07 相席
牛を狩り続けて7日。
回復薬と食料の補充がようやく終わった。予定より日数がかかってしまったのは、回復薬の値段がインフレしたせいだ。このゲームは、プレイヤー生産者がとても少ないので、需要に供給が追いつかない状況らしい。
NPCの店でも基本的な薬は買えるが、今はお一人様1種類につき1日2本までに制限されている。NPCの店まで市場原理を働かせなくてもいいのに。
その影響で、自分が使わない薬でも、買えるものは全て購入上限まで買って、欲しい薬と交換取引する仕組みができていた。それでもなお回復薬の交換レートが高いので、集めるのに時間がかかってしまったというわけ。
そして、現時点の所持品はこんな具合になる。食糧関係をかなり頑張った。
〈所持品 〉
・ハンター登録証[ブロンズ]
・回復薬×70
・魔法薬×2
・魔石(小)×66
・魔石(中)×32
・標準野営セット
・スパイス5種類セット ×1
・塩 ×3壺
・砂糖 ×3壺
・セサム油×2壺
・清酒×10本
・果実酒×5本
・キラーラビットの肉 ×30
・草原狼の毛皮×3
・兎肉の串焼き[塩スパイス]×99
・牛肉の串焼き[甘辛タレ]×99
・白パン×99
・アップリン[果物]×12
・オランジュ[果物]×18
・グレップ[果物]×9
・バナヌ[果物]×6
・キャベッジ[野菜]×10
・オニオニ[野菜]×15
・トマトン[野菜]×16
・ピマ[野菜]×11
・アスパル[野菜]×3
・水瓶(大)×6
・水筒(中)×2
アイテムは、店やプレイヤーから買う以外にも、モンスターから直接ドロップすることもあった。それも含めて、1週間頑張ってようやくこんな感じだ。全て「亜空間収納」にしまってあるが、こういうところはゲームらしくて便利だ。
レベルは、少し上がって31になった。でもこの少しが実は大きい。
というのも、レベル31になると、メインスキルを1つ、その他のスキルを1つ増やすことができるから。どれにしようか迷ったけど、最終的に、この2つに落ち着いた。
【槍術◆】
【属性付与[雷]◆】
槍を選んだのは、ISAOで棒術に慣れていたのが大きな理由だった。刀より間合いが長いから、状況により使い分けるつもりでいる。
属性付与[雷]を選んだのは、今後、海岸沿いや川沿いを進むことが多いから。水棲モンスターに対する備えであると同時に、[雷]による麻痺効果を期待している。
俺はINTが低いから、付与効果はあまり強力には掛からないと思うが、特効や状態異常は、ソロで行動する上では、あって困るものではない。
*
さて、出発の目処は立った。
今日はもう遅いから、明日の早朝かな? と、ギルドの食堂で食事をしながら考えていると……
「なあ、ここいいか?」
相席希望か? でも、食堂内は混んできてはいるが、まだ空いているテーブルもあるのに。
周りを見回して訝しく思い、声の主を見上げる。そこにいたのは、高校生くらいの見知らぬ少年だった。
「ちょっと話がしたいだけなんだ。座るぜ!」
話? 俺にいったい何の用だ?
