第53話 ふぅ、ふぅ、ふぅ……はっ?
◇◇◇◇◇
ーーラハルの森
おっぱい! おっぱい! おっぱい!!
アリスよりも少し大きなおっぱい。
黒の下着は刺繍とフリルがあしらわれていて、とても可愛らしいものだ。
パシャパシャ……
少し水が深いところに向かい、すぐに顔や身体についていたゴブリンの血を洗い流し始めたシルフィーナ。
透明度の高い湖。
屈折してユラユラとゆれるおっぱいと露わになっているアリスよりムチッとした身体。
「ふっ、ふぅ~……」
バクバクの心臓を持て余しながら、俺は服をバッサバッサと脱いでいく。
堪らん。堪らんぞ、これはマジで……。
「あ、主様! なっ……、そ、"それ"……!!」
隣のリッカの声にハッと我に帰り、2人きりではない事を理解する。
な、なにをしようとしてたんだか。
ま、ま、全く、"俺"ってヤツは……。
「え、あ、……せ、生理現象だろ!! べべべ、別に、男なら、男なら正常な、」
「こ、"怖い"の!! な、なんでそんな、大きく、」
「う、うるさい! チラチラ見てるくせにッ!」
「脱がないでなの!! 嫌なの!! 妾は、み、見たくないのー!!」
「……な、なんか恥ずかしくなって来ただろ! 邪魔するな、リッカ! これは神聖な儀式なんだって言ってるだろ!!」
パシャっ!!
俺の大声にシルフィーナが反応する。
え、いや、あの!!
ち、違う……違わないけど、違う!!
バッキバキの"息子"を見せるわけにはいかない。ドン引きされて嫌われるのは、
シュルルッ……
リッカは尋常ではない真っ赤な顔を手で覆って、《幻術》で一本にしている尻尾を俺の腰に巻き付ける。
グッジョブ!!
何て有能な使い魔なんだ!!
あっ、りがとう、リッカ。
あっ。モ、モフモフであったかぁあい!!
もう情緒が不安定すぎて、焦りと興奮で心臓はドックドクのバックバクだ。
「そ、それは反則だよ。アード君……」
「えっ? なにが?」
「エ、エ、エールばっかり飲んでるくせに……」
シルフィーナはみるみる顔を赤くさせる。どうやら、俺の鍛え抜かれた肉体美を前に、悶絶したと言うことだろう……。
ふっ、エールばかり飲んでるからダルダルと思っていたのか? 舐めて貰っちゃ困るな。
毎朝、ゲロゲロに吐くまで飲んでるんだぞ? 嘔吐はなかなかに全身の筋力を使うんだ。トレーニングなんてしなくても、俺の腹筋はバッキバキだ!!
そ、それにしても、シルフィーナ……。
身体までほんのり赤くさせて……。誘ってるって事でいいんだよなぁ!?
また心臓が慌ただしく動き出して息苦しい。身体の内側がジーンッと熱くなって、血管が膨張する。
「……ア、アリスに言うの」
顔を覆ったままのリッカがボソッと呟く。
「…………」
「主様、浮ついてるの……」
「……リ、リッカも脱げ! みんなで水浴びするんだ! 今は"パーティーメンバー"だろ!? さっき、"掟"は教えたな? 早くしろ! 今日こそ、モフモフの"付け根"を見てやる!!」
「あ、主様は変態なの!! 妾は"ベッド"だし、ゴブリンの血もついてないから、別に水浴びなんてしなくていいの!」
「ふざけろ! いつも"ベッド"っていうと拗ねるくせに、こんな時だけ、」
「"使い魔"は後ろに控えてるの!!」
「ハ、ハハハッ!! こないだ買ってやったばかりだが、その着物(キモノ)は《縮小(シュリンク)》して、ビリビリに破り捨ててやる!」
「だ、だめなの! 主様に買ってもらったの!! こ、これ、気に入って……、あ、あ、主様、ク、クサイの!!」
リッカはシュルッと尻尾を離して逃げ出した。
ちょ、おい、おぉおおおおおい!!
シルフィーナに"モノ"を見せるわけにはいかない。アリスに報告されるわけにもいかない。
リッカを共犯者にするしかない!!
