「俺、パーティー抜けるわ」が口癖のスキル【縮小】のDランク冒険者、聖女と結婚して勇者パーティーに加入するハメになる

〜1章〜

第1話 「俺、このパーティー抜けるわ」


☆コミカライズ、『マガポケ』にて連載開始中です! 是非ご一読を!!☆






―――辺境都市「ルフ」 冒険者ギルド



「やった! Cランクだ!」

「俺たちってかなり早いんじゃないのか!?」

「私達の力が上手く噛み合ってるんだよ!」


 喜んでいるパーティーメンバー達を後ろから眺めながら、俺は深くため息を吐いた。


「このままBランク! いや! Aランクだって夢じゃねぇよ!」

「当たり前だ! 俺達はもっと上を目指せる!」

「そうね、この調子でいけば、3年もすればAランクにッ!!」



 希望に瞳を輝かせるみんなに苦笑し、


(お、おう。ま、まぁ頑張れよ……)


 心の中でそう言葉をかける。


 このパーティーの実力を考えれば、ずっとCランクで一生を終えるだろう。確かに弱くはないし、運が良ければBには上がれるかもしれないが、上がったところで死にかけて冒険者引退ってのが、妥当だ。


 まぁ何にせよ、このパーティーも潮時だ。



「俺、このパーティー抜けるわ」



 俺の言葉に3人はクルッと振り返り、顔を引き攣らせて絶句する。



「今まで世話になった。ありがとな?」


 まるで信じられない者を見ているかのように大きく目を見開いた3人に、


(……ふっ、"何度"経験しても笑えるな)


 などと口角が吊り上がりそうになるのを抑える。


 俺が自らパーティーを抜けるのは、このパーティーで38組目だ。


 『Cランク昇格』


 このタイミングでの脱退表明に皆があんぐりする。 

 

 それはそうだろう。ほとんどの冒険者達は地位や名声、ダンジョンに眠る秘宝など、莫大な富やロマンを求めて冒険している。


 Cランクともなれば、ダンジョン攻略の許可を与えられる事を意味するし、「このタイミングでの離脱は考えられない!」と、……そう考えるのだ。


「な、何言ってんだ? "アード"」

「……えっ? 俺達、何かしたか?」


 驚愕するリーダーの"マイン"と盾役の"ジェノム"。


「いいや、お前達は一切悪くない。ただ、ここから先の冒険でお前達の足を引っ張りたくないんだ……」


 俺は悲しそうな顔を貼り付け、うっすらと涙の一つでも浮かべてやる。自称イケメンの俺の完璧の演技に、みんなも涙を浮かべて……、



「あ、ああ! そういう事か! じゃあ仕方ないな!」

「まぁ、な……。いや……、悪いな、自分で言わせて」


 涙の1滴もないマインとジェノム。

 

「……ま、まぁいいじゃない! きっとダンジョンが怖いのよ。アードのスキルは……ね、ねぇ……」


 顔を引き攣らせながらも苦笑するのは治癒師の"エレナ"。


(こ、コイツら……。俺がどれだけサポートしてやってきたと思ってる!? 泣けよ! 少しくらい悲しめ!)


 まぁ別に本当に泣かれても面倒だからこれでいい。別に強がりではないし、これくらいは慣れた物だ。



「よ、よし! アードも俺達の活躍を楽しみにしてろよ?」

「そ、そうだな! いつか、一緒に酒を飲もうぜ!」

「駆け出しの頃は大変だったって笑い合いましょうよ!」



 そうなるといいな。

 コイツらはバカだが、決して悪い連中ってわけでもない。でもコイツらと酒を飲む事はきっとないのだろう。


 マインとジェノムは、「俺達も昔は冒険者として……」なんて若者に偉ぶっている姿が浮かぶ。エレナも仕事も出来ないくせに小言を言うタイプの治療院のおばさんにでもなる事だろう。


 『俺がパーティーを離脱する』というのは、そういう事だ。これまでに俺が脱退したパーティーで有名になった冒険者は1人としていない。



 なぜなら……、


 ほどよくバカで、ほどよく使えて、ほどよく勘違いしてくれる者達を俺が選んでいるのだから当たり前だ。



「ありがとな……! いつか自慢させてくれ! 俺もこの"スターダスト"の一員だったんだってな!」


「アード。任せてくれ……! 俺達はやるぜ!」

「ああ! いつか自慢させてやる!」

「うん! 私達、アードの分まで頑張るね!」


 少し煽りすぎたか?

