第5章 踏破

41 暗礁 ☆

 《ISAO世界》


 津軽海峡へ向かった第二次調査隊が戻ってきた。それもISAO世界に閉じ込められた人々にとっては非常に良くない形で。


 ——出立前に登録したアドーリア教会での死に戻り。つまり全滅である。


 調査隊の全滅を受けて、ここアドーリアの街の冒険者ギルドでは、主なクランのマスターを集めた状況説明と対策会議が行われていた。


「じゃあ、ずっと先に実装される予定だった化け物が、津軽海峡に現れたということか」


「そういうことになる。運営プレイヤーからの情報では、大まかな能力設定と外観の試案は出来上がっていたそうだ。だが、イベント向け大規模レイド用に準備していた魔物なのでパワー調整が必要であり、実装日は未定だったらしい」


 この報告を聞いて、会場の各所からため息が漏れる。


「大規模レイド級か。そりゃあ全滅もするわな」


「それでどうなんだ? 工夫すれば倒せるのか?」


「いや。残念ながら、調整前のステータスのまま出てきたのであれば、現状の我々が束になってかかっても敵わないくらい強いそうだ」


「クソッ! ふざけんな! いったい誰が俺たちの邪魔をしてるんだよ!」


 現在のサーバの管理を行なっている者、それが誰か分からない。仮想世界への拘束に続く今回の魔物の発生。誰もが並々ならぬ悪意を感じていた。


「運営プレイヤーも不思議がっていた。ISAOは軍事から転用した技術をベースに構築されているため、核になっているマスターAIに関しては分からないことも多いようだ。今回の事態は人為的なものではなく、AIが何らかの異常をきたしている可能性もあるらしい」


「マスターAIに異常? つまり、機械にすぎないAIが、俺たちに不利なことを勝手におっ始めているってことか?」


「現段階では動作がおかしいという以外には、何も言えないそうだ。ただ、自律成長型のAIだから、管理者による制限が外れてしまえば、予想外の動きをするかもしれない。そう言っていた」


「ってことは、今後も実装していないものを勝手に作って次々と繰り出してくるかもしれないってこと?」


「はぁ? なんだその無理ゲー」


「予測がつかない以上、我々にできるのは、団結して、より強くなることだけだ。そしてそのためには、新しいエリアに進出する必要がある」


「現状では、当面は北への進出は無理。そうすると南方面の山越えになるわね」


「ああ。全体のレベルが上がり、欠けてしまった支援職が育つまでは、そう方針を変えざるを得ない」


 会議室のあちこちで再びため息が漏れる。


「支援職か。『神殿の人』に加えて修道院の『歌姫』もいないとか、なんでなんだよ」


「本当に。やっとゲームで支援職が充実してきたと思っていた矢先にこんな事態になって、蓋を開けてみたら第1陣の有名な支援職が二人も消えている。いったいどんな縛りゲーなのよ」


「それには同感だ。だが、このISAOエリアに飛ばされたプレイヤーが、どういった基準で選ばれているのか分からない以上、手持ちの戦力で何とかする方法を考えるしかない」


「まあ、そうなるな。納得はいかないが仕方がない」


「そういえば『天馬騎士団』って、だいぶ天馬の数が揃ってきたんだろ? ここには関係者は来ていないみたいだが、彼らに協力を仰ぐことはできないのか?」


「それが。団長のグレンさんに打診してみたのですが、協力したくてもできないというお返事でした」


「それはどういう意味?」


 期待していた天馬騎士団の協力が得られないという話に、一旦静まった会議場が、再びざわめいた。


「理由をお伺いしましたら、どうやら、天馬にはゲーム的な移動制限があるらしくて、ハドック山以南へは天馬が行きたがらないそうです」


「マジか。こんなところでもゲームルールかよ」


「仕様じゃあ仕方がないけど、あてが外れた分、戦力的には非常に痛いわね」


「これはまだ推測の域を出ませんが、ハドック山以北は天馬、以南は飛竜と、空を飛ぶ騎獣には住み分けが設定されている可能性があります」


「じゃあ、南側は竜騎士の誕生待ちってわけか」


「そうなるな。『天馬騎士団』は、我々とは別行動で新エリアの開拓に挑むそうだ。既に『むつエリア』の攻略の取っ掛かりはつかんだらしい」


「むつエリアか。そうかそっちにもマップがあったな」


「そちらに新たな街やフィールドが見つかれば、強力なアイテムや転職ルートが見つかる可能性がある。それに期待しよう」


「なるほど。多面作戦ってわけね。じゃあ、我々は南に回す人員を増員するとしますか」

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