俺は逃げ出したリッカを追いかける。
「し、仕方ないだろ!! 匂いに関しては、さっきのゴブリンに文句を言え!! そんな事より、気に入ってたんだなぁああ! "ま、まぁ悪くないの"なんて言ってたくせに、」
「ア、アリスに言うの!!」
「言いたいなら言え!! 着物ならまた買ってやる!」
「や、やぁーなの! 助けてなの、シルフ!」
「ふざけろ! さっさとお縄につけ! 早くしないと『耳イジメ』なしだぞ!?」
「……なしでいいの!!」
「じゃあ、買ってやった"ブラシ"も没収だ!」
「い、いやなの!!」
「ハハッ!! 早く脱げ! お前も"共犯"にしてやる!!」
「主様はえっちなのぉ!!」
「いいから、さっさと、」
「……!?」
ガンッ!!
唐突に立ち止まり、低く身構えたリッカの頭に、俺の息子が……。
「グハァアッ!!」
イ、イタイ。イタイヨ。
モノスゴク、イタイヨ……!!
俺の目の前は一瞬、銀色だった。
多分、天国はこんな景色……って、何してくれてんだ!
「な、なにしてんだよ、リッカ! 急に立ち止まってんじゃない!! 使い物にならなくなったら、」
「さっきのゴブリンといい……、なんなの?」
「はっ? んな、いい加減な事言って」
「ちょ、ちょっと待つの! あ、主様……、コイツ、けっこう早いの!」
リッカは少し真剣な表情でピキピキと氷を纏い、臨戦態勢に入っていく。
……ん? 何してるんだ?
"暴力の気配"は感じないぞ?
俺はジンジンと痛む股間を押さえながら、ゆっくりと立ち上がり眉間に皺を寄せる。
おそらく、こっちに向かってるのは動物かなんかだろ? まったく、このツンデレ爆乳幼女は……。
「……おい、リッカ!! そんな誤魔化しが俺に通用すると、」
「ち、違うの! "なにか"来てるの!!」
「……はっ? 何言って、」
トンッ……!
リッカに身体を押されバランスを崩す。
「えっ? おい、リッカ!!」
ゆっくりと湖に落ちて行きながら、
ピキピキッ……
リッカは地面を少し凍らせてスゥウウッと白い息を吐く。
「"コイツ"はちゃんと『気配と匂い』があるの……」
「……はっ?」
パシャンッ!
湖に落ちた俺にシルフィーナが駆け寄ってくる。
自分が下着姿だと忘れているようなシルフィーナに、思わず鼻の穴を広げてしまいながらも、リッカの様子に集中する。
「アード君! どうかしたの!?」
「シルフちゃん。俺の後ろにいてくれ。俺もよくわからないが、絶対に守るから」
「え、あ、ぅ、ぅん……」
背中越しで顔を確認できないのがもったいないくらい、キマッてしまった……はずだ。
タッタッタッ……バサッ、バサッ……
森を駆ける音が聞こえ始める。
リッカめ……。どうせ、牛鹿(ウジカ)かなんかだろ。せっかくの水浴びを邪魔しやがって……。
心の中で悪態を吐きながらも、一応、身構える。"悪意"や"暴力"の気配はない。つまり、こちらに敵意を持っているヤツじゃない。
ピキピキッビキッ!!
リッカが無数の氷の槍を生み出した。
「……笑わせるの。そう何度も、妾の主様に近づけるなんて思わない事なの!」
迎撃する気満々のリッカ。
ガサッガサッ!!
木々の上から飛び出して来たのはボロボロでぐちゃぐちゃの泣き顔の少女……?
「リッカ! やめろ!!」
俺の言葉が響くと同時にリッカはピクッと体を震わせ、"現れた少女"は一目散に俺に向かってくる。
スッ……
手をかざして警戒するが、目の前に来ても「暴力の気配」はない。
俺はかざしたままの手で防御しながら、受け止めようとしたが、
ガッ!!!!
少女は俺の腕に牙を突き立てた。
「あ、主様ッ!!」
リッカは慌てたような叫び声と共に駆け寄ってくる。
「ア、アード君!!」
シルフィーナは焦ったように俺の背中から飛び出してくる。
「……いっ、いってぇな……。なんだ、このメスガキは……」
俺は自分の腕に噛み付いている白とピンクのグラデーションの髪の少女をみつめながら眉間に皺を寄せた。
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