第41話 〜"絶望"と"混沌"〜 ②



ーーー???



 目の前に立つ3人。

 分離こそしているが、確信めいた物を感じる。



(いや、待て、そもそも我はなぜ、生きて?)



 グリムゼードは人型となっている自分の身体を確認し、キョロキョロと"地獄"を見渡すが……、



「早くもう一度会いてぇな……アード様」

「クフフッ、"私共"は姿を見せた瞬間に、"また"屠られてしまうかもしれませんがね?」

「いいじゃん! "屠られる"なんて経験、アード様しか与えてくれないんだからさ!」

「貴様らはうるさいのじゃ! 『大罪人共』が!! 妾が1番にこの世界に降り立ったのじゃから、妾が1番に向かうのじゃ。『クラマ』もおるしのぉ!!」

「ホンマになぁ〜……あの"九尾"、うまいことやりおったわ。"ワイ"も女やったらよかったで」



 自分の方になど見向きもしない者達に更に困惑する。


「……き、貴様らが"アジダハ"なのだろう? 何がどうなっている?」


 グリムゼードの言葉に、中央に立つ美男子はニヤリと口角を吊り上げた。


「カハハッ! おい……"本当"に死ぬか? 言葉遣いには気をつけな?」


「……我はなぜ生きている?」


「まぁいい。……治らなかっただろ? "あっち"で腕を失っても」


「……」


「どうやら……"世界"は"まだ存在してる細胞"を新たに生み出すことを許さねぇみたいだ」


 ニヤリと口角を吊り上げる男にグリムゼードはゴクリと息を飲む。


「……ア、"アヤツ"が生み出した世界に隔離されていたとでも言うのか? この"地獄"の全てがアヤツが生み出した"亜空間"とでも……?」


「現に"あっち"で生を終えたヤツら……。"抉られまくって"死んだヤツらは、"こっち"で《超回復》しちまうんだよ」


「ハッ! ふざけるな! 世界を新たに創造? 馬鹿げている! 人間風情が、」



モアァア……



「2度目だ……。言葉遣いには気をつけろ……。我こそが、この、『アード神』が生み出した『混沌(カオス)』の王だぞ?」



 縦長の瞳孔を持つ紫色の瞳が怪しく光る。漏れ出る魔力は冗談などではなく、"桁"が違う。


 グリムゼードが一瞬怯むと、見向きもしなかった化け物達の視線が一斉に目の前の男に注がれた。



「「「「「ふざけるな!!」」」」」


「ジーク! いつまでも座ってられると思うなよ?」

「クフフッ。"ジークさん"。次の『玉戦(ギョクセン)』では遅れはとりませんよ?」

「妾こそがアード様に1番に屠られたのだ! 『このアード様が創造した世界』の"王"は、妾こそがふさわしい!!」

「"フェン"も"ジーク"もうるさいなぁ。オイラが食べちゃうぞぉ!?」

「やかましいわ、ちょっと黙っとれ!」


 いがみ合い、殺気を飛ばし合う強者達(ツワモノたち)。


 グリムゼードが絶句する事しか出来ずにいると、周囲の声など煩(わずら)わしそうに耳をポリポリと掻いている正面の"男"と目が合う。


「まぁ、好きにしろよ。我らは、基本的に『あそこ』で"アード神"を見てるからよ」


 "ジーク"と呼ばれる男がグリムゼードに声をかけた。


 手がかりがないグリムゼードはジークが指し示した場所に駆け寄り、丘の上にポッカリと空いている穴を覗き込んだ。


「……こ、これは……?」


 そこには巨大な湖は透き通っており、先程『自分を屠った化け物』が、「エールを飲みたい! もう終わった!」などと叫んでいるのが見える。



「さて、どうする? アード神に服従するか? 争(あらが)うか? 争うってんなら、我が"ちゃんと"屠ってやるが?」


「……何者なのだ? あの……"アード"という者は?」


「……クハッ! 我らが崇める『神』だ!」


 グリムゼードはアードを"纏う者の正体"との邂逅を理解すると同時に、


(……"羽虫"だったのは我……か……?)


