〜2章〜

第48話 朝チュンなんか嫌いだ!

☆連載再開話となります。読み飛ばしていただいても構いません☆




   ◇◇◇◇◇


 ――辺境都市「ルフ」 高級宿「風見鶏」



 チュンッチュンッ……


 俺の目覚めを小鳥の囀(さえず)りが迎えてくれる。横にスヤスヤと眠っているのは、俺の妻"アリステラ・シャル・フォルランテ"。


 寝顔すらも麗しすぎる聖女様だ。


 やれやれ……、昨晩、"鳴かせすぎた"か……?


「……ふっ……」


 余裕の笑みを一つ溢しながら、昨晩の愛の営みを反芻して、妻の白みがかった金髪を耳にかけてやる。


 俺はなんてイケメン(自称)なんだろうか?


「……んんぅ……」


 まだ寝ぼけているアリスは、モゾモゾと俺に擦り寄ると、またスヤスヤと寝息を立てる。

 

 もちろん、俺は"息子"をおっ立てる。


 モニュんッ……


 あらわになったお胸から伝わる脇腹への感触は、どんな攻撃よりも効く……。だが、安心してくれ。


 もうあの頃の俺じゃない。

 これしきのことで鼻血を噴いたりしない。


 ……そう、俺は生まれ変わったんだ。

 この1ヶ月の自堕落(スローライフ)、いや、天国(スローライフ)で、俺は次のステージに登った。


 あの日、あの時、この場所で……、俺は卒業した。


 大事な事だからあえてもう一度言おう。


 俺は、もう、めちゃくちゃ卒業した。


 チュンッチュンッ……


「ふふっ、小鳥まで祝福してやがるぜ……」


 『初めて』を超えてから、もう何度も何度も何度も。もう街中でイチャイチャするカップルを見てもイライラ、ムカムカする俺じゃない。


 カップルが座りそうな公園のベンチの横に、犬のう○ちを配置する俺じゃない。


 もう、俺は大人なのだ。

 大事な事だからもう一度言おう。

 俺はもう大人なのだ!!


 完璧すぎる。この生活がずっと続けばいい。

 抱いて、モフモフで寝て、エールを飲んで、抱いて、風呂中に抱いて、エールを飲んで、寝る前に抱いて、半分寝ながら抱いて……、


 チュンッ、チュンッ……


 小鳥に迎えられる。


 暗黒期は脱した。

 こんなにイケメン(自称)なのに、一切、モテることがなかった俺。なけなしの金を握りしめてはエールを身体にぶち込んでいた俺。


 それがどうだ?

 今では、世界一の美女にして、世界一の嫁を抱き、昼夜問わず9本のモフモフで惰眠を貪り、金の心配もせずにエールを浴びるほど飲んでいる。


 楽園……。

 そうだな、楽園(エデン)と名付けよう。

 ……よし。じゃあ、そろそろ、小鳥の囀りをBGMに、禁断の果実を食すとしよう! 


 俺の嫁。

 つまりは俺の果実(おっぱい)ってことだ。

 何したって許される。

 ……もう世界は俺のものなのだ。


 では早速……、"ハムハム"するぞ!!


 コンコンッ……


「アード様ぁあ!! おはようーー!! ドアにもたれて、リッカちゃんが真っ赤だけどーーー?? アリスー! 今日は一緒に周辺の村を見て回るんでしょー?」



 出たな、お邪魔虫め!

 だが、そんなものは気にしない!

 ここには、俺のモニュんモニュンッの果実が……、


 ガバッ!!


 俺の思考をぶった斬るように、慌てた様子で起き上がったアリス。乱れたままの髪と、綺麗な綺麗な2つの果実が目の前に……!!


 無意識にゴクリッと息を呑む俺を他所に、


「……おはようございます、旦那、様……」


 無表情で挨拶を述べ、徐々に顔を真っ赤にさせていく。恥ずかしそうに唇を噛み締め、パチパチと瞬きをすると、グッとシーツを引き寄せ、果実を隠した。


 ……うん。今日も最高にかわいいな。俺の嫁。

 

 最近ではアリスの無表情から少し感情を読み取れるようになっている。


 きっと心の中では、(うぅ!! 昨晩、あのまま……)なんて、俺との"アレ"を思い出し、(今すぐにもう一度!)と思っているに決まってる。


 わかってる。わかってるぞ、アリス!

 俺の準備は整ってるからな?!


 バッ!!


 俺はニコッと微笑んでから、アリスのシーツを引き剥がし、ふかふかのベッドに押し倒す。


「まだ、時間はあるだろ?」


「……だ、旦那様、外にカレンが、」


「あんなバカはほっとけ。じゃあ、朝の"愛運動"を……!!」


「……んっ、」


 アリスにキスをして、俺の果実に手を伸ばすが、


 ガンッガンッ! ガンッガンッガンッ!!


