第2話 "縮小ぼっち"のソロ活動
―――辺境都市「ルフ」
怠惰な生活を送りながら、次の依代(よりしろ)となるパーティーを探したが、
「あぁ。【縮小】のビビりか……。確かにポーターは探しているけど、いざって時に逃げられたらたまったもんじゃねぇんだよな」
「……えっ? 一応、3組ともCランク昇格まで一緒に……。Fランクのクエストで遅れを取るなんて事ないぞ?」
「……それはお前の力じゃなくて回りのヤツらが優秀だっただけだろ?」
(コイツ、しばきたい……)
「まぁとにかく、他のパーティーを探してくれ」
「……ああ」
コレで15連敗だ。
クエストの報酬が少ないFランクまで譲歩してやったのにこのザマだ。
ふざけてる。どいつもコイツも俺を舐めてる。
まぁそれが狙いだし、上手く行ってると考えればいいんだが、ここまでパーティーが見つけられないのは初めてだ。
(……やはり、同じ都市で3回は多かったか)
俺は深く深くため息を吐き、行きつけの酒場"ラフィール"へと向かい、シルフィーナとガーフィールに泣きつく生活も17日間。
「……これはヤバいな」
朝、目が覚めて酔いも覚めれば現実が顔を出す。
ジャラ……
手元の金は1500J(ジュエル)。
宿代を払えないのはもちろん、エール3杯ですっからかんになる有金に、俺は流石に焦った。
誰もパーティー組んでくれないし、金はないし、頭は痛いし、なんかムラムラするし、散々だ。
ソロ冒険者は目立ちすぎる。
1人でクエストを行う冒険者なんて強者だけ。
悪目立ちして、ギルドマスターに目をつけられて高難度クエストを押しつけられるなんてごめんだ。
だが……、ルフから出る気はない。
俺はこの街がかなり気に入っているのだ。
お気に入りの酒場"ラフィール"はもちろん、領主が有能なのか、領民達に活気がある。
奴隷を見かける頻度も貧困の孤児も、ほとんど見る事がない。見るだけでストレスを感じる物が少ないのだ。
「俺、このパーティー抜ける」
もうすっかり口癖になったと言っても過言じゃないのだが、基本的に俺は都市を点々と旅しながら『Dランク冒険者』を続けている。
その中でも、この辺境都市"ルフ"は最高の街なのだ。
街を変えたくない。働きたくない。目立ちたくない。
だが、生きるためには金がいる。
(仕方ない……。1人で薬草採取のクエストでも受けて、適度にゴブリンでも狩るか……)
なんとも世知辛い世界だ。
◇
宿屋の亭主に見つからないように宿を脱出して、ルフの冒険者ギルドへと向かった。
「お、おい。"縮小ぼっち"、1人でクエスト受けるのかよ」
「"縮小ぼっち"1人だと死んじまうんじゃねぇか?」
「誰か一緒に行ってやれよ」
「はっ? お前が行けばいいだろ?」
「嫌だよ! そのノリで付きまとわれたら、」
「俺だってそうだよ!!」
俺が1人で薬草採取のクエストを発注するだけでこの騒ぎだ。
(……クソ共! 何が"縮小ぼっち"だ! そうだけどッ!! ふざけやがって……)
精神的なダメージで心が折れかけてる。
「では、アードさん。お気をつけて」
美人だが一切笑わない受付嬢の言葉に、ぺこりと頭を下げてそそくさと森に向かった。
サァアア……
風が木々を揺らす「ラハルの森」。
「《重力縮小(グラビティ・シュリンク)》」
フワッ……
森に入ると同時に自分の周囲3m52cmの重力を程よく《縮小》し、トコトコと歩いている。
【縮小】の範囲は176cmの俺の身長の2倍。
急な敵襲に遭っても、俺の周囲に来た瞬間に、この辺りの下級魔物は体制を崩すのでその隙に屠ればいい。
バカ高い魔導書を購入すれば、魔法系スキルを持ってなくても、魔法を覚える事ができる。
金と魔力さえあれば誰にだって魔法はできるが、正直、平民庶民に手が届く物ではない。
冒険者の中には、必死に金を貯めて魔法を覚えようとする者も多いが、俺はそんな金があるならエールを飲む。
索敵魔法の一つでもあれば楽なんだろうが、「重力縮小」で対応できるのだから何の問題もない。
「お、いいね!」
目についた木の枝を手に取り、
「……早くおいで、ゴブリンちゃん」
などとキョロキョロしながら進んでいく。
薬草採取なんて面倒な事をするはずもなく、手頃の魔物を狩って売る方が簡単だし、はるかに楽なのだ。
〜〜2時間後。
いくら歩いてもゴブリンは現れない。
よくよく考えれば、冒険者達の姿も消えている。
「……あ、あれ? ……ここどこだ?」
俺がパーティーを組みポーターとして最後尾にいたのには、"目立たない"の他に、もう一つ理由がある。
(ん? えっと、あっちから歩いて来たから。あれ? ルフの城壁に沿って歩いてたよな……? こ、ここ、どこだよ!!)
俺はめちゃくちゃ方向音痴なのだ。
正直、ダンジョンに入った事がないわけじゃない。
その時のメンバーが全員逃げてしまい、1人で1週間ほど彷徨った経験もある。
湧き水を啜り、ギリギリ食べれそうな魔物を食いながら生き延びたが、あの時に遭遇した"3つ首のドラゴン"にはビビった。
朦朧とする意識の中、なんとか討伐してたまたま転移陣で帰ってこれたが、あれ以来ダンジョン恐怖症なのは事実だし、俺がCランクに昇格しない理由だ。
基本的に誰かの後ろを歩く事で都市を歩き回っていたし、クエストもポーターとして最後尾を歩き続けていた。
10歳の頃、フォレストウルフを討伐した時も血まみれで遭難してしまい、両親にはかなり心配をかけた物だ。
(……さ、索敵魔法、めっちゃ欲しい!)
半泣きになりながら、その場に立ち尽くす。
ガーフィール。シルフちゃん。助けて。迎えに来て。もう、マインでも、ジェノムでも、エレナでも誰でもいいから!!
つい1ヶ月ほど前に、自ら離脱した"スターダスト"パーティーにすら助けを求める。
これは俺の慢心が招いた……いや、すぐ出てこないゴブリンが悪い!!
いくら強くたって、俺はなかなかに無能だし、クズだし、足臭いし、童貞だし、いい所がない。
唯一の長所は顔くらいだ。まぁそれも、俺しかそう思ってないみたいだし……。
あぁ〜……エール飲みたい。ガーフィールのつまみが食いたい。シルフちゃんと一緒のベッドで寝たい……。おっぱいを枕にしたい……。
座り込み、膝を抱えて半泣きになりながら、欲望だけをツラツラと心の中で垂れ流していると、
バサッバサッ!!
ソイツは俺の真上で翼をはためかせる音を響かせながら現れた。
(……デ、デカッ!!)
炎を纏った大きな怪鳥。
明らかに「ラハルの森」には存在しない化け物が姿を現したのだ。
ギョロッ……
はっきりと俺を"餌認定"したのはわかると同時に、コイツが"希望"である事を理解する。
コイツを屠れば、誰かが気づく!! ソイツらの後をこっそりとついていけば帰れる!! 完璧だ! 待ってろよ、エール!!
「よし、アイツを屠ろう!!」
俺は素早く立ち上がり、木の枝を手に取った。
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