51 装備いろいろ

 

「新エリアなら、魔物がかなり強くなっているはず。だから、動く前に装備を整えよう。まずはレオから始めたい。いいか?」


 早速、そう提案した。


「うん。この貧弱な装備じゃ、どう考えてもヤバいよね。余っている装備を分けてもらえると助かる」


 レオは着ているのは、ゲーム序盤で手に入る店売りの装備で、初心者装備よりはマシといった程度のものだ。


「実は予備の装備で、レオにぴったりなのがある」


 そう言って取り出したのは、以前、仲間フレに作ってもらった籠手と胸当て。そして、イベント報酬で貰ったものの、ずっと亜空間にしまいっぱなしになっていた盾だった。


 SSR【隕星の籠手】VIT+30 AGI+40 INT+10 耐久500


 SSR【隕星の胸殻】STR+20 VIT+50 AGI+50 INT+10 耐久400


 SSR【風霊の盾】STR+10 VIT+50 AGI+50 INT+20 耐久400※イベント報酬


 籠手・胸当て・盾の全てに、AGI速さステイタス上昇が付与されている。速さ特化でスキルを組んだというレオには、ちょうどいい。そう思って渡したら、レオから予想外の反応が返ってきた。


「ねえ。これって、プレイヤーメイドの特注品だよね?」


 うん、合ってる。やっぱり一目見ただけで分かるか。


 デザインが凝っていて、NPC産やプレイヤーメイドでも量産品のものとは明らかに見た目が違う。


「盾以外はそうだ。俺用にステータスを調整して作って貰ったものだけど、譲渡すれば問題なく使えると思うよ」


「いや、そういう意味じゃなくて。俺が以前対価に渡したのって、ガチャ産の既製品的な装備で、それも刀だけ。さすがにこんなに手の込んだ上等なのは貰えないよ。もっと普通のってないの?」


 いやいや。トレハンでレオから譲渡された鬼丸は、課金ガチャ産だけあってかなり上等なものだった。でも、レオを見ると、そう言って押し切っても納得しなさそうな表情をしている。


 ……と言っても、代わりの品はないんだよな。


「申し訳ないが、自分が使わないものはすぐに売却しちゃうから、他に予備の武具はないんだ。もし気になるなら、一時的に貸し出すってことでどうだ? ISAOに着いたら、フレに頼んで改めてレオ用に新しいのを作って貰おう」


「俺に凄く都合がいいけど、それでいいの?」


「もちろんいいさ。俺たちは仲間で運命共同体だ。だったら、パーティの戦力を上げるために貸し借りするのは当然だろ? 死に戻りはパーティが分断されてしまうから、出来るだけ避けたいしな」


「そっか。貰うんじゃなくて借りるね。……分かった。ならいいかな。今はありがたく借りておくよ」


 よしよし。こういう素直なところもレオの長所だったりする。


「問題は武器か。同じ理由で、剣や槍は残念ながら持っていない。棒なら複数持っているから貸せるけど……」


「棒? 使ったことないや。見せてもらってもいい?」


「これだ。槍とは重心が異なるが、長さはほぼ同じ。Sスキルを取るか、繰り返し使って一般スキルを獲得する必要はあるが、穂先のない槍と思えば使えるんじゃないか?」


 SSR【金箍棒きんこぼう】STR+120 AGI+40 LUK+10 耐久500


「うわっ! これ、めっちゃ強力じゃん。こんなのを借りちゃってもいいの? スバルは武器はどうするの?」


「更に強力で俺向きのステータスの棒と、あと杖もあるから大丈夫だ。俺も棒を使うのは久々だから、試しにちょっと打ち合いをしてみるか?」


「そうだね。勝手が違うから、使い方を教えて欲しいかな」


「じゃあ、やるか。香里奈、しばらく待たせてしまうが、それでもいい?」


「ええ、もちろんよ。戦力になれなくて本当にごめんなさい。その間、私も何か戦闘に役立つスキルを取れないかチェックしておくわ。スキル枠が幾つか空いてるから」


「それって、攻撃スキルを取れたりする? もし取れるなら、いいものがあるんだが」


 そう言って取り出したのはこれだ。


 ・SSR以上確定/職業別・武器/防具/アクセサリ・選択召喚券 1


「召喚チケット?」


「そう。職業別だから神官職の武器しか選べない。でも、香里奈ならその点大丈夫かなと思って」


「貴重な召喚チケットでしょ? 無駄にはできないわ。私の職業は『聖詠師』といって、神官系統の派生職ではあるけど、かなり特殊な転職になるみたい。だから、攻撃スキルが取れるかどうか分からないのよね。とりあえず保留にしてもらってもいいかしら?」


「わかった。じゃあ、スキルをチェックしてから相談で。それと、香里奈にはこれを渡しておく」


 SSR【天隕のダイアデム】 VIT+20 INT+20 MND+30 LUK+10 耐久500


「これは?」


「額帯といって、頭につける防具になる。今の装備よりもかなりステータスが上がるはずだ」


「借りてもいいのかしら?」


「ああ。俺の持っている神官服は女性は装備できないから、これくらいしか貸せるものがない」


「神官の装備って、なぜか男女別なのよね。ありがとう。じゃあ、ありがたくお借りするわ」



 そうして装備を整え、棒の打ち合いを終えて、俺たちは遠くに見える街を目指して進むことになった。


 ちなみに、マスコットの二人……《御使い妖精》のメレンゲと《聖妖精ユールトムテ》の爺はちゃんと呼び出すことができた。


「わあ。可愛いわね」


「こいつら、喋らないの?」


 レオと香里奈はマスコット妖精を入手していないそうで、もの珍しげに二人を眺めている。


 一方で、もう一人というか、一頭といったらいいのか、空飛ぶ騎獣である《神獣 索冥さくめい》は残念ながら呼び出すことはできなかった。


 呼び出そうとすると、


 《エリアが未解放です》


 ……というメッセージが出るだけ。索冥がいたら、かなり楽ができたのに。そう都合よくはいかないか。


 さらに、マップを見ようとしても、


 《この場所の地図を入手していません》


 フレと連絡を取ろうとしても、 


 《このエリアはまだ未解放です。未解放エリアから解放エリアへのメールの送受信は行えません》


 ……やっぱりダメか。以前もそうだったけど、このゲームはそう甘くない。


 こんな事態になってもその厳しさが少しも変わらないことに、ついつい溜息がこぼれてしまった。

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