23 完了

 

 父たちと合流後、俺たちは共に「ミース」を目指すことになった。父が引き受けた〈開通クエスト〉の完了がその目的だ。


 クエストを達成できれば、「ミース」・「クウォント」の2つの街の間を、自由に行き来できるようになる。でもそれだけではなかった。


「βテストでは、この先『ミース』で起こるはずのイベントをクリアすると、『エヴリン』・『ミース」』間の航路を解放するクエストが発生したんだ」


「この世界でも同様のクエストが発生するなら、街の間の移動が飛躍的に向上する。それなれば、『クウォント』が直面している問題も解消されるんじゃないかな?」


 ハルとフユが「クウォント」の街に着いた時は、それはもう大変な騒ぎだったそうだ。


 「クウォント」にいるのは、そのほとんどが、ゲームのアカウントを持っていなかった「非プレイヤー」と呼ばれる人たちだ。


 街の周囲のモンスターが強かったせいもあるが、彼らは仮想世界に閉じ込められてからの約1カ月、ひたすら街の備蓄を消費するだけだった。


 精神的にも肉体的にも追い詰められた彼らは、俺たちも言われた「力を持つ者の義務」とやらを果たせと、声を大にして主張してきて、自分たちの「守られる権利」や「健康な生活を保証される権利」をどうにかしろとハルたちに詰め寄った。


 一方的に依存しようとする人々。でも、こんな状況で彼らの要求に応えられる人はいない。みんな自分のことで精一杯で、他人を顧みる余裕なんてないからだ。


 でも、彼らをあのままにしてはおけない。父の性格なら、見捨てることはできないだろう。そこで移住計画だ。


「エヴリン」は、大きな河川の中流域にある牧歌的な街で、周囲には広い畑や牧草地が広がり、農業や牧畜など、非戦闘系のプレイをするのに最適な場所だと聞いている。「エヴリン」でなら彼らも自立できる。それが今できる救済への希望だ。


 もちろん、「ミース」で起こるイベントが厳しいものなら、速やかに撤退するだろうけどね。


 *


 ずっと続いていた登り斜面が下り坂になり、とうとうなだらかな盆地に出た。


「見えたぞ! 街だ!」


 遠くに目をやると、かすかに街壁のような人工物が目に入った。ここから見ても横に長く広がっている。


 かなり大きな街かもしれない。


 目標を発見したことで移動ペースを上げた俺たちは、陽が暮れる前に無事に街へたどり着くことができた。


「ミースの街へようこそ。ハンターの方たちですね。歓迎致します」


 外壁にある大きな街門には守衛がいたが、ハンター証を提示したら、すぐに通ることができた。このまま直進すれば、ハンティングギルドのある広場に着くらしい。


 でも街中に入ってすぐに、その様子が変なことに俺たちは気付いた。


「なあ、店じまいするのが早くないか?」


 陽暮れまでしばらく時間があるのに、いくつかの商店はもう片付けを始めていた。完全に戸締りが済んでいる家も少なくない。


 人通りは少なく、おそらくメインストリートだろうこの大通りにも活気が見られない。通りすがりに見た街の人々の表情は一様に不安げで、片付けを焦っているようにも見えた。


「とりあえず、ハンティングギルドへ急ごう」



 ハンティングギルドは、広場に面した大きな建物だった。


 中に入ると、そこは広々としたギルドホールで、居合わせた何人かのプレイヤーが、俺たちを見て驚いた顔をした。


「もしかしてあんたたち、よその街から来たのか?」


 プレイヤーの1人が声をかけてきた。


「ああそうだ。『クウォント』の街から、山を越えてきた」


「話をしたいんだが、いいか?」


「クエストの完了報告が終わってからならいいよ。ある程度の時間が取れると思う。俺たちも聞きたいことがあるしな」


「クエスト? 一体何の?」


「まあ、待てよ。大事な報告なんだ」


「分かった。邪魔して悪かった。この辺りで待ってるから、終わったら声をかけてくれ」


「ああ、じゃあ後で」


 ギルドカウンターに全員で向かい、クエストリーダーである父が受付に報告をするのを待つ。


「クエスト報告だ。よろしく頼む」


「ギルド証を確認しますのでお願いします」


 受付にいるのは、相変わらずウサギだった。綺麗な水色をの毛色をした二足歩行のウサギ。その非現実的な色は、縁日で売られていたカラフルに彩色されたヒヨコを思いさせた。


「お預かりします。……受注されているクエストが特殊なものですので、奥の談話室で完了手続きを行います。クエスト受注者の方々だけ、こちらへおいで下さい」


 4人が案内されていくのを見送り、俺とレオはギルドホールで待つことになった。ただ待っているのもなんだから、この間にドロップ品の精算でもしておくか。


 クウォントで一旦精算したが、山を越える間に、またドロップ品が溜まっていた。それに、少し変わったドロップ品があったから。


「懸賞首カード』は、どこに持っていけばいいですか?」


「当ギルドが支払い代行をしておりますので、ここで精算が可能です。精算致しますか?」


「お願いします」


 亜空間収納に直接ドロップしていた「懸賞首カード」5枚と「ハンター登録証」を、ギルドカウンターに提出した。


「確認致しますので、しばらくお待ち下さい」


 受付のウサギが一旦席を外す。隣のカウンターでは、レオが同じように精算中だ。


「お待たせ致しました。お預かりした『懸賞首カード』5枚の内訳は、クラスDが4枚、クラスCが1枚でした。クラスDは1枚15万イェール、クラスCは1枚 30万Yですので、合計で90万Yになります」


 へぇ。結構まとまった金になったな。


「今回の功績により、ギルドランクが『シルバー』に上がりました。おめでとうございます。ギルドカードに『シルバーキー』が登録されました。今後、ギルド内の『シルバーキー』対象の部屋をご利用できます」


「シルバーキーで利用できる施設ってなんですか?」


「資料室[中]とギルドダンジョンになっております」


「ギルドダンジョンとは?」


「訓練用のダンジョンです。アイテムはやお金はドロップしませんが、何度も挑戦して頂くことによりスキルを取得できることがあります」


 それは気になる。


「どんなスキルが取得できるんですか?」


「その件につきましては、ご自分でお探し下さい」


 残念。教えてはくれないのか。


 そうしている内に、父たちが戻ってきた。どうやら〈開通クエスト〉は上手くいったようだ。

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