第89話 焦る辺境伯とイタズラ心

ガイルス辺境伯目線です。



はぁ~…


マヨネーズではなくてドラグーン子爵は容赦がない。


我が領都周辺の森がスッカスカだし、

岩場は平地が増えた。


いや、岩を切り出したり、

木を伐採するのは、もっと、こう…


時間がかかるモノでは無いのか?


これ以上は我が領地が危険だ。



と、いう事もあり用事も有るので、急遽王都に向かい、国王陛下に、ドラグーン子爵に森と岩山などの領地が追加で与えられないか相談する事にした。



馬車で、王都を目指す最中に、その昔ドラグーンが産卵地にしていたと言われる、〈ドラグーン平原〉を見たのだが、


たぶん〈山ネズミ〉だと思われる群れが草を食べながら真っ直ぐな道を作っている…


〈私は夢でも見てるのか?〉


と、心配になる、


このままでは、あっという間に着工して、木材や石材が足りなくなるぞ…


急いで、何とかせねば。


王都に着き、城に手紙をだして謁見のお願いをする。


すぐに返事がくるが、国王陛下より、

事が事だからと〈大貴族会議〉を開く事となる。


運が良かったのは、〈社交シーズン〉の最終週なので、王都に主要貴族が私も含めて集合していた事で、すぐに会議が開かれた。



城の応接室で国王陛下をはじめ、大貴族の面々が並び、


国王陛下が、


「えー、急な会議ですまない。

話題の絶えないドラグーン子爵だが、

町の開発にガイルス辺境伯の土地の岩や木材を建材としているらしいが、あの平原を開発し終える頃には、ガイルス辺境伯の領地の森が消え、岩山が平地になる勢いらしい、

先日ガイルスが泣きついてきてこの会議が開かれておる。」


と挨拶をされてから会議が始まった。


ジェルバ公爵が、


「ユウ殿はもうそんなに、あの平原を開発しておるのか?」


と質問するので、


「はい、王都に来る途中に見て参りましたが、従魔の群れに草を食べさせて道を作っておりました。


あの感じでは、すぐに入植村などは、整備出来るかと…」


と、私が答えると、


「兄上、流石に木材や石材が取れる地域も合わせて持たせてやるべきでした。


寄り親のガイルス殿が被害を受けておられるようなので、


何処かに資源のある、空いている土地はなでしょうか?」


とジェルバ公爵が進言して下さった。


国王陛下が、


「地図を持ってまいれ。」


と文官に指示を出される。


届いた地図をテーブルに広げて、


あーでもない、こーでもないと話がされた。


結果として、ドラグーン平原の北に位置するダンジョンの奥に広がる森と山を丸々ドラグーン子爵に与える事になった。


その土地はアルバート伯爵の領地だったが、特に開発も行われず、隣の王家の直轄領にあった(現ドラグーン子爵領の)ダンジョンに行くための小さな村が有るだけの土地なので、


アルバート伯爵領の北西に面した旧マルゲス侯爵領の鉱山と交換と云うことで話しがまとまった。


アルバート伯爵は、


「あのユウ殿に領地を使って貰えるならば、仇を取って貰った我が次男も喜びます。」


と話していた。


〈あやつは愛されておるのぉ。〉



さて、こうなると困ってくるのが領地の名称だ。


平原だけならドラグーンで構わないが他の地域にもかかる中々の広さの土地だ。


○○地方とか△△州など名前を付ける必要がある。


地図に載る地方の名前は国王陛下が決めて頂く事となり、


領都の名付けは、王国の慣習から寄り親の私が送る事が決まり、


ドラグーン子爵の商会の出資者の一人、ジェルバ公爵が紋章を贈る事になった。



国王陛下はしばらく考えた後で、静かに話し始めた。


「私は、彼の作る料理の虜の一人だ、

妻達ならば、子爵といえば、甘味のイメージだろうが、私は初めのトンカツも旨かったが、何よりこの前の〈カレー〉とやらが、体が震える程の衝撃を受けた。


以前は居たが、もう居ないドラグーンの名前は今からの若者の、子爵に贈る名前には相応しくないと私は考える、


なので、子爵領を〈カレー地方〉…いや響きが良くないな…


では、〈カレー州〉とする!

勿論、過去の名前のドラグーン湖も合わせて〈カレー湖〉と名称を変更する。」


と宣言されて、会場の貴族から賛成の

拍手が起こる。


国王陛下が、


「では、ガイルス辺境伯よ、

寄り親として子爵に相応しい新しい街の名前を頼む。」


と申された。


実は、私はもう決めていた。


「子爵が男爵だった時の〈マヨネーズ〉の名前を贈ったのは私でございます。


しかし、陞爵し子爵に成った事は大変喜ばしい事なれど、〈マヨネーズ〉と呼べぬ事に少し寂しさを感じておりました。


なので、彼の作る新たな街に再び〈マヨネーズ〉の名を贈りたいと存じます。」


会場に再び拍手が巻き起こる。


最後に、ジェルバ公爵様が、


紋章官を呼び、イメージを伝える。


紋章官は、


「大丈夫でございます。

過去に同じ紋章も、酷似する紋章も御座いません。」


と答えた、紋章官に、


「では、それで、王都随一のデザイナーに作成を頼む。」


とジェルバ公爵様が依頼したのち、


「皆様、デザイナーにあとはまかせましたが、私は、彼に贈る紋章に子爵の偉業の原点、今まで助けた者達と力を合わせて作っている〈バロンマヨネーズ商会〉の〈マヨネーズの小瓶〉を主体とし、彼が今名乗る〈ドラグーン〉をマヨネーズのラベルの左右に向かい合う様に配置した紋章を贈りたいと思います。」


と発表し満場一致の拍手で締め括られた。


やはり、ユウには食い物の名前が良く似合うぞ…


〈良かったな、マヨネーズ男爵…〉



そして、会議が終わった後で、


今回のもう1つの目的を果たすべく、


国王陛下とジェルバ公爵殿と、今回無理を聞いてくれたアルバート伯爵と私で、


チョチョイと、込み入った話し合いを行う…


〈フッフッフ…アヤツの驚く顔が目に浮かぶ…


ちょっとしたイタズラだが、アヤツも喜ぶだろうし、我々にも有益な提案だからな…


なにより、恋する乙女の夢も叶う…我ながら名案を考えたものだ…〉


そして、


私は、少し晴れやかな気分でロゼリアの町に戻った。

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