40 竜宮


 ……頭の中に響く不思議な声。


 《同胞レオよ。我は竜宮の案内人。そして門番でもある。湖を荒らす悪しき存在を共に倒そうぞ! これが最初の試練なり》


 最初の試練!


 やっときた! 俺の覚醒クエスト。行くぞ! 水特効のついた、とっておきの大剣を取り出し、鰻の怪物に向かって走り出す。


 鰻は龍の方を向いている。


 ……なら、俺は。


 鰻の死角から、思い切って血の色をした湖に飛び込んだ。


 *


 よし! 見える!


 種族特性のおかげか、幸い湖の中での視界は良好。赤いフィルターがかかったような不気味な景色。でも、行動には支障がなさそうだ。

 水底へ向かって潜水を続けると、湖岸に近いせいで、すぐに底が見えた。そして、湖底には鰻の長い胴体が無防備に横たわっている。


 ……かなり太いけど、これならイケるか? とっておきのやつで勝負だ。


 神剣【建御雷タケミカヅチ】[大剣]★★★★★★★★ 水特効(特大)+ 水中戦闘補正(特大)+


 頼むぞ神剣! その力を見せてくれ!


 湖底に降り立ち、鰻に接近する。


 今だ! 鰻の背中を目掛けて、構えた大剣を力いっぱい突き刺した。うぉっと! 鰻が暴れるが、そのまま力任せに押さえつけて貫通させ、湖底に縫いとめる。


 上手くいった。これで動きはかなり封じたはず。


 しばらく大剣を押さえて固定していたけど、特効が効いているせいか、次第に鰻の動きが鈍くなってきた気がする。


 ……そろそろいいかな?


 へっへ。ちゃんと考えてるもんね。鰻の背中に刺した大剣の柄を、両手でしっかりと握る。そして、背骨に沿って、その太い胴体をできる限り長く縦に切り裂いた。


 爺ちゃん直伝の二枚おろしだぜ!


 下半身を裂かれた鰻がバランスを崩し、ドゥッ! と湖の中に倒れこんでくる。


 鰻の身体から流れ出ている黒ずんだ赤い血で、湖の水が濁り始めた。おっと。鰻の血って毒があるっていうもんな。触らないようにしないと。


 急いで湖面に浮上し、岸辺に上がった。


《やるではないか。奴にかなりの痛手を負わせたな。あとは我に任せるがよい》


 その声と共に、先ほどの龍が湖に飛び込んだ。湖面が激しく波打ったあと、急に凪いだように静かになったかと思うと、湖の色が、みるみる澄んでいって通常の色合いに戻る。


《最初の試練「竜宮の門番『青龍』との共闘」をクリアしました》


《 Take your chance! 〈血脈覚醒〉の試練到来! この試練を受けますか?》


 ➡︎[Yes.]


 ➡︎[No.]



 ◇



 [Yes.]を選ぶと、先ほどの龍が目の前に現れて、背に乗るように促された。言われるがままに龍にまたがると、湖の中央より少し東寄りの辺りまで飛んでいき、その上で動きが止まった。


《同胞よ。力を求めるのであれば、この先へ行くがよい》


 行くがよいって、どこへ?


 疑問に思って辺りを見回せば、真下にある湖の様子がおかしいことに気づいた。


 透けてる……


 湖の水がガラスのように透明になり、まるで潜望鏡越しに覗いているように、湖底の様子が透けて見えた。


 街だ……


 湖の底に街が見える。その中でひときわ目立つのは、鳥居の形をした白い建造物。それが、誘うようにぼんやりと青く光っていた。


 あそこに行けってことかな?


 *


 龍の背中から滑り降り、湖へ飛び込んだ。


 着水すると、ぐいぐいと水中に引っぱられる。それに逆らわずに身を任せると、吸い込まれるように湖底の街へ落ちていった。


 あれ? 水は?


 落ちた先は水中じゃないみたいで、見上げると、空の代わりに泳ぐ魚の腹が見える。


 すげえ。水族館みたいだ。


 そして目の前には、白い鳥居と、その向こうに真っ直ぐに伸びる石畳の参道。ともに、水中から見た時と同様に、青く光っている。


 こっちに進めってことだよな?


 鳥居を潜り参道を進む。


 《session1.これから、instruction「龍気術①」龍気を感じるを開始します》


 《「龍気術①」では、身体の中を流れる龍気を感じ取ることを習得します。始めに、目を閉じましょう。そして、鳩尾みぞおちの辺りに意識を集中して下さい》


 源次郎に聞いていたのと似てるかも。集中、ここは集中だ!


 ・instruction「龍気術①」 龍気を感じる


 ・instruction「龍気術②」 龍気を動かす


 ・instruction「龍気術③」 龍気を操る


 龍気の体内操作の訓練が続き、これにかなり時間をかけた。そして〆がこれ。


 ・instruction「龍気術④」 龍気を吐く


 青龍族は、龍気を操ることで、口から気を吐くことができる。この気は、湿気を帯びると激しく燃え、乾燥すると消えてしまうという特徴を持つ親水性の不思議な炎だ。


 どうやらこの龍気を自在に操るのが、次の訓練にも大事みたい。


 よしっ! 次だ!


《session2.これから、instruction 「龍鱗①」の習得訓練を開始します》


《接続》


 この龍鱗は、龍気を体表面に密に集めることで身体を強化し、魔法攻撃・物理攻撃・化学攻撃などを含むあらゆる攻撃を跳ね返す。という強力なものだった。


 そして総仕上げ。session3.は、やっぱり仮想敵ダミーとの模擬戦だったか。源次郎の場合は飛行モンスターだったらしいけど、俺の場合は……


 鎧武者?


 甲冑をつけた鎧武者がゾロゾロと集団で現れた。俺に攻撃を仕掛けてくる相手は、どうやら青龍族のご先祖さまたちみたいだ。


 ビュン! 敵の刃が俺の耳元を掠め、風が鳴る。

 くそっ! 躱しきれない。ドゴッ! チッ 肩に攻撃を受けざま、相手を押し返した。


 四方から次々と容赦なく攻撃が振るわれる。それに対応するのが精一杯で、龍気に集中することができない。


 ぬおっ!


 集中! 集中! 集中だ!


 攻撃を受け、ボロボロになっては自己回復でしのぐ。そうして、どれくらいの時間がたっただろう。やっと攻撃をいなしながら龍鱗を使うことに慣れてきた。


 《Congratulation!〈血脈覚醒〉の試練をクリアしました》


 《血脈スキル【龍気術◆】【龍鱗◆】。session3 完全クリア報酬 【如意宝珠】を獲得しました》


 如意宝珠? なんだそれ?



*——『次元融合』第四章[了]——*


いつも応援ありがとうございます。

次回から第五章「踏破」です。第五章の最初は、ISAO世界からお送りする予定です。

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