16 野営
渓谷で一泊してから、海岸線へ戻って北上を再開した。
レオとは既に合流済みだ。随分と待たせてしまったけど、パーティ登録をしているので、待ち合わせ自体は難しくなかった。
レオは渓谷周辺で狩りをしながら待っていてくれた。
「4日もかかるとは思わなくて心配しちゃった」
「すまない。まさかそんなに時間が経っているとは思わなかった」
時間感覚が狂っていたのか、それともあの場所の時間の流れが特殊なのか、外では4日ほど経過していたが、俺の時間認識とはかなりズレがあった。
……おそらくその両方なのかも。
試練の間は不眠不休でsessionが進んだ。空腹値には変化がなく、疲れも感じない。あの時は、なぜか疑問にも思わなかったが、それも含めてゲーム的な特殊効果が働いていたのかもしれない。
「血脈スキル凄いな。源次郎のは空中戦ができるのか。そういえば、源次郎の種族名って鳥っぽいもんな。なんか納得。じゃあ、龍種族である俺の血脈スキルって、いったいどんなのかな? 」
レオ……鳥っぽいじゃなくて、まさに鳥だと思う。でも、はたして鵄=鳶でいいのか? そこはちょっと疑問だ。
鳶というと、以前江ノ島で見かけた光景が目に浮かぶ。地上を見張るように海岸の上空を飛んでいて、隙を見て観光客の持っている食べ物をかっさらう。そんなイメージが強い鳥だ。
タカ科の鳥だから外見はカッコいい。でも小動物を狩る鷹や鷲に比べると、なんか弱そうだなという印象が拭えない。
一応SR種族なわけだから、弱いはずはないと思うけど。もしかすると「金鵄」というのが、普通の鳶とは違う、なにか特別な生き物なのかもしれない。
「……龍か。龍と聞いてパッと思いつくのは、やはりブレスだな。でも、蒼龍の元ネタが四神の青龍なら、それ以上にもっとなにかありそうだな」
「うーん。ブレスも悪くはない。……ないんだけど、どうせなら源次郎みたいに、戦い方が劇的に変わるようなスキルの方がいいな」
「劇的っていうと?」
「それが思いつかないんだよ。今は、頑丈な身体で敵の攻撃を凌いで、力に任せて攻撃するっていう感じだろ? それだと、なんかカッコよくないっていうか……」
「レオのステータスは重戦士タイプだからな。俺は、そういう風に敵の攻撃をしぶとく受ける戦い方も、かなりカッコいいと思うぞ」
「そうかな? 源次郎がそういうなら、ありな気もしてきた」
現金だな。俺の言葉で、すぐに気持ちが切り替わったみたいだ。自分の価値観がまだ曖昧なのかもしれないが、素直っていうか、単純っていうか。それがレオのいいところでもあるけど。
「おそらく、レオの種族に相応しいスキルが来るはずだから、楽しみに待っていればいいんじゃないか?」
「そうだな! 早く来い! 俺の血脈スキルちゃん!」
◇
日中ひたすら歩き続けたら、日が暮れる頃には、目印になる河川にたどり着いた。西から東へ向かう緩やかな流れが、海岸線近くでS字状に急カーブを描いて、北へその進路を変えている。
「この川でいいみたいだな。あとは川沿いにひたすら遡って行けば着くはずだ」
「目的の街は、山の麓にあるんだっけ?」
「ああ。『クウォント』まで、もうひと踏ん張りだ」
翌朝から西への移動を開始した。
川は細かく蛇行していたが、その沿岸は起伏が少なくて平坦な地形だった。だから自ずと移動速度が上がる……そこにモンスターさえ出て来なければ。
「そっちは任せた!」
「おうっ!」
人と同じくらいの身丈をもつ、巨大な蟹と対峙する。動きはそれほど早くない。容赦なく振り下ろされるハンマーのような
ドシュッ! 槍が深く急所に突き刺さる。
川沿いに出るモンスターは水棲系が主体で、硬い殻を纏った蟹や貝を模したモンスターが多い。そこで、剣を槍に持ち替えて雷を付与して戦うことにした。
