19 憶測

 そして翌日。


「おはよう、源次郎!」


「おはよう、レオ。昨日は悪かったな」


「気にしなくていいよ。それより、なにか情報はあった?」


 ……あった。昨日は父がいなくて焦ったが、同僚の人たちから事情を聞けたのは幸いだった。そうでなければ、今頃途方に暮れていたかもしれない。


「うん。ある程度の憶測を混じえた話だったけど、だいたいの父の動きの見当はついた」


「そっか。それって俺にも教えてくれる?」


「もちろん。レオには是非聞いておいて欲しい内容だからね。食事の後に部屋で話すよ」


 *


「ふーん。じゃあ源次郎のオヤジさんは、そのプレイヤーの人たちと一緒に、別の街に向かってるんだ?」


「そういうことになる」


「4人でパーティで移動しているなら、危ない目には遭わない?」


「どうかな? 1人よりはましだけど、未踏破エリアに踏み込んでいるわけだから、そこはなんとも言えない。MAPが全て初見で、見通しが悪い山の中。死角も当然多いはずだから」


「そっか。そうなると心配だね」


「ああ。他の3人の腕はどうだか知らないが、父は間違いなくゲーム初心者だ。R種族になったというのが本当だとしても、そもそもレベルが低い」


 他の人たちと同様に、父もこの世界で強制的にキャラメイキングを受けていた。R種族であれば、基礎ステータスは高め。でもそんなのは、気休めにしかならない。


「『八咫烏ヤタガラス族』なんて、俺も初めて聞いた。八咫烏って、他のゲームだと中ボスとかで出てくるモンスターだから、結構強いイメージだけど」


「レベルの割にはモンスターと戦えていたらしい。ただ、スキル構成がどうなっているのか、そこが甚だ疑問なんだよね」


「何かスキルに問題がありそうなの?」


「うん。『N道先案内』という移動系のスキルが目玉になる種族らしくて、つまり純粋な戦闘職ではない可能性が高い。俺も偵察系スキルを持っているから、一概には言えないけど」


「でも、そのスキルを見込まれてクエストのメンバーに入ったんだよね? だったら結構使えるスキルなのかもよ?」


「そうだといいけど。ただ問題なのは、いったいどんなクエストを受けたのか、肝心のそこが分かっていないことかな」


 父は周りの人たちに行き先も目的地も語らなかったそうだ。息子がこの街に来るかもしれない、その時は事情を伝えてくれとだけ言い残して、出発してしまった。


「そもそも、なんでそのクエストに参加することになったの?」


「どうやら、この街の特殊な事情が関係しているらしい。このクウォントの街は、なぜかほとんどの人がゲーム初心者だったそうだ。だから、街で手に入る食料が次第に少なくなって、外に狩りに出る人を募っても、みんな怖がって全く集まらなかった」


「それでどうしたの?」


「仕方なく、多少は武道の心得のあった父やその部下の人たちが、街の周辺に狩りに出てみたところ、モンスターが強過ぎて歯が立たなかった。すぐに引き返さざるを得なかったらしい」


「じゃあ、食べるものがなくて揉めたんじゃない?」


「ああ。空腹度があるせいで、デバフにかかる者が出てきた。そんな時に、俺が以前ノアの街の手前ですれ違ったプレイヤー2人が到着したそうだ」


「ギリギリ間に合ったんだね」


「ところがその2人にも事情があった。彼らは街にいる家族——高校生の妹と合流を果たしたが、もう一人、ここより更に先の街にいる、別の家族に会いに行くために出発したがっていた」


「えっ? まだ他に知らない街があるの!?」


「ある。この街の西にある山地を越えた向こう側に『ミース』という街があるそうだ。見れば分かるが、『クウォント』の北西方向の未踏破MAPに、街のマークが記されているから、多分そこだと思う」


「源次郎のお父さんは、その人たちについて行ったってことか。でも、どうして?」


「それが、彼らが狩りを引き受ける代わりに出した条件だったから」



 ここからは憶測も交えた話になる。


 食料不足で困っていた街の人々は、街の外から来たプレイヤー2人に食料の調達を依頼した。


 しかしその2人は、狩りを引き受ける代わりに、ある交換条件を出してきた。その交換条件が父の同伴で、ギルドが秘匿しているクエスト内容が関係しているらしい。


 ここまで話したところで、レオが提案した。「クウォント」で起こりうるクエストについて、過去の掲示板を洗いざらい調べ直そうと。


 そして見つけたのが〈 開通クエスト「転移のオーブ」の運搬 〉だった。


 βテストでは、「クウォント」は〈開通クエスト〉を受注するチュートリアル的な街として位置付けられていた。


 クエストに成功すると、「転移オーブ」を設置したギルド間を簡単に移動できるようになる。非常に便利だが、この転移は有料で利用金額が高かった。


 でも、この〈開通クエスト〉を受けると、その区間の「転移オーブ利用無料パス」を報酬としてもらえる。従って、かなり人気のあるクエストだったそうだ。


 でも〈開通クエスト〉の難易度は高めで、2ー3パーティが協力して達成するものだったらしい……本来は。


 そこで、父の種族が持っている先天スキルの出番となる。


 父の種族「八咫烏」は、「N道先案内」という先天スキルを持っている。このスキルは、未開の土地や険路を先導して、より安全な道を選んで危険をできるだけ回避し、目的地へ最短距離で辿りつくのを補助する……というかなり特殊なものだった。


 特殊であるがゆえに、こういった移動スキルを持つ者がパーティメンバーであれば、〈開通クエスト〉を単独パーティで受けられるというメリットがあった。


 ミースの街も、おそらくここと同じく孤立している。だから、転移オーブが設置されるのは、現状を考えると非常に喜ばしいことだ。


 でもそれは、ちゃんとメンバーが揃っていればの話だ。たった4人で。それも1人は全くの初心者なんて無謀過ぎる。


 ……俺が着くのを待っていてくれたらよかったのに。父のことだ。部下たちや俺を巻き込みたくないと思って、黙って出発したのだろうけど。


 こうなったら行くしかない。父の元に。それもなるべく早く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る