第11話 vs.勇者"カレン" ①




―――オリエント王国 「ジュラの丘」



 

ポワァア……



 ヨボヨボ賢者の転移魔法で小高い丘にやって来た。


(すげぇ……)


 俺はスキル以外の魔法を直に体験したのは初めてだ。シンプルに感嘆すると同時に、


(これを覚えれたら、迷子にならなくて済む!)


 俺の弱点克服に光明が見えた。


 穏やかな風が吹く心地よい丘。

 辺りには都市や村はなく、街道しか通った事のない俺からすれば、かなりの未知だ。


――仲間達と絶景を……


 アリスの言葉を思い出しながら、確かにこれは悪くないと頬を緩ませた。


「旦那様?」


「アリス。ここは?」


「カレンが幼い頃より修行していた"ジュラの丘"です。辺りには大自然が広がり、秘匿結界にも守られております。何をしても誰にも見つかる事はありませんので、ご安心して力をお使いください」


「へぇ〜……。何をしても見つからないのかぁ〜……。なぁ。アリス、ちょっと2人で昼寝するか?」


「……だ、旦那様。カレンとランドルフの前です」


「ぷっ、ハハハッ! 冗談だよ!」


 アリスは無表情のまま、顔を真っ赤にしてチラチラと2人の様子を伺っている。こうして、アリスをいじめる時が1番、感情が見えるし可愛い。


 ……癖になりそうだ。


「……帰ってからのお楽しみだな?」



ぷしゅ〜……



「ハハッ。可愛いぞ、アリス」



 真っ赤なアリスに頬を緩める。


 それにしても即刻、同居する事になるとはな。

 

 結婚=同居。


 真面目で頭の硬いアリスらしい。


 別にそこまで考えていたわけじゃないが、俺も望むところではあるし、いつか泊まってみたいと思っていたルフ1番の宿「風見鶏」での新婚生活は最高すぎる!



「"夫婦"の談笑を邪魔するようだけど、早速やろうか?」


 カレンはニッコリ笑顔だが、目は一切笑ってない。


 なんかすごく嫌われている気がするが、俺、なんかしちゃったかな? 胸がないって言ったのがダメだった?


 ないと言っても、つるぺたってわけでもなさそうだけど? まぁ気にしてるなら悪いことをしたな。


 顔は相当な美人だし気にすることないのに……って、


「……ん? 木剣でいいのか? "聖剣"は?」


「……聖剣を使う気は無いけど?」


「スキルは使わないのか? 勇者のスキル【聖剣神技】って聖剣じゃないとダメなんじゃないのか?」


「僕が聖剣を持ってても勝てるってそう言いたいの?」


 ……なんだ、コイツ。

 なんかずっと様子がおかしいぞ。こんなネガティブなヤツとあんまり一緒にいたくないんだけどな。


 俺が基本的にポジティブだから、イラッとする。



「いや、俺はスキルを使えないとキツイんだよ。そっちが使わないなら、なんか、"アレ"じゃないか?」


「……へ、へぇ〜……、わかったよ。じゃあ、聖剣"グラム"を使わせて貰う」


「わかった! よし。いつでも、どうぞ!」




ガゴッ!!!!



 俺の言葉が終わると同時にカレンは地面を抉り、一気に俺に襲いかかり聖剣を振るう。



ブォンッ!!



 咄嗟に《地面縮小(アース・シュリンク)》を発動させカレンの背後に瞬間移動するが、おおよそ人間のスピードとは思えない。


「……な、何をしたの!?」


「え? いや、こっちのセリフだ! なんだその加速! 人間の範疇超えてるだろ!?」


「……き、君、魔法の知識ないの?」


「……ないけど?」


「そ、そう……。じゃあ、行くよ!」


 カレンは先程よりも更にスピードを増して襲いかかってきた。またも《地面縮小》で背後に回るが、即座に2撃目が飛んでくる。



ブォンッ!!



 後方に退避し、カレンの動きを冷静に観察する。


 一切、無駄のない剣技。無駄がないだけに速さは相当な物だが、どこか単調。もっと緩急をつければ……って魔物相手だとそんなの関係ないか。


 俺は重力、空間、相手の攻撃速度、加速、魔法、etc……、無数の【縮小】のレパートリーを頭に浮かべながらも、地面(アース)だけを選択し続ける。



ブンッ! ブンッ! サッ! スンッ!



 多彩な剣技ではあるが、もうすっかり目が慣れてしまう。


 聖剣は使っても、スキルは使わないのか?


「お、おっと……」


 俺が少し体制を崩すと、



シュッ……!!


 死角からの鋭い突きが飛んでくる。俺はチラリと上空に視線を向け、《空中縮小(スカイ・シュリンク)》をして退避すると、



ドガッ!



 カレンは俺目掛けて跳躍した。


 そして、それに合わせ聖剣がキラキラと光を纏って輝き始める。



「《天昇聖牙(テンショウセイガ)》!」



スゥスゥスゥススッ……ズギャッ!!



 聖剣から光が伸びる。

 16の光が俺を取り囲むように四方八方から逃げ道を塞ぎ、真正面からは光に満ち溢れたカレンが俺を撃ち抜こうとしている。


 紅い髪はどこか神々しく、真紅の瞳は俺だけを見据えている。どう考えても、あの怪鳥よりも強い……、いや、まぁ俺に屠る気がないだけか……?


 そもそも、最初の方はあまりのスピードに面食らったが、目が慣れてしまえば大した事はない。


 タイミングに合わせて《空間縮小》をしていれば、カレンの身体は跡形もなく塵になっていたはずだけど、屠るわけにはいかないし、聖剣を壊すわけにもいかない。


 俺は「カレンが"使える"か?」がわかればそれでいい。まぁ"急所"を真っ先に狙ってこない所をみると、カレンも本気ってわけでもないだろう。



「《空中縮小(スカイ・シュリンク)》」



パッ!!



 難なく死地から抜け出し地上に帰ると、カレンは空に巨大な光の斬撃を飛ばした。



ブゴォオオオ!!



 まるで地上から流れ星が打ち上がるようだ。


 アレを食らったらどんな魔物だって屠れるんじゃないのか? あの怪鳥から逃げてたと聞いたが、調子でも悪かったのかもしれない。



 カレンはスタッと着地すると、引き攣った笑みを浮かべて大きく目を見開き、俺をまっすぐに見つめる。



「《聖剣召喚》……」



ポワァア……



 カレンが呟くと、光の粒子が舞い始めた。


 長い赤髪はサラサラと風になびき、真紅の瞳は周囲の光を受けてキラキラと輝いている。


(おぉ〜……、何を始めるんだ?)


 あまりの神々しさと好奇心に自然と頬が緩んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る