第13話 〜ランドルフとガーフィールの見解〜


【side:ランドルフ】



―――酒場「ラフィール」



 つい先程、歴代最強と呼ばれる勇者、8本の聖剣に選ばれたカレンを難なく無力化した少年、"アード・グレイスロッド"。


 あまりに理解出来ない戦闘を目の当たりにして、意識が飛んでしまうとはワシもまだまだのようじゃ。


 「クローズ」の看板がかけられていたのに、アード少年は我が家のように押し入り、ボロボロの店内を直していた大柄の男に、


「ガーフィール! キンッキンに冷えたエールを貰おうか!」


 当たり前のように声をかけた。


「アード! 今日は休みだ! 今朝の事、もう忘れたのか?」


 大男はアード少年に言葉を返すが、ワシを見つけて大きく目を見開き、それはこちらも同様だった。



「……ラ、ランドルフの爺さん……。ふっ、まだ現役だったのか? 元気なこった」


「ガーフィール……。相変わらず、年上に対する言葉遣いがなっておらんのぉ」



 "ガーフィール・ロイ・ヨルミナート"


 元Sランク冒険者の優秀な盾役(タンク)。


 思わぬ大物との久しぶりの再会が霞んでしまうのは、やはり先程の『世界を嘲笑う』ような【縮小】の絶技のせいだろう。



「……2人とも知り合いなのか?」


「アード、この爺さんは、俺がガキの頃から最前線で活躍してた英雄なんだぞ?」


「ふぅ〜ん。そんな事より、勇者が金をたんまり持って来たぞ? 修繕費にでも当ててくれ! とりあえず、エールを!」


「……カッカッカ!! お前はブレねぇな。まぁ、これまでのツケはそれでチャラにしてやる。……ありがたく頂くよ。すまねぇな?」


「ふっ、もっと感謝してもいいぞ? あっ。シルフちゃん! ただいまぁ!」


「アード君。"アリスさん"も。いらっしゃい」


「お世話になります。シルフさん」



 アード少年はワシとガーフィールが顔見知りであった事など全くどうでも良さそうに、可愛らしい娘さんの元に駆け寄って行き、アリステラもその後に続く。


 カレンは、あの戦闘からずっと黙り込んでいて、いまいち何を考えているかはわからない。


 《聖剣召喚》まで使って本気で挑んだのに、軽くあしらわれたのが相当のショックだったのかもしれない。


 気持ちはわからなくもないが、相手が悪い。


 原理も何もわからない未知数の【縮小】と呼ばれる『恩恵(スキル)』。一見、なんの戦闘力もないように聞こえたが、底は一切見えなかった。


 おそらくは、"力の一端"。


 そんな印象と同時に、圧倒的な戦術眼がそれらを押し上げているという所感を抱いた。

 

 魔力の質が常人とは異なっているのはわかる。総量はワシやカレン、アリステラにくらべれば半分程度しかないが、その質は明らかに異質。


 魔族特有の重く禍々しい物でもなく、温かく包み込むような柔らかな太陽のような魔力。


 もしかしたら、感知している魔力は『大きなエネルギー』のほんの一握りでしかないのかもしれない。



「……アードは"勇者パーティー"に?」


「ガーフィール……。お主はどう考えておる?」


「あんたはどうなんだ?」


「……ワシはどんな有能なスキルを持つ物でも、複数のスキルを扱う魔族が相手でも、どうにかできる自信がある」


「……」


「じゃが、『世界』は相手にできん」


「……あんたがそう言うなら、俺の考えもあながち的外れじゃねえのかもな」


「お主は?」


「アイツは『神の子』さ。神がイタズラに造ったのか、使命を授けたのか……。それはわからねぇがな……」


「戦闘を見たのか?」


「仕入れの帰りに、チラッとな。戦闘じゃなく、ポーターとしてのサポートだったが、"アレ"は異次元の物だった」


「どのようにサポートを?」


「サイズにこそ変化はなかったが、魔物達の"あらゆる力"を【縮小】してやがったのさ……。それも、自分のパーティーメンバーがギリギリ勝てる範囲にな」


「……な、なぜ、こんな逸材が、こんな辺境に眠っておるのじゃ……」


「アイツは『興味』がねぇんだよ。地位にも、栄誉にも、金にも……。ふっ……、ただ、酒が飲めりゃいいんだ」


「あ、あれほどの力を持ちながらか……?」


「あぁ。……俺もよくわからねぇがな。ただ……、」


 ガーフィールはそう言うとアード少年を見つめて頬を緩め、言葉を続ける。


「いいヤツだよ。……びっくりするくらい生意気だがな!」


「……フォッフォッフォッ! それはお主と"波長"が合うじゃろうな!」


「俺よりひどいぜ? アードのヤツは!」


 チラチラとアリステラの胸に視線を落としては、誤魔化すようにエールを飲んでいるアード少年。


("神の子"にしては、ちと人間らしすぎるのぉ……)


 あまりに美味しそうに酒をあおる"神の子"に思わず頬が緩んでしまう。


 

「……ふっ。ワシも久しぶりに酒を飲もうかのぉ」


「おいおい! あんたが酒を絶ってたのか?」


「フォッフォッ! ガーフィール! この店で1番高い酒を! 今日は飲むぞい!!」


「……カッカッカ! もう若くねぇんだから、飲み過ぎには気をつけろよ?」


「お主も付き合うのじゃぞ!?」

 

「"賢者様"のゴチになるぜ!」


 10年間、続けた禁酒を解禁する。


 おそらく、今後の全ての"憂い"は果たされる。


 邪竜、怪鳥、"魔将王"、SSSダンジョン。それらのSSS難度クエストの数々を果たすために降り立った『神の子』のと邂逅。


「ア、アリス。本当に俺に全てを捧げるんだな……?」


「……はい。私はいつ"れ"も……」


「ちょ、ちょっ……、酒、苦手なのか?」


「いえ、初めて飲んだ"らけれす"……」


「待て待て! つ、潰れるなよ? 今日は『初夜』なんだぞ!?」


「アード君のえっち……。酔った女性に何する気なのかな?」


「……シルフちゃん、今朝の"抱き枕"の件なんだけど」


「はいはい。また今度ね?」



 あまりに人間らしい"神の子"との出会い。

 こんなめでたい日には飲まずにはいられなかった。



 気がかりは1つ。


(大丈夫かのぉ、カレンは……)


 圧倒的な力の差を見せつけられた勇者。


 1人で食事を摂りながら、何やら考えている様子のカレンが少し気になった。



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