラを連れて高原地帯に向かった。

高原に着くなり、尻尾をブンブン振り、

〈ご主人様、ウチ、ウチ…〉

とソワソワしているので、

「行っておいで、下の村でマーキングの手続きした時に村長さんにお願いしたから、カレが見つかったら、さっきの村で集合ね。」

と、言うと

〈頑張ってきまぁぁぁぁす！〉

と走り出すプラ、

あの日のボロボロでガリガリの狼はそこにはもういなかった。

大地を蹴って走る、立派な白狼が、ある意味ハンターとしての本能ままに獲物(オス)を目指して遠ざかっていく。

これが、普通の狩りなら感動で泣いていたかもしれないが、

発情期…

まぁ、他人の恋路を邪魔するのは野暮だから、別にいいけど。

ウマベェの荷馬車を外し、アイテムボックスにしまい、代わりに鞍を着けて、

やんまーチームとパパン一家の巣をめざす。

高原の外れにある陥没したような大空洞に来たのだが、

ヤングさんとマーズさんが、

「ド、ドラグーン…」

と、アワアワしながら腰を抜かしている。

まぁ、ドラグーンに会いに行くと言ったけど、実物みたら…って！

うん、

俺もビックリしてるから。

パパン達以外のドラグーンが他にも卵を抱いているのだから…

えぇ～どちら様…？