63 黄金鶏
「あっ! 香里奈、どうだった?」
「ここもダメ。はなからてんで話にならない。そんな感じ。レオくんの方は?」
「こっちも全滅。やっぱりそう上手くはいかないか」
スバルと別れたレオと香里奈の二人は、必要な物資を購入した後、スバルの後を追うべく高速船に乗船する方法を模索していた。
〈準国民〉待遇のおかげか、冒険者ギルドを介して商船を所有する商会をリストアップし、交渉に持って行くまでは比較的順調に行った。
だが、その後が全く進展しない。実際の交渉に入るとピタッと動きが止まってしまう。最終的には、全ての商会から乗船を断られてしまった。
「船ならひと息に教都まで行けるのに。きっと何か条件が足りないのね。やっぱりそう楽にショートカットはさせてくれないか」
そう。この二人には、乗船イベントを起こすための条件がいろいろと不足していた。その最大のものは、ISAOにおいてゲーム進行や街クエストの発生に大きな影響を与える〈NPC好感度〉である。
「ちぇっ。ケチだよな。こっそり船に乗れるクエストとかあってもいいのに。ねえ、これからどうする?」
「仕方ないから、高速船は諦めて乗り合い馬車で次の街に向かいましょう」
既に次の街へ向かう乗り合い馬車については、利用可能であることを確かめている。
「そうだね。こうなったらひとつづつ順番に行くしかない。とにかく先に進もう。次の街って『サウフ』っていうところだっけ?」
「そう。街で聞いた話では、サウフの街自体はこことあまり代わり映えしないらしいわ。違うのは関所や尖塔があるかないかくらいで」
「ふうん。中継地点的な街ってことなのかな? じゃあ、早速乗り合い馬車の発着所に行こうよ」
「そうね。サウフに向けて出発!」
◇
「なんかやけにすんなり街に入れたけど、本当に普通の街っぽいね」
「そうね。やっぱり、ここにはあまり大したものがないってことかしら?」
「うーん。どうだろ? わざわざ街を作るってことは、全く何もないってことはない気がするんだけど」
「じゃあ、ちょっと聞き込みでもしてみる?」
「うん、そうしよ……うわぁ!」
〈ドンッ!〉
「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「あっ、うん。俺は大丈夫だけど、君は?」
レオに背後からぶつかってきたのは、レオより少し年下くらいに見える、小柄なNPCの少女だった。
「大丈夫です。急ぎの用事があって慌ててたら、転びそうになって。本当にごめんなさい」
少女は、妙に慌てた様子で繰り返しレオに謝罪をする。
「気にしなくていいよ。でも、何をそんなに急いでたの?」
「実は、うちで飼っていた大事な鶏がいなくなっちゃったの。だから、冒険者ギルドに捜索願いを出しに行こうとしてる途中で」
「鶏って、コケコッコって鳴くあのニワトリ?」
「そう。その鶏。でもうちの子はかなり珍しい種類の鶏だから、放っておくと大変なことに……あっ、行かなくちゃ。じゃあ、さようなら、旅の人」
そう言って、少女はせわしなく立ち去っていった。
「今のって、変よね? あからさまというか。NPCがいきなりぶつかってくるなんて」
「うん。タイミング的には、随分とわざとらしい気がする。何かのフラグなのかなぁ。それを回収するとクエストが始まるとか」
「ああなるほど。『フラグ』ね。それって、クエストを起こすために予め散りばめられたヒントってことだったわよね?」
「そうそう。香里奈もだいぶ分かってきたじゃん」
「やっとね。さすがにちょっとはゲームに慣れてきたわ。もしクエストなら、やった方がいいのかしら?」
「どうだろう? 以前スバルから聞いた話じゃ、ISAOのクエストには、ゲーム進行上クリア必須のものと、それとは関係ないサービス的なものとの二種類あるんだって」
「これはそのどちらだと思う?」
「さぁ? 俺もこのゲームではクエスト経験が少ないから、なんとも。やってみないと分からないかなぁ」
「そっか。なら、先に教都までの乗り合い馬車をチェックしちゃいましょうか? その後は冒険者ギルドに回って様子を見るっていうのでどう?」
「そうだね。そうしよう」
*
「えっ? 出ないんですか?」
