第148話 世界を釣る男

サンに無理を言って、丸一日飛んで〈港町ベール〉についた、


早速町の市場を回る、魚は勿論、エビや貝類を買い付けて、


塩も購入した。


魔法で作らずとも内陸部の1/3の価格だった。


〈塩が微妙に高いのは、ほぼ、輸送費だな…〉


などと考えながら買い物を続けていると、


船着き場で商人と船乗りと冒険者が何やら揉めている。


「早く帰らないと、荷物が痛むじゃないか!」


と、商人が焦っている


船乗りが、


「ん、だけどもぉ、入り江の出入口に、〈キラーマーリン〉がうろついてっから、出港してもぉ船の腹に穴を空けられっぞ…


二~三日待てば他所にいくから、気長に待ちな。」


と海を眺めている。


商人はさらにイライラして、


「積んだ奴隷の食費もタダじゃないんだぞ、」


とキレながら、冒険者に


「お前らも、ボーッとしてないで、あの魚を倒して来いよ、その為に高い金を払ってるんだぞ!」


と吠える商人に、冒険者達は、


「無茶苦茶言うなよ、オッサン、

俺らは、船に襲いかかる魔物を撃退する依頼を受けただけだ。


わざわざ喧嘩を売りに行く理由が無い!」


と冒険者達は〈最もな事〉を言っている。


商人は、


「なら、船をアイツらに突っ込ませたら、冒険者は戦うんだろ!?」


と船乗りに無理を言ってる。


船乗りも、


「なんで、ワザワザ船を沈めに走る船乗りは、何処探してもいねっから。


行きたきゃ大将の大事な荷物達を他の船に乗せて行けばいっから。」


と動かない宣言をする船乗りに、商人は頭を抱えてしまった。


船着き場の職員さんが、揉め事を眺めながら、


「あの〈キラーマーリン〉は旨いんだけど、倒すには空でも飛べなきゃ、船を沈められるのがオチだから仕方ない」


と言って呆れていた。


〈何、旨いだと。〉


一キロ程沖に背ビレが見える魚だが、


ここからでもハッキリ見えるあの背ビレに尾ビレに頭が付いているので、地竜より長さは有るかもしれない。


あれでは、大型の船も太刀打ち出来ないだろう。


〈船乗りさんの言い分は正しいな。〉



でも、旨い魚ならば狩るしかないが、あの商人に吹っ掛けてお駄賃をせしめるのも良いかもしれない…


と、言うことで、


「商人さん、商人さん。」


と呼び掛けてみると、イライラしながら、


「なんだ、煩いなぁ?!」


と答える商人に俺は、


「もし、あの〈キラーマーリン〉倒したらお駄賃くれる?」


と聞くと、商人は、


「お前みたいな若造がどうこう出来る訳がないが、もしも倒せたら金…は仕入れで使ってしまったから、船の積み荷を何でも一つやろう。」


とケチ臭い事を言ってくる


「一つぅ~?」


とごねると、商人は〈うーん〉と悩み、


「3つ…どうせ駄目だろうから、5つやろう。


〈倒したら〉だかな!」


と、なんか上からだが、魚を狩るついでの駄賃だから〈5つ〉で手を打とう。


「船乗りのおっちゃんも冒険者さん達も聞いてくれたね。


証人ということでヨロシク!」


と言って港でサンを召喚してカジキマグロを狩りに出掛ける。


港で商人が、


「ずるいぞ!ドラグーンが居るなら先に言え!」


と叫んでいるけど無視、無視。


サンに入り江の口まで移動してもらうのだが、


入り江のすぐ外の外洋には観光バスぐらいの迫力の魚、〈キラーマーリン〉がグルグル回っている。


入り江の中には〈キラーマーリン〉を恐れた大型、小型問わず、魚がわんさか流れ込み、漁師さんはウハウハ状態だったらしい。


魚がお安く大量に買えたので俺も嬉しかったが、旨いと言われたからには〈キラーマーリン〉も手に入れたい、


ごめんよ、漁師さん達…

大漁フィーバーは今日で終了だよ。


と心の中で謝りながら、


アイテムボックスから、ずっと入れっぱなしにしていた〈イスタさん作〉の魔鉱鉄の槍とロープを取り出して、槍にロープをくくり、助っ人に〈パパン〉と〈テオ〉を召喚した。


そして、

いざ、漁の開始だ。


〈身体強化〉と〈剛力〉をマックスの槍を〈キラーマーリン〉の首筋に〈ターゲット〉をかけて、サンの急降下に合わせて打ち込む。


痛みを感じたのか、海中深くに逃げようとする巨大魚、


束ねたロープがスルスルと出ていき、何とか止めようと握りしめると、サンごと引っ張られる。


槍から俺まで伸びたロープをテオも掴み、ヤツが水中に逃げるのを阻止してくれる。


抵抗を感じた〈キラーマーリン〉は空中の敵を倒そうと急浮上し、そのまま勢い良く水面からジャンプして、長くて鋭い鼻先を振り回す。


俺は、テオにロープを任せて、サンでヤツに接近する、


とても綺麗なジャンプに見とれそうになるが、ドラグーンチームはそのチャンスを逃さない。


息を合わせたブレスが三方向から打ち込まれ、


フラフラと水面に現れた〈キラーマーリン〉の体をパパンが足で掴み、テオはロープを掴んだままで、岩礁帯まで引っ張っていく、


テオがロープを岩礁に引っ掛けると準備完了だ。


テオとパパンに一旦離れてもらいアイテムボックスから〈魔石ランドセル〉と〈魔杖〉を出して、


〈ターゲット・集中・サンダーランス〉


で〈キラーマーリン〉の中骨のラインを攻めて感電させていく、


杖の先から放たれた、〈槍〉の大きさの雷が〈矢〉程に圧縮されてキラーマーリンの肉に深々と刺さり一気に放電する。


打ち込まれる度に、〈ビックん、ビックん〉するキラーマーリン、


そして、感電し大人しくなった怪魚へ向かい、


最後にエラブタのすぐ上に〈ホーリーレイ〉を打ち込み息の根を止める。


エラから血が滴り、命のやり取りが終了した。


岩礁帯に乗り上げた巨体に、


ウィンドカッターを連発して尾ビレを切り落とし血抜きをする。


辺り一面が正に〈血の海〉にかわるが、入り江の中の魚達は、ヤツの死を理解して外洋に泳ぎ出る。


入り江の大漁フィーバーは終わってしまったが、港は巨大魚とドラグーンの戦いで漁師達も沸いてる、


〈良い見せ物だったようだ。〉


キラーマーリンをアイテムボックスにしまい〈テオ〉と〈パパン〉それに〈サン〉に切り落とした尾ビレの付け根の引き締まった肉を切り出して、オヤツとしてあげる。


岩礁の上で、喜びながら、〈旨い、旨い〉と食べるドラグーン達、


港まで帰ってドラグーンチームを送喚してから商人に近づくと、指を三本立てながら頭を下げているが、


俺は、無言で首を横に振りながら、指を五本立てた。


船乗りさんと、冒険者のリーダーが商人の肩に手を置いて、同じく首を横に振る…


商人は、ガックリ項垂れて観念した様子だ。


5つ、何を貰おうかなぁ~?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る