〈血脈覚醒〉クエストの報酬で貰った【ゲオルギウスの槍】。これがかなりの優れもので、硬いものを貫く[貫通(大)+]の特性が付いている。硬い殻もなんのその。急所に当たればほぼ一撃で倒せる。
レオも同様に、[貫通(大)+]付きの青い槍を振るって、順調にモンスターを狩っている。
「やった! レベルが上がった!」
「レオ、順調だな。この蟹は、わりと経験値が美味しいかもしれない。お互いに結構レベルが上がったけど、まだまだいけるんじゃないか?」
ここまでで、レオはレベル24、俺はレベル33になっていた。
「そうだといいな。早く源次郎に追いつきたいよ」
「この調子なら、そう先のことじゃないと思う」
「この蟹、味はどうかな? 蟹足と蟹爪がドロップしたけど」
「じゃあ夕飯は蟹鍋にしてみるか。貝もドロップしてるし、いい出汁が出るかも」
「へっへ! それは楽しみだな。それなら、もっとたくさん狩らないとね!」
この蟹。本当に美味しい存在かも。
属性特効が効いているせいで、それほど強く感じない上に、数が多い。群れでいるのか、1匹出てくると、わらわらと順次集まってきて、トータルで20匹近く出てくる。こんなに大勢、どこに隠れてたんだ? と思うくらいだ。
それを、レオと手分けして数十匹ずつ狩った頃、
《【命中】を獲得しました。》
ひたすら急所の一点を狙って攻撃していたせいか、こんなスキルが生えてきた。そのおかげで、さらに攻撃精度が上がり、ますます一撃率が上がった。こうなると、やる気も上がる。
「いい調子だ! どんどん行こう!」
「おうっ!」
*
パチパチと火のはぜる音が、陽が落ちた暗い河川敷に響く。
モンスターの数が多くて、予定より時間を食ってしまったので、今日は早めに野営することにした。平らな場所にテントを設置し、食事の支度をする。
……といっても、実際には何もしなくていい。全てお任せだ。というのも、俺の「標準野営セット」でも十分便利だったのに、レオが持っていたアイテムが凄かったからだ。
「豪華
どれだけ課金したのか? ……他人事ながら少し心配になったが、これが本当に便利な代物だった。
今、俺の目の前にはキャンプファイヤーがある。
小さな焚き火じゃなくて、林間学校でよくやるような、あのキャンプファイヤーだ。それを俺は、レオと一緒に眺めている。キャンプ用リビングセットの、座り心地のいいベンチに腰掛けながら。
右手には、これまた立派なキャンプ用キッチンセットが置かれていて、そこでは今まさに料理が進行中で、大きなまな板の上で、手際よく蟹が捌かれていた。
えっ? 誰が料理しているのって?
そりゃあ、決まってるじゃないか。この豪華なキャンプセットは「オート調理機能付」。だから付いていた。……専用の可愛いコックが。
そのコックは、もしかしてスカートを履いてるのかって?
……それは流石にない。というか、可愛いの方向性が違う。
ここをどこだと思ってる? そう、トレハンなんだ。トレハンといったらアレだ。名物の、有名な愛らしい存在がいるじゃないか。
「お待たせ致しました。ご注文の蟹鍋になります。お熱いのでお気をつけ下さい」
目の前にいるのは、アヒルならぬウサギのコックさん。青い目をした白いウサギが、同じく白いコック帽を被り、コックコートまでしっかり着ている。本格的なコスプレウサギだ。率直に言って、かなり可愛い。
そして、そんなウサギが作ってくれた料理はどうだったかというと……とても美味かった。さすがDX。まさにお店屋さんの味。旨味のある出汁がたっぷり出ている蟹汁を思いっきり堪能できた。
今日もご馳走さまでした。
*——応援ありがとうございます——*
読んで下さる皆様に感謝!
☆や♡を付けて頂いて嬉しいです。これからもお付き合いよろしくお願い致します。
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