「そうなんだ。教都から戻ってくるはずの馬車が、予定の時刻を大幅に過ぎたのにまだ到着していない。道中で何かトラブルがあったのかもしれない。今、自警団に問い合わせ中なんだ。すまないね」
乗り合い馬車の発着所に来てみると 、教都からの馬車が到着しないと、次の教都行きの馬車は出せない——そう言われてしまった。
「こんなところでもう足止めか。早過ぎるよ」
「困ったわね。ここは一旦保留にして、冒険者ギルドに行ってみる?」
「そうだね。さっきの女の子も気になるし、もしかしたら、一連のクエストなのかもしれない」
「一連のか。こういうところが、ゲームなのよね。こんなに街も人もリアルなのに」
街の中心部にあるこじんまりとした冒険者ギルドに入ると、掲示板の前に数人の人だかりができていた。
「なんだろう?」
「覗いてみましょうか?」
近づいてみると、NPC冒険者たちの注目を浴びているのは、掲示板に貼られた一枚の依頼票であることが分かった。
◆[捜索願い]
募集)随時
捜索対象)黄金鶏 1羽(雌)
捜索場所)不明
人数制限)なし
資格)LV60以上 上限なし
依頼主)山麓牧場のアミィ
謝礼)50G(成功報酬)・金の卵(拾得物)
「これ。さっきぶつかってきた子の依頼かな?」
「鶏を探しているって言ってたから、そうかもしれないわね」
「黄金鶏だって。金色の鶏ってこと?」
「だとしたら、ずいぶん煌びやかな鶏ね」
「なんだあんたたち、そんなことも知らないのか」
依頼票を見て会話する二人に、NPCの男性が声をかけてきた。
「ええ。私たち、この街に着いたばかりなんです。よろしければ黄金鶏について教えて頂けますか?」
「おう、いいぞ。黄金鶏っていうのは、この街の北西にある牧場で飼われている鶏で、金の卵を産むことで有名なんだ。元々はモンスターの一種だったが、家畜化に成功している」
「金の卵って、黄金でできてるの?」
「まさかまさか。殻の色が金色に見えるっていうだけだ。ただ珍しいし滋養に富んでいるから、それなりに高値で取引されている」
「そうなんだ。わざわざ捜索願いを出すっていうくらいには希少な鶏ってことか」
「卵を産む
「オスには価値はないってこと?」
「まあそうだな。しかし、黄金鶏が逃げ出したのか。これは厄介だな」
「逃げ出すと何か問題があるんですか?」
「ああ。実は……」
*
冒険者のNPCやギルドの職員からよく話を聞いた上で、結局二人はこの依頼を引き受けることにした。そうしないと、先に進めそうにないことが判明したからだ。
「では、これが捕獲用の鳥籠になります。雄鶏は凶暴ですし、雌鶏は厄介なので、くれぐれも気をつけて下さいね」
「はい。とりあえず雄鶏を探しに東の旧鉱山に行ってみます」
レオがギルド職員から鳥籠を受け取る。すると、それと同時に二人の耳にアナウンスが響いた。
《ポーン!》
《開通クエスト〈黄金鶏を探せ〉が始まりました。
黄金鶏を探して金の卵をゲットしよう! 卵を集めるとその数に応じていろんな景品がもらえるよ。たくさん集めて豪華景品を手に入れるチャンス!
※雌雄両方の鶏を捕獲できなかった場合は、このクエストは失敗に終わります。このクエストには成功するまで何度でも挑戦できます》
「やっぱり大事なクエストだったのね」
「開通クエストってことは、この依頼を達成すれば乗り合い馬車が動くのかな?」
「そうだといいけど。成功まで何度でも挑戦可能ということは、難しいのかしら?」
「かもね。でもやるしかないよ。香里奈、頑張ろう!」
「ええもちろんよ。一発クリアは無理でも、繰り返す内にきっと突破口が開けると思うわ」
「だよな! じゃあ、東の旧鉱山へ行こう!」
*——お知らせ——*
『不屈の冒険魂 3』(集英社ダッシュエックス文庫)が【7/21】に発売になります。絶賛ご予約受付中!
書籍版用の書き下ろしが、なんと7割。Web版を読まれている方は、カバーイラストを見れば誰が活躍するのかビビッと来るかも?
お手に取ってお読み頂けたら、筆者が泣いて喜びます。
まだ予定ですが発売記念SSを掲載するかもしれません(ただいま準備中)。
よろしくお願い申し上げます。
漂鳥
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