第12話 vs.勇者"カレン" ②
―――ジュラの丘
ズザズザズザズザズザッ!!!
カレンの周辺に光の粒子が舞い始めると、それらは集結して剣を形造り、7種類の聖剣が地面に突き刺さった。
(カ、カッコいい!)
おそらく各々の聖剣で"武技"が異なるのだろう。見てみたい気もするが、万が一、即死系の物があったとしたら笑えない。
(だいたいの勇者の力量はわかった。上手くサポートするだけで、俺は"ついていくだけ"でもよさそうだ!)
俺は即座に《地面縮小》を連発させて一瞬で距離を詰めると、5本の聖剣に触れて、1cmの大きさに《縮小(シュリンク)》するが、
ザッ!!
カレンは見た事のない形をした聖剣を手に取り、
「《聖天の霹靂》……」
ズザンッ!! ズガガガッ……!!
俺がつい先程まで居た場所の一直線上の地面が30メートルほど抉れた。
俺は残りの1本も《縮小(シュリンク)》すると、打ち終わったカレンの元まで、ジグザグに《地面縮小》しながら距離を詰める。
スゥウウ……
また光がカレンに集まりカレンはそっと瞳を閉じた。
(……気配を探り、俺の《地面縮小(アース・シュリンク)》の規則性を探し始めたのか? だとしたら、序盤からするべきだ。判断が遅い……)
パッと背後に回ると、カレンは素晴らしい反応で背後の俺に斬りかかろうとするが、何度も背後に回り続けたのはブラフだ。
カレンの反応速度よりも、俺の《地面縮小》の方が早いのは、もうわかっている。
パッ!!
もう一度背後に回り、聖剣を持つカレンの手をパシッと握りしめた。
「《縮小(シュリンク)》……」
スゥウウ……
1cmほどになった聖剣に、カレンは慌てて後ろにいる俺に振り返ると……、
チュッ……
俺の頬にカレンの唇が触れた。
「えっ? あ、いや、狙ったわけじゃないからな!?」
「……は、はぃ……」
慌てて声を張り上げて、その場を離れるとカレンはペタンと座り込み、目に虚無を滲ませた。
「……《縮小解除(シュリンク・オフ)》」
ガチャガシャガシャッ……
ペタンと座り込んだまま、ピクリとも動かないカレンの目の前に《縮小》した聖剣を元に戻すが、一切反応はない。
し、失礼なヤツだ!!
まるで、俺の頬が汚いみたいに落ち込みやがって!
嫌いだ! コイツ……!!
死ぬほど落ち込んでいるカレンに少し傷つきながらも小さく口を開く。
「お、俺の勝ちだな。毎晩のエール代よろしく」
「……え、あ、はい。"アード様"」
「……? ゴクエンチョウの素材はやるよ! 別に俺が持ってても仕方ないし、お前達が使うほうが有意義だと思うから……」
正直、俺は酒代を出してくれればそれで満足だし、装備や剣とかにもこだわりはない。そもそも、俺が売りに行くなんて目立つような真似は死んでもしない。
まぁ、恩を売っとけば、後々、サボっても許されるかもという打算がないわけじゃ……、
「あっ! ラフィールって酒場の修繕費で売ってやる! 勇者ならそんくらい出せるだろ?」
今朝のガーフィールとの"追いかけっこ"と莫大なツケを思い出した俺はそう付け加えた。
「……わ、わかりました。ありがとうございます」
未だ座り込んだまま放心しているカレン。
……こ、これから仲良くやっていける気がしない。
俺は所詮、"縮小ぼっち"。ちゃんとした仲間として関係を築いた事がない。
俺にどこか欠落しているものがあるのか? いや、こんなイケメン(自称)の俺の頬にキス出来たんだ、普通の女なら喜んでるはず……。
内心泣きたくなりながらも、カレンの肩に触れる。
「……え、えっと、大丈夫? さっきのは事故だから、」
カレンの顔を覗き込もうとすると、
パシッ……
アリスに手を捕まれた。
しかし、相変わらずの無表情で、この行動が何を意味しているのかは全くわからない。
「えっと、あの……アリス?」
「素晴らしい模擬戦でございました。やはり、旦那様の力は勇者パーティーに必要な物です」
そうだった。
普通に考えて、俺はここでカレンにコテンパンにやられておくべきだったんだ。
サァーー……
顔が青くなっていく。
アリスとの同居ですっかり舞い上がって、特に何も考えずに勝利してしまった……。
「……え、えぇー……っと、俺、装備とか全くないし、準備期間が3年はいると思うんだけど……?」
「……そうですか。承知致しました」
(……えっ? 承知致したのッ!!??)
アリスの無表情。
もう何がなんだかわからない。
えっと……あの、その……。
帰ったら好きにしていいんだよな……?
チラリと薬指の紋様を確認する。
と、とりあえずエールだ!!
目の前に極上の嫁がいる。
冗談はいくらでも言えても、いざ本当に『初めて』を実感すると、ビビってしまう。
どうせ俺は童貞だ! クソッ!
とにかくルフに帰って、ラフィールに行ってアリスと食事でもしていい雰囲気でも作ろう。
大丈夫、俺は出来る男のはずだ……。
アリスに腕を掴まれたまま、色々な妄想が止まらなくなってしまった俺は、ヨボヨボの爺さんを見て、気分を落ち着けようとしたが、そこには白目になってピクピクしている賢者がいた。
「ア、アリス! 爺さんが死んでるぞ!」
「……!! どうしたのですか、ランドルフ」
俺は知らなかった。
この時、覗き込めなかったカレンの顔が彼女の赤髪よりも、赤く染まっていた事を……。
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