 ノックの範疇を超えている音が部屋に飛び込んでくる。


「アリスゥウ!! アード様ぁあ!! おーーはーーよぉーー!! もう朝だよぉお!!」


「「……」」


 雰囲気をぶち壊す女(バカ)の絶叫に思わず絶句する。


「開けるよぉ? 入ってもいい!? 入る! 僕、もう入るよぉお!!」


「うるっさいんだよ、バカ勇者!!」


「アード様ぁ!! お、おはようのキスを、」


「するはずないだろ! いま、いいところなんだよ! 新婚をナメるなッ!!」


 ……ガチャガチャッガチャッ!!


「おい! リッカ!! カレンを止めろ!!」


 俺が叫ぶと、


「……ちょ、リッカちゃん! 待って! 僕も行かないと! 一番弟子なんだから、色んなことを教えて貰わないと、」

「……ダ、ダメなの、カレン! 妾が主様に怒られちゃうの!」

「一緒に入ろうよ! 大丈夫さ! みんなで、ねっ!? みんなで!!」

「そ、そんなの、ダメなの!!」

「な、なんで!? リッカちゃん、いつも『1人』で、」

「や、やめてなのぉ!!」


 リッカの叫び声と共にピキピキッビキッと音が聞こえると共に、ひんやりとした冷気が部屋に入ってくる。


 シーンッとした静寂が戻ってくると、チュンッチュンッと小鳥の囀りが聞こえてくる。


 下を見下ろせば、顔を真っ赤にさせて少し紺碧の瞳を潤ませている裸のアリスがいる。


「旦那様、カレンが"氷漬け"に……」


「あぁ。流石にリッカも屠ってはないと思うぞ……?」


「……ですが……、へ、部屋のすぐ外に」


「……えっと、おっぱい触っていい?」


「…………」


 アリスは更に顔を赤くさせ、瞳を潤ませる。

 恥ずかしいって事なんだろう。だが……、なんだろう、この気持ち……。声を必死に我慢するアリスが見たくて仕方がないんだが……?

 

 俺は半ば無意識に果実に手を伸ばす。


「んっ……」


 慌てて手で口を抑え、うるうるの瞳で俺を見上げてくるアリス。


 その破壊力は……、


 ブシュッ!! ボタボタッ……


 俺に鼻血を噴き出させる事くらい容易にできる。


「だ、旦那様! 《回復(ヒール)》……!!」


 アリスの回復(ヒール)を受けながら、さっきの表情は二度と忘れられないなとニヤニヤと笑みを浮かべる。


 小さく首を傾げるアリスの頬に手を伸ばし、軽くキスをして、ベッドから起きた。もちろん、"息子"も起きているし、俺の顔は血塗れのまま。


 ふと思う……。


 俺は、なんて情けないんだろうか……と……。


 さっきまでイケメンで大人な俺はどこに行ったのだろうか。俺なんて、どうせ、ただの盛りのついた猿だ。ダラダラして、酒ばっか飲んで……。


 チュチュチュンッ!! チュンチュンッ……


 ……なんか、小鳥にすら笑われてるような気がする!! なんか「うわ、ダッサッ、コイツ……」とか言われてるような気がする!


 あ、朝チュンなんか嫌いだ!


 自分自身の情けなさに"息子"も呼応したようだ。


「……ありがとう、アリス」


 かなり遅れたが、まだ回復(ヒール)のお礼を言うのを忘れていたので小さく呟く。


 アリスは一瞬、何に対しての感謝の言葉なのかわからない様子でキョトンとしたが、すぐに理解していつもの無表情に戻る。


「……いえ。大丈夫ですか?」


「……あぁ、大丈夫! それより、今日は何するんだ?」


「今日はカレンと村を周り、聖回復薬(ホーリーポーション)を配りに行ってきます」


「そっか! 気をつけてな? 俺はリッカの尻尾で惰眠を貪るとしよう!! 帰ったら、ラフィールに行くぞ!」


「はい、昼過ぎには戻りますので」


「ああ」


「あの……旦那様?」


「ん? なんだ?」


「……い、いえ」


「ん? なんだ? 言いたいことは言ってくれ。気になるだろ」


「はぃ……。つ、"続き"は、その時にでも……」


 アリスは小さく呟くと、そそくさとベッドを後にして出かける支度に取り掛かった。


 俺の嫁……、最高だ……。

 昼からだなんて……まったく。

 けしからんな……、俺の嫁は……!!


 俺はまた鼻血をタラリと流しながら、


「あっ。そういえば、今日はシルフちゃんと"森デート"に行くんだった……」


 俺の行きつけの酒場「ラフィール」の看板娘シルフィーナから、「魔物討伐に付き合って欲しい」と言われていたのを思い出していた。






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