第9話 これ、最高じゃね?
―――辺境都市「ルフ」
「……なんだってあんな野郎と」
「どうなってる? なんであんなヤツが……」
「おい、あれ"縮小ぼっち"だよな……?」
街を歩けば騒がれる。
俺の後ろには"爆弾"が付いてきているからだ。
強引で後先を考えないタイプの無表情、超絶美女。
利益のためには自身の身さえ捧げる、手段を選ばないタイプの聖女様だ……。
真面目で曲がったことを嫌う"完璧な聖女"。
「結婚したら」なんて条件を飲むなんて考えもしなかった。俺のアリスのイメージは見事に崩れ去った。
チラリと薬指に視線を向ければ、"3連の指輪"。タチが悪いことに本物の指輪ではなく、紋様が浮かび上がっていて、取り外す事もできないようだ。
「……なぁ、アリス。"これ"って?」
「《聖約》です」
「えっと……なにそれ?」
「私は旦那様に全てを捧げた言うことです」
「……で、俺は?」
「旦那様は……」
「……な、なに?」
「私から7日間離れると、……死にます」
「は、はっ……? マジで……?」
「マ、マジです」
アリスは俺の顔を見ようともせず、無表情でらしくない言葉遣いだ。※アリスの無表情に微塵も嘘だとは考えない。
7日間離れると死ぬ? そ、そんな無茶苦茶な話があるか!? 俺の平穏は……もう……。
「申し訳ありません。怒っておられますか?」
アリスは小さく首を傾げながら俺の顔を覗き込む。
サラサラの金髪を耳にかけて、キラッキラの紺碧の瞳を潤ませ、白い頬を染めて……。
……ちょっと待てよ。この子が俺の嫁?
え、えっとぉ〜……最高じゃね?
まぁ、確かにちょっと"アレ"なとこはあるが、こんな綺麗な美女が俺に全てを捧げると言っているんだぞ?
イケメンなのに一切モテなかった俺に、こんなに可愛くていい子でスタイルがいい妻が……?
「旦那様?」
「アリスは俺に全てを捧げるんだよな?」
「はい」
「好きにしていいの?」
「……はぃ」
無表情のまま、みるみる頬を染めて行くアリスにこちらまで顔が熱くなってくる。
「……シ、シルフちゃんも嫁にしていい?」
「…………先程の綺麗な方ですか?」
無表情なのが、なんだか恐ろしさを演出する。
「ハ、ハハッ、じょ、冗談、」
「構いませんよ。ですが、重婚は侯爵位以上の貴族にしか許されておりませんので」
そう言い残してトコトコと先を歩き始めたアリス。
照れ隠しのつもりで問いかけた言葉だったが、予想外の返答と予想外の態度が返って来た。
(ん? アリスって俺の事、好きなの?)
明らかに拗ねて嫉妬しているかのような……。いやいや、そんなはずないか。
――……仕方ありませんね。
あくまで勇者パーティー、あるいは、困窮している人々を救うためなんて、完璧な聖女でいるために俺の力を利用したいと言ったところだろう。
こうなったらもう仕方ない。
とにかく、死なないように気をつけながら勇者パーティーの一員として、いかにアリスとイチャイチャしながら怠惰に過ごせるかってとこだな……。
成り行きでこうなったとはいえ、勇者と賢者と聖女。優秀なヤツらがいるんだし、俺はついて行くだけでいいのかもしれない。
「拠点はルフでいいんだろ?」
「……はい」
「なんか怒ってる?」
「いいえ。怒っていませんが?」
「なんかムッとしてない?」
「していません。早くカレン達の所に行きましょう?」
「ふっ、その前に宿に戻って少しゆっくりしないか?」
「……こんなお昼からですか?」
大きく目を見開き、頬を染めるアリス。
「……ぷっ、ハハッ! 冗談だよ! まさか信じるとは思わなかったな!」
シルフィーナの"受け流し"もいいが、アリスはアリスで、何でも信じてくれるのもなかなか面白そうだ。
拠点もルフ。
『勇者パーティーに加入』
嫌な予感しかないが、実はかなり楽に金を稼げて、聖女を嫁に出来て、毎晩、美酒に酔いしれて……、うん、最高なのかもしれないな!
「……心臓がもちません……」
「ん? なんだって?」
「いえ。なんでもありません。こちらです」
アリスはトコトコと歩き始めた。
勇者や賢者との対面などめんどくさくて死にたくなるが、綺麗な金髪からかすかに見える真っ赤な耳に気づき自然と頬が緩んだ。
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