第3話 vs.獄炎鳥



―――ラハルの森




キュオオオオン!!!!



「おお! 本当に立派だ!」


 咆哮と共に身体を纏う炎が勢いを増す。

 巨躯に"紅炎"。美しさすら感じる。


 けど、そんな事はどうでもいい。


 俺はさっさとコイツを屠って『道案内』してくれるヤツをおびき寄せ、キンッキンに冷えたエールを飲む。まぁ……金ないけど。



バサッバサッ!! ボワッボワッ!!



 炎の怪鳥が翼を振るうと、火玉が雨のように降ってくる。


(……かなり広範囲だけど、荒いな)


 俺は冷静にそれを観察しながら、自分に着弾する火玉と放っておいてもいい火玉を選別し、



「《空間縮小(スペース・シュリンク)》」



 木の枝を振るいながら、即座に着弾するタイミングに合わせ、3m52cmの空間を"抉り取り"、火玉を消し去ると同時に……、



「《地面縮小(アース・シュリンク》」



 【縮小】は生物以外の"3m52cm"なら、基本的にどんな物でも《縮小》する。


 俺は、実際に地面を《縮小》するわけには行かない『世界』に対して、神の力……、すなわち"スキルの力"を与える事で、世界に一瞬の"誤作動"を引き起こさせる。


 この"世界"が出した"答え"は……、



パッ!!



 『俺を3m52cmだけ瞬間移動』させるという物だ。


 外れスキルだと思われている物でも、『世界に誤作動』を与える事ができれば、誰でも最強になりうるのだろう。


 まぁ初めてパーティーを組んだスキル【洗浄】の"ガイモン"に教えてやっても、1度として成功しなかったが……。


 まぁおそらく、この"真理"を理解して使いこなせるのは俺だけなんだろう。だから俺は胸を張って『最強』だと言えるんだ。



キュォオオオオンッ!!


 火の粉を落としながら空を旋回する怪鳥を見上げながら、首の太さを確認する。


(……うん。コイツ、大した事ないな)


 頭の中には"3つ首のドラゴン"との死闘が過ぎる。


 正直、はっきりとは覚えていないが、本当の意味で【縮小】を使いこなせるようになったのは、あの時だ。



ゴボゥッ!!



 クチバシの隙間からは炎が漏れているが、空にいるからって安心しているタイプの魔物だ。


「予備動作が大きすぎるんだよ」



グゴォオオオオ!!



 炎の怪鳥は、口から巨大な炎を繰り出す。


 かなりの距離があるのに、頬に感じる熱波は俺の髪の毛を少しチリチリにさせる。



(や、やりやがったな? 俺の唯一の長所がなくなるだろ! ボケぇえ!! どれだけ高温なんだよ! "ちょっと"は大した事あるじゃねぇかッ!)



 俺は空中と地面の距離を《空中縮小(スカイ・シュリンク)》。

 3m52cmだけ瞬間移動し、即座にもう一度行って《空中縮小》を繰り返す。


ボワッ、ボワッ!!


 雨のように降り注ぐ火玉を、空間(スペース)を"抉りながら"、縫うように怪鳥への距離を詰め、



パッ!!



 15度目の《空中縮小》を終えると、怪鳥は目の前に……。



キュォオオオオ!!



 ……あとは仕上げるだけだ。



バサッ!!



 怪鳥が炎の翼を羽ばたかせるとヒリヒリと熱波が頬を刺激する。俺の周囲、3m52cmの空気を《縮小》し、火の粉を消す。



バサッバサッ!!


 巨大なクチバシが猛スピードで俺に向かって駆けてくるが、


「《空中縮小(スカイ・シュリンク)》」


 正確に移動先を視認して横に"瞬間移動"。

 俺は怪鳥を躱すと共に、木の枝を振るう。


「《空間縮小(スペース・シュリンク)》、《回旋》!!」



 木が触れる部分から3m52cm伸ばした《空間縮小》を円を描くように抉ると、黒い円形の残像を残し、




グザグザンッ!!!!



 2回転半の回旋で、怪鳥の太首を斬り落とした。



ボゥワァアァア!!!!


 斬り落とした部分から高火力の爆炎が溢れ出る。


「《空間縮小(スペース・シュリンク)》、《円球》!!」


 即座に自分を中心に半径3m52の空間を一瞬だけ抉り取り、後方に3空中縮小して離脱する。



ゴォオオオオオオ……



 発火したまま落ちていく怪鳥は、ドスーンッと巨大な音を立てて、燃え広がっている森に横たわった。




スタッ……



 俺は悠然と地面に降り立ち、ふぅっと小さく息を吐く。


(久しぶりに戦ったな! ……これだけの大火事だし、すぐに誰か来るだろう!! さてさて、隠れますか!)


 やっとルフに帰れる算段がついた俺は、燃え広がる森から隠れられる場所を探そうとしたが……、



バチッ!!



 1人の美女と目が合った。

 大きく大きく見開かれた紺碧の瞳。


 驚愕の表情を浮かべながらも、感情の機微を感じさせない無表情の"絶世の美女"に、ゴクリッと息を飲む。



「……わ、わーー! 大変だー! 助けてーー!」



 戦闘を見られた可能性など一切、無視して無能を装ったが、そのあまりの美貌に少しだけドキッとしていた。



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