第49話 森デート ①
――ラハルの森
グザンッ! ガッ、グシュッ!
襲い掛かる6匹のゴブリンを真剣な表情で屠ったシルフィーナは、ホッと安堵したように俺達に視線を向けた。
「……ど、どうかな? アード君、リッカちゃん」
シルフィーナからの問いかけに、俺は曖昧な笑みを返した。単純に顔が引き攣っているといった方が伝わるかもしれない。
シルフィーナの両手には短剣(ダガー)が握られ、周囲にはゴブリンの残骸。
「え、えっと……、アード君?」
「……え、あ、あぁ。すごい、ぞ……? 少し驚いた」
「そ、そっか! ……い、いい意味でかな……?」
「あ、あぁ。もちろん」
「よ、よかったぁ~!!」
パーッと明るくなるシルフィーナの笑顔に、俺は更に顔を引き攣らせ、つい先ほどの戦闘を思い返しては言葉を失った。
襲いかかってくるゴブリン達の眼は血走っていた。
目の前に"極上の女"がいるのだから、それも当たり前だ。卑猥すぎる血走った瞳には見覚えがあり、それが鏡に写った時の俺だと気づいた時には泣きたくなった。
とまぁ、そんな事はどうでもよくて、襲いくるバッキバキのゴブリンたち。
それらをスルッと躱し、力に逆らわないように受け流し、はたまた未然に防いでは、無防備な首に容赦なくダガーを突き立てていた。
グザッグザッ!!
首を斬り落す事は腕力が足りないように見えたが、的確にゴブリンの核とも呼べる場所を射抜く姿には驚嘆せざるを得ない。
「本当によかったよぉ~! ゴブリンってなんだかエッチだよね? 視線だけで気持ち悪かったんだぁ!」
シルフィーナはそう呟いて苦笑を浮かべるが、
……えっ? 嘘だろ……。
お、俺は大丈夫か……?
いやいや、イケメンだから大丈夫だろ?
だれか、大丈夫って言って!!
俺はさらに顔を引き攣らせ、チラリと隣にいるリッカに視線を向ける。
しかし、
「……これがシルフの"スキル"なの?」
リッカもシルフィーナを見つめて固まっている。
そりゃそうだ。
"酒場の看板娘"。いつもニコニコでノリが良くて、おっぱいデカくて、笑顔が最高に可愛い無邪気な女の子。
そのイメージは見事に崩れ去った。
片方の短剣で相手の攻撃を"受け流しながら"、もう片方の剣でゴブリンを蹂躙する姿は、B……いや、すでにAランク程度の実力を持つ冒険者に見えた。
最初はバユンバユンのおっぱいに釘付けだったが、その鋭い眼光と柔軟な身体に瞳を奪われてしまったのだ。
おっぱいはもちろん、身体の柔らかさってなんかエロかった。
なんかわからないが、身体の柔軟さは肌の柔らかさや、色んな"形"に直結……、って、いや、そうじゃなくて……、
それとは対照的な真剣な表情がたまらん!
ゴブリンとはいえ、あまりに一方的な蹂躙は、俺達を唖然とさせるには充分だったのだ。
シルフィーナは未だに固まっている……いや、ドン引きしている俺達に、「へへ……」と安堵したように少し頬を緩めたが、俺達はドン引きを継続中だ。
「えっと……リッカちゃんもどうだったかな? ウチ、ちゃんと戦えてた?」
「……た、戦えてるの。魔力量はカレン、アリス、ランドルフには遠く及ばないけど、シルフもなかなかやるの」
「ほ、本当!? 本当にウチ、ちゃんとできてたかな!?」
「……シ、シルフのスキルはなんなの? 初見ではわかりづらいの」
「ウチのスキルは【追憶】だよ! 触れた物の『声』を聞けるの! これ、2本ともママの短剣なんだけど色々教えて貰ったんだ!!」
「お、教えて貰った……って、そんなのマスターできるものなの?」
シルフィーナは「ふふん」と誇らしげに微笑み、
「まだまだだけど、少し頑張ったんだ!」
ニカッと屈託のない笑顔を浮かべた。
思えば、シルフィーナはアリスたちがルフを訪れた時くらいから、両手に包帯を巻いていた。
――大丈夫だよ! ありがとう!
わけを聞いても、アリスが治癒しようとしても、そう言ってはぐらかしていたが、どうやら双剣の扱い方を練習していたのだと理解する。
それにしても【追憶】か……。
俺からすれば、かなりの"強スキル"。
一見、戦闘力なんて無さそうに聞こえるが、俺が助言をすれば、カレンやランドルフ、アリス達と同等の力を手にする事が出来るものになる。
「……すごいの、シルフ。経験はまだまだ足りないと思うけど、これからもっと色々な"武具の声"を聞けば、もっともっと強くなれるの!」
「うぅ~……、ありがとう、リッカちゃん!! とっても嬉しいよぉ!!」
シルフィーナは叫びながらリッカに抱きついて、リッカは少し照れたようにフイッと顔を逸らしながらも尻尾をフリフリとさせる。
でも、そんな事はどうでもよくて、巨乳同士のハグ。意識せずとも、モニュんむにゅんをガン見する。
間に挟まれたい……。
顔を埋めたい……。
って……、違う、違う。"武具の声"だと? いやいや、そうじゃないだろ……? 『"スキルの様なもの"が鍛錬しだいで増える』なんて単純な物じゃない。"全ての声"を聞けば……、とんだチートだぞ?
俺は煩悩と考察の狭間で、そんな事を考えながら、「……ふっ」とカッコつけて小さく笑ったが、
「……ふふっ! アード君、鼻水が出てるぞ?」
シルフィーナはいつもと変わらないイタズラな笑顔で俺の前に立ち、「そんなに驚いてくれて嬉しい!」と俺の鼻水をハンカチで拭ってくれた。
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