18 理由
巨大蟹を討伐後、川沿いにしばらく進むと、朧げながら街が見えてきた。
「源次郎! 街だ!」
「位置的にあそこで間違いないな」
やっとだ。やっと着いた。なだらかな丘陵地の裾野に、小さな街が広がっていた。「クウォント」——父が待っているその街に、ようやく辿り着くことができた。
《クウォント・ハンティングギルド》
「いない!? 確かにここにいるとメッセージを貰ったのに?」
「確認したところ、該当するメッセージは残されています。しかし、現在この街には『高瀬 馨』というハンターは存在しません」
受付の青いウサギのセリフは、耳を疑うものだった。
「存在しませんって、そんな。一時的に街を離れたのであれば、行方を探そうと思います。何か情報はありませんか?」
「履歴を検索しますので、しばらくお待ちください」
いないって……「ここで待つ」と書いてあったのに。父さん、いったいどこに行ったんだよ。
「履歴がございました。『高瀬 馨』様は、2日前にこの街を出られています」
2日前。なんでもうちょっと待てなかったんだよ。まさか俺が着く前に街を離れるなんて。
「目的地は分かりますか?」
「目的地は記録にございません。ですが、街を出る際に依頼を受けていらっしゃいます」
「依頼? いったい何の? そもそも1人で街を出たんですか?」
「お一人ではございません。パーティを組まれています。依頼内容につきましては、秘匿情報にあたりますので、お答えできません」
「秘匿情報って……身内なのに? 家族の心配をしているのだから、隠す必要なんかないだろ?」
「規則によりお答えできません」
「そんなこと言われても……」
「そこのあなた。そのウサギにはそれ以上言っても無駄よ」
声がした方を振り向くと、そこには何人かのプレイヤーが集まっていて、俺に注目していた。
その内の1人が一歩前に出てきて、さらに話しかけてくる。
「急に声をかけて驚いたと思うけど、あのウサギは、あれ以上は情報を吐かないわ。もう散々試して分かっているの。あまりしつこくすると、ペナルティを受けてしまう。そんなのバカらしいでしょ? だから止めさせてもらったの」
「それは……ありがとう、ですかね?」
「あなた、高瀬さんの身内だと言っていたのは本当?」
「本当です。高瀬馨は、俺の父親です」
「あなたが息子さんなの? でも聞いていたのと年齢が違うのよね」
「アバター設定で年齢を弄っているので、実年齢より上に見えると思います」
「そうだったの。あなたがこちらに向かっていることは、高瀬さんから聞いてるわ。情報が欲しいんでしょ? 私たちが知ってることなら教えてあげられるから、付いてきてくれるかしら?」
「ここじゃダメなんですか?」
「ここだと、いろいろ面倒なのよ。近くに、こじんまりした酒場があるの。そこでどう?」
「源次郎! どっか行くのか?」
「こちらは?」
「俺の連れです。レオ、ちょっとこの人たちと話をしてくる。悪いが、俺が戻るまでギルドの宿泊施設で待っていてくれ」
「分かった。気をつけろよ」
「ああ。なるべく早く済ませてくる」
*
「話とはなんでしょう?」
「せっかちね。一杯くらい飲んでからにすればいいのに」
「未成年なので酒は飲めません。情報があるというから付いてきたのに、ないならさよならだ」
「ふふっ。合格! そうよね。本人なら未成年のはずだもの。試すようなことを言ってごめんなさい。顔は全然似ていないから、もうちょっと本人確認をしたかったの。馨でも、今の言い方。馨さんの息子さんだって分かる気がするわ」
馨さん? なにその親しげな呼び方。
「すごく怪しんでいるみたいだから、先に自己紹介するわね。私は戸山
「私は吉野夕子。よろしくね」
「峯岸春香です」
3人の女性が次々と自己紹介をしてくる。いったいこの人たちは、父とどんな関係なんだ?
「俺は……高瀬昴です」
「昴君ね。名前も聞いていた通りだわ。私たちが、あなたのお父さんを知っている理由。それはね、私たちがお父さんと同じ職場で働いていたからよ。つまりここにいる3人は、全員警察官なの」
「えっ!? 父の職場の! 同僚の方たちなんですか?」
「同僚っていうか、全員が直属ってわけではないけど、部下ってところね。あなたのお父さんは、偉い人だから」
先にそれを言ってよ。かなり失礼な態度を取っちゃったじゃないか。
「そ……れは、失礼しました。それで、父の行方をご存知なんですか?」
「詳しい行き先は、私たちにも分からないの。でも、誰と一緒にいるかと、何の依頼を受けたかは知っているわ」
「教えて下さい。父は、なぜこの街を出て行ったんでしょうか?」
「話がちょっと込み入っているから、座って話さない? 私たちも困っていたところだったの」
「是非。詳しく話をお伺いしたいです」
《レオ、遅くなってごめん。今、ギルドに戻った。夕飯時に1人にして悪かった。手に入れた情報は、整理してから明日話すよ。なんか、いろんなことを一度に聞いて、ちょっと混乱してる。じゃあ、また明日。お休み》
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