 役に入ると自分に酔うのは俺の悪い癖だ。


「……じゃあな」


 俺はクルリと振り返った瞬間に、ポケットに手を突っ込んで有金を確認する。


 1ヶ月は酒を飲みながら、怠惰な生活を満喫できるな。うぅ〜ん……。"ルフ"では3度目か。なかなか『次』を探すのは骨が折れそう、



ガシッ……



 急に肩を掴まれ「ん?」と振り返ると、そこにはマインが立っていた。


「……マイン?」


「……なぁ、アード。余計なお世話かもしれないんだが、お前の【縮小】は"旅商人"とかが向いてると思うぜ? ……それだけ言っときたくてよ」


「……あ、ありがとう」


「物を小さくする事が出来るんだし天職だろ? そういう仕事も世界には必要なんだぜ?」


「……ああ。考えておくよ」


「よし! ……じゃあ、元気でな!?」


 マインはそう言い残しすと2人の元に帰り「祝賀会だぁ!」と声を張り上げた。


(冒険者を辞めろって事か? ……ふっ、余計なお世話だ。旅商人なんて重労働、俺がするわけねえだろ? ……ってか、送別会開けよ! なに祝賀会してる! バカめ! もう一生、助けてやらないからな!)


 俺は心の中で吐き捨てながら、


「さぁて……、今日は"シルフちゃん"いるかなぁ」


 行きつけの酒場への道を急いだ。






 ここで1つはっきりとさせておこう。


 俺は"最強"だ。俺が本気を出せば、この王国、いや、世界で10本の指に入る事が出来るだろう。

 

 この世界では7歳になると神からスキルが与えられる。それは万人に与えられ、その種類は無限とされている。


 俺のスキルは【縮小】と呼ばれる物だった。


 一見、最弱のスキルと呼ばれても不思議ではないスキルだ。


 自分の身長の2倍以上の大きさの物は小さく出来ない。生物に作用することも、自分自身に作用する事もないし、触れた物にしか作用しない。


 『ただ物を小さくする』スキル。



――クソスキルのアードだ!

――生きてる意味なんてねぇよな?

――アード君、かっこ悪い!

――ほら、荷物持ちしろよ! それしか出来ないんだから!



 いじめられる日々はキツかった。

 スキルを否定される事は、自分自身を否定されるのと同じなんだと知った。


 だが控えめに言っても、俺は生意気な子供だった。


 いくらバカにされても、殴られ、蹴られ、暴力を振るわれても、「お前らだって大した事ないくせに……」と心の中では村のいじめっ子達をバカにしていた。


 それと同時に探究する事を辞めなかった。


 生物と言えどアリくらいには作用するのでは? 《縮小》できる大きさを確定させないと……。


『何か、何か、何か……1つだけでも!!』



 「【縮小】という外れスキルよりかはマシだ」と、俺をいじめる事でいじめっ子たちに一矢報いたかった。


 なによりも、いじめられたままの自分が死ぬほど悔しかった。


 そして3年の研究を経て、微かな可能性に辿り着いた。7歳〜10歳のガキの3年だが、達成感は凄まじいものだった。


ーーフォレストウルフを討伐したら、1発殴らせろ!


 村のいじめっ子達は、俺の言葉に大笑いして「死にたいなら勝手にしろよ!」と俺を見送った。


 俺は憤怒を募らせながら、村に隣接する森の奥深くに足を踏み入れる。


 『"森の主 フォレストウルフ"の討伐』


 今考えれば「B+」のザコだったが、10歳の俺には決死の覚悟だった。


 クソみたいな日々に決別するため。

 俺がいじめられてる事に、「情けない親でごめんな」と毎晩、俺に隠れて涙を流していた両親のため。


 鋭い牙と垂れ続けるヨダレ……、自分の3倍はありそうな白い狼。



グルルルゥウ……



 威嚇してくるフォレストウルフに、ビビり倒して腰が抜けた。


 それはもうめちゃくちゃビビった。

 来るんじゃなかったと心から思った。

 自分で森に踏み込んでおきながら後悔しかなかった。



ガゥッ!!