 アードとのあまりの"力量差"に言葉を失った。



ドサッ……



 グリムゼードは腰を抜かして座り込む。


(この者達、全てを従えているとでもいうのか? あの"歪な匂い"の正体はコイツらの魔力? 残滓? 一部? なんにせよ……、)


 そもそも、自分が相手にできるような相手ではなかったのだと頭を抱え、冷酷な漆黒の瞳を思い出しては身体を震わせる。



「……き、"貴様ら"は『ここ』で何を……?」


「……まぁ"新入り"だから許してやるが、3度も言わせるな。言葉遣いには気をつけろ」


「……"貴様ら"はここで何を?」


「……カハハハッ!! 面白えな、お前! 萎縮しないヤツは久しぶりだ! なぁ、"ロックス"!」


 声をかけられたのは、全身に炎を纏い、腕が翼になっている黄色と赤が入り混じった髪の美少年。


「……ソイツは"魔将王"でしょ? そもそも、ソイツも普通じゃないのさ! "あの人"に屠られて、気がついたら、また"死地"。……普通は『勘弁してくれ』って感じだよ」


 苦笑したのは"獄炎鳥"のロックス。


 ジークは「カハハッ!」と笑い、グリムゼードに向き直る。


「よし! 気に入ったぜ、お前」


 予想通りの"獄炎鳥"。


("この場にいる者達"は全員……?)


 聞かずともこの答えはわかっている。


 それよりも、


「ここで、何をしている……?」


 グリムゼードにとっては「ここでこの化け物達が何をしているのか?」の方が疑問だ。


「……我らは待ってるのさ!! アード神が我らを"呼ぶ"時を!」


「……最終決戦(ラグナロク)か……?」


「……どうかな? アード神が我らを求めてくれる時こそが、我らの全て! イレギュラーでの"呼び出し"……、順番は"強いヤツ"が優先だ! つまり……、"ジーク・アジダハーカ"。この混沌(カオス)の王である、我こそがアード神の1番の家臣となれるってわけだ!」



「「「「ふざけるな!」」」」



 その場にいる者達は同時に叫び、殺気を飛ばす。



モワァアア……



 尋常ではない"魔力漏れ"。

 周囲に魔素が混ざり合い、漂い、"並の魔物"ではすぐに消滅してしまう。

 

 ピリピリと張り詰める雰囲気の中、グリムゼードはゴクリと息を飲み口を開いた。


「……我は"中立"。あの"アードと言う者"に仕える気にはならん!」


「……」


「し、しかし……、歯向かった所で敵わない事は理解している。……ここに"生"があるなら、我は生存本能に従い、誰が相手でも争(あらが)うが……?」


 グリムゼードは、まだ自負は失ってはいない。


(確かに強者ばかりではあるが、『アヤツ』に比べれば……"理解"できる範疇。あの"化け物"に歯向かう気はないが、奪おうとするなら何人かは道連れに……)


 すっかり回復している四肢と魔力。

 生き残れるとは思っていなかったが、平伏す事も出来ない。



シィーン……



 様々な視線を一身に受け止めていると、



「……カハハッ! "白"だな。まぁ、いいだろう。お前の"部下?"は大バカだったから、我が屠ってしまった。悪かったな」


「……」


「まぁ……、アード神を見てれば、そのうち好きになるさ! あのお方の"生き様"に……」


「……」


「ふっ、死にたくなったら声をかけろ。いつでも屠ってやるからよ」


 ジークはそう呟くと、ふわりと宙を舞い湖を覗くために作られたであろう『玉座』に腰掛けた。



「グリフォン……、いや、"グリムゼード"。ここのルールは2つ。『アード神への反逆は許さない』。それから、『この世界の"弱者共"を甚振(いたぶ)り、踏みにじれば、我らが貴様を甚振(いたぶ)り、踏みにじる』……と言う物だ」


「……」


「ようこそ! 『混沌(カオス)』へ!!」


 ジークの笑みに、グリムゼードは沈黙した。


 この場で戦った所で、よくて"6番目"。その他の者達に関しても、勝てたところで"瀕死"になるほどの者ばかり。


 自分こそが至高であると信じて疑わなかったグリムゼードは、"現実"を前に沈黙するしか出来なかった。




 ここは『混沌(カオス)』……。


 完全なる弱肉強食の世界。


 ルールは2つ。


 『創造神"アード・グレイスロッド"に対する反逆を許さない』

 『この世界で"弱者"を虐げれば"自ら"が虐げられる』


 それは王であるジークも例外ではない。

 "無意味な殺生"を行えば、複数の強者(ツワモノ)達に命を奪われる事になるのだ。


 強者達は待っている。


 アードが呼びかけ、求めてくれる"その時"を。





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