第105話 面倒臭い話し合いをする男

馴れない事をして、クタクタになり、

イライラしてしまった。


反省…


しかし、街の皆とのパーティーは、実に楽しかった。


パーティーの時以外に大浴場も特に使わないし、〈解放日〉みたいなのを作るのも良いかもしれないなぁ。



…などと、現実から目を背けてばかりもいられないから、面倒臭いがオッサン達にガツンと言ってやることにする。


ライザさんやサラ、それにアイシャさんまで巻き込んで…


三人には話したい事が一杯あるが、まだ話せていない、


その前に、オッサン達に〈言ってやりたい〉事が先だ。


「よし!」っと気合いを入れて、会談へとのぞむ。



俺の屋敷の応接室の上座に国王陛下が座り、以下ジェルバ様、ガイルス様、アルバート様がならぶ、


俺が下座に座ると、国王陛下が、


「ドラグーン子爵よ、今回の事、この者達から聞いた。


そなたの事を思い始めた事だろうが、悪ふざけが過ぎる。


そなたが怒るのも、もっともだ。


ドラグーン子爵の驚く顔みたさに、他家の家の者を貴族の威光を振りかざし、主人の許可もなく好き勝手にしておったそうだな…


誠にすなまかった。」


と国王陛下と、三人の貴族達が頭を下げる。


どうせ、こんなろくでもない幼稚な事をするのはガイルスのオッサンだろうけど…


「国王陛下、どうかお顔を上げて下さい。


こんな幼稚な事で喜ぶのは、ガイルス様ぐらいでしょう、


巻き込まれたお二方も、要らぬ心労をかけてしまいました。


申し訳ありません。」


と、頭を下げる俺に、


ジェルバ様とアルバート様は、


「止めて下さい、頭を上げて下さい」


と慌てる。


ガイルス様は頭を下げたままで、


「あのぅ、私は…」


と言うので、


「首謀者は暫くそうしといて下さい。」


と答えた。


「そんなぁ」と、ボヤいていたが無視しておく。



国王陛下が昨日皆に事情を聞き出した結果、何故こんな事になったかの経緯を話して下さった。


事の発端は金回りの良くないとある貴族が、ガイルス様の元に手土産をもって現れ、俺の女性の好みやらなんやらを根掘り葉掘り聞いて帰ったらしい。


この短期間で街を作る程の財力と手腕は燻っている下級貴族や財政難な領地にとって喉から手が出るほど欲しい、


場合によってはハニートラップや無理矢理な縁談で囲い込みをする事になる、


その前に、俺に気が有りそうな女性を有力貴族の養女にして婚約者とすれば、女性の恋の手伝いも出来て、他の貴族に後ろ楯として牽制ができる名案だったらしいが、


いたずら心から勝手に色々やっていたとのことだった。


俺は、ガイルス様達に、


「全く…


考えは理解しましたが、人選がいただけない!


なんですか?

俺に気がありそうな女性で、


ライザさんは、ウチで預かってる旧男爵家の町の人が気になって我が家に居るお嬢さんですし、


アイシャさんは、気があると言うか、常連の2つ上のお兄ちゃんぐらいの感想の街娘さんでしょ。


一番いただけないのはサラです。

師匠のためとか言ったら断れないでしょ?!」


と俺が言ったら、


「はぁ~。」と、ため息をついた国王陛下が、


「子爵よ、

お主の婚約者たちが、少し不憫になったぞ。」


と仰ったので、


「国王陛下もそう思われるでしょ?

無理矢理に婚約者だなんて…」


と俺が賛同すると、


国王陛下は、


「いや、そうではない、

ドラグーン子爵のあまりの鈍感さに、


娘達の気苦労がしのばれて不憫になったのだ…」


と呆れられた。


へ?


っと驚いていると、


ジェルバ公爵様が、


「子爵よ、私が言うのもおかしな話しだが、私の可愛い養女ライザは、心底そなたを慕っておる。


順番が違うのは承知の上で頼む、

我が養女ライザをもらってやってくれぬか?


そなたの為に、他の二人よりも専門的な勉強に励み、領地経営や貴族同士の付き合いのルール等を寝る間も惜しんで勉強しておったのだ…」


とお願いされた。


嫌ではない…むしろ嬉しい。

しかし、本人としっかり話してからでないと返事はしたくない。


「ライザさんとお話してからお返事させて頂きます。」


と答えると、ジェルバ公爵はホッと安堵の表情で椅子にヘナヘナと腰かけた。



アルバート伯爵も頭を下げ


「ウチの養女(むすめ)のサラちゃんも、

ユウ殿に嫁いでも、他の貴族に笑われぬ様にと、頑張っていたのだ。


確かに、ユウ殿よりサラとの付き合いは短い、短いがしかし、あれ程一途にユウ殿の為にと頑張る少女に心を打たれ、親として力に成りたいと心底思っているのだ…


たのむ、直ぐでなくても構わない、サラの夢を叶えてやって欲しい。」


と言って、頭を下げ続ける。


「アルバート様、サラの事を大事に考えてくださりありがとうございます。


どうか、顔をお上げください。


サラは私の可愛い弟子で、家族です。

サラとの関係は今後ゆっくりと考えるとしても、


サラの家族に成って頂いたアルバート様は既に私の家族も同然です。


これからも一緒に、サラを温かく見守って頂ければ嬉しいです。」


と答えると、アルバート様は憑き物が落ちたように晴れやかな笑顔になった。



ガイルス様が


「ユウよ、私もぉ…」


と話し出したので、


「私もではありません!」


とピシャリと言った俺は、今回の事をまとめて、このオッサンにお説教した。


「アイシャさんは、ライザさんやサラと違い、身近で貴族と気軽な会話をすることのない街娘さんですよ。


あそこまでの身のこなしや言葉遣いを覚えるまで、どれ程の苦労だったか、


俺と話がついた後で一緒に乗り越えるのであれば心の支えも有っただろうに、それを〈俺を驚かせたい〉という幼稚な考えから、一人きりで立ち向かわせて!


帝国では、恋愛以外なら本人同士でお見合いをして、納得した上での結婚らしいですよ、


それを、〈寄り親〉だからと、勝手に決めて、


そんな考えだから、帝国より色々取り残されてしまって居るんですよ!!


相手の意見を聞けないことは損失です。


自分の意見を押し付けることは罪です。」


と俺が言うと、


「私は何処から間違えたのだ?」


と項垂れている。ガイルス様、


「ほぼ最初からですよ。


周りの意見を聞かなかった時点で間違いです。


俺を驚かせたいなら、皆で話し合って婚約を決めて、花嫁修業をしたのちに、


発表のパーティーでいきなり花嫁衣装を着せて披露宴にする。


とかで十分腰を抜かしましたよ。


ガイルス様…?」


と、言うと更にガックリするガイルス様に国王陛下が、


「ガイルスよ、今回の事はそちの失態だ。


流れ人たるドラグーン子爵の目から見て、帝国より遅れていると評価された事は実に残念だが、事実でもある。


そこで、ドラグーン子爵よ、

許嫁件が落ち着いてからで良いので、

この国の遅れを取り戻す為に、知恵と力を貸してはくれぬか?


この通りだ。」


と深々と頭を下げられた。



また、何とも面倒臭いお願いをされてしまった…。

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