 迫り来る牙、血走った緑色の瞳。


(あっ。死ぬんだ……)


 そう思った瞬間に、走馬灯が頭を駆けた。

 いじめられ、笑われ、「クソッ!」と【縮小】を研究し続けた日々が、頭を駆けたのだ。



「《空間縮小(スペース・シュリンク)》」



ズワァア……



 俺の手が"触れた箇所"は、黒い空間を生み出し、宙に"黒い跡"を残して、すぐに"塞がっていく"。


 【縮小】は出来ない物には一切作用しない。だが……、出来る物には"制限はない"。


 触れた箇所を最小に……、つまり、目に見えないほどに《縮小(シュリンク)》する。


 そうすると、世界が一瞬だけ"誤作動"を起こすのだ。



グズシャアッ!!!!



 フォレストウルフ自体を《縮小》したわけではない。『限りなくゼロに縮小された、抉りとられた空間』に頭を持って行かれたのだ。


 大量の血を浴びながら、俺は実験の成功と【縮小】の可能性を確信した。



「……ハハッ、【縮小】って最強じゃね?」



 そう呟いた俺は、股間に生ぬるい物を感じながらも満面の笑みを浮かべたのだ。



 あれから8年。


 俺は18になった。

 自分のスキルを使いこなすには充分な時間。


 絶対的な力を持った事がわかると同時に、「コレがバレたら大変な事になる」と理解した。


 英雄なんて面倒くさいものになりたくないし、微塵も憧れない。金には興味があるが、しんどくて辛い思いをしてまで得たい物でもない。


 俺の人生は違う段階に足を踏み入れた。


 いかに目立たないか。

 いかに怠惰な生活を満喫するか。


 答えはシンプルだった。


 『スキル【縮小】のDランク冒険者』


 クソスキルの下級冒険者。

 それはもう誰も疑うことなんてないだろう。


 【縮小】は一見、外れスキル。誰も期待なんかしないし、無能を装えばいくらでも無能になれる。


 神様は俺をよくわかってる。

 俺に【縮小】を与えてくれた神に心から感謝してる。




※※※※※




カランッカランッ



「いらっしゃい! アード君!」


 ほら、コレが俺の生活だ……。


 可愛い女の子のエプロン越しにでもわかるおっぱいの揺れを確認しながら、「いつかこの胸に顔を埋めるんだ」と妄想する。


「また辞めたらしいな? いい加減ツケを払やがれ! アード!」


 看板娘"シルフィーナ"に微笑みかけ、店主"ガーフィール"の声を無視する。


 適当にパーティーのポーターとして生活し、適当にサポートしながらクエストをこなし、その日の晩にキンッキンに冷えたエールを飲む。


 可愛い看板娘と、少し年の離れた友と呼べる店主がいれば完璧だ。


 この辺境都市"ルフ"は俺にとっての楽園。


「おい、文無しじゃねぇだろうな? アード」


「……ふっ、安心しろよ、ガーフィール! 金はある!! そんな事よりシルフちゃん、今晩、俺とどうかな?」


「ふふっ、はいはい、考えておきまーす!」

「ウチの娘はやらねぇぞ! ……で? 今日は?」


 お決まりの流れを確認し俺は頬を緩める。


「当たり前だろ? キンッキンに冷えたエールを!」


 言い終わると共に出てきた、エール。


 店主のガーフィールのドヤ顔に、看板娘のシルフィーナの可愛らしい笑顔。


 ここには俺の全てが詰まってる。

 こんな生活が俺の理想なんだ。


「聞いてくれよ、ガーフィール! パーティーを辞めたのに、送別会も開いてくれねぇんだ!」


「カッカッカッ! エール1杯だけは奢ってやるよ」


「ありがてぇ、"ガーフィール様"!」


「や、やめろ、気持ちわりぃ!」


「ハハハッ!」



 この時の俺は、これから"あんな事"になるなんて思ってもみなかった。


 勇者パーティーの麗しの聖女"アリステラ・シャル・フォルランテ"と結婚する事になるなんて微塵も思っていなかったんだ。




※※※※※【あとがき】*****



コミカライズも是非よろしくお願いします!!

二巻発売中です!


新作もスタート!!


『天職【鍵師】の転生者、勘違いで『勇者』を屠ってしまう〜悪漢から美女を助ける系のテンプレだと思って助けたら、アブノーマルなプレイを楽しんでいた勇者と聖女でした〜』


時間がありましたら、是非!

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