「初めましてだよな。俺はレオ。いきなりだけどさ、あんたISAOやってない?」
レオと名乗る少年は、席に着くなりそう聞いてきた。
質問の意図が分からないが……まあ、この程度なら隠す必要はないか。
「本当にいきなりだな。ISAOならやっている。それが何か?」
「おう。マジか! じゃあさ、イナバって奴知らない? 神殿で神官をやってるはずなんだけど」
急に目がキラキラしてきたぞ、おい。
「たぶん知ってる。君ぐらいの年齢で、支援系神官をしてる子なら」
「そいつだよ。じゃあ、やっぱりあんたが『ユキムラ』さんなんだよな!」
おっと。その名前をここで聞くとは思わなかった。
「……まあ、そうだけど。それで用件は何?」
「俺さ、イナバの高校の友達なんだけどさ、俺も以前イナバと一緒にISAOをやっていたんだ。合わなくって直ぐに止めちゃったんだけどさ。でも、それ以降もイナバとは普段からゲームの話とかよくしてて、PVに出ていた派手な神官とフレになったって話も聞いててさ、そしたら、その人もトレハンを始めたっていうじゃん。それも、SR種族を引いたっていうから、すっげえ驚いてさ、俺もリセマラしてたんだけど全然出なくて、もう妥協して始めちゃおうかなって迷ってたとこで、そんなの聞いちゃったら、俄然火がついてさ……………………………………………」
それから怒涛のように話し始めたレオ少年の長い長い長ーい話をまとめると、
・本名:小林
・隕石の衝突以降、家族とは音信不通になっている。
・友人のイナバ君も同様だと思うので、イナバ君が心配である。
・イナバ君と合流するため、ISAO世界に行きたい。
・方向音痴なので、1人では無理だと思うから、同行者を探していた。
・そこに、噂で聞いていた俺らしき人物を見かけた。
・どうか一緒にISAO世界まで行ってくれないだろうか?
……このような感じだった。
「ISAO世界? 存在するのかどうか、まだわかっていないよね?」
疑問に思ってそう尋ねると、
「知らないの? 今掲示板で一番ホットな話題じゃん。ISAOのプレイヤーが北海道にたどり着いたって」
なんだって!?
「北海道にたどり着いた? ということは、ISAO世界の場所は……」
「青森県だってさ。ここと陸続きなのはいいけど、かなり遠いだろう? だから、一緒に行ってくれる人を探していた。そこでユキムラさんを見つけたわけ。イナバの知り合いなら安心だからね。なあ、俺とパーティを組んでくれない?」
……えっと。まずは掲示板でその情報をチェックしたいところだけど、キラキラした目で俺を見てくる少年を、無視するわけにもいかないか。
うーん。他人といえば他人なんだけど、このまま放り出すのもな…… どうしようか?
父に会いに行くために北へ向かう予定だから、方向的には同じ。もしISAO世界が青森県にあることを確認できたら、その後も行先は同じだ。よほど変な相手でない限り、同行を断る理由はない気もするが……。
とりあえず、俺に同行しても大丈夫かどうか、ステータス・装備・所持品などについて尋ねてみると、
・種族については、リセマラを超頑張ってSR種族である「蒼龍族」になっているため、重戦士タイプで防御力が高いことに加えて、ステータス初期値が高い。
・レベルは、リセマラに時間を食われて出遅れてしまい、現在18とやや低め。
・装備については、初っ端から課金ガチャをブン回したそうで、シリーズ物や業物を幾つも持っている。
・所持品の内、主に消耗品については、課金した際のオマケでかなり来たそうで、十分に余裕がある。
イナバ君って、そういえば、出身者に富裕層が多いことで有名な、某私立大学附属高校に通ってるって言っていた。
おそらくたいした金額になるだろう課金が許されているということは、この子も相当なお坊っちゃまに違いない。
それに、言葉使いはワザと崩しているっぽいが、世間ズレしてない感じが凄くする。子供っぽいというか、初々しいというか、育ちがいいのは明らかだ。
……とりあえず、いいかな。
イナバ君が心配だと言いながら、本当は自分が不安でたまらないのに、強がってるのが見え見えだ。1人にしておいたら、すぐに悪い奴に目を付けられて、コロッと騙されそうな気がする。
保護者を気取るつもりは毛頭ないが、後で後悔するような事態は避けたい。
「俺の当座の目的地は『クウォント』だ。ISAO世界へ行くかどうかは、まだ今は未定なので確約はできない。それでもよければ同行はOKだが、どうする?」
「分かった。ISAO世界にも一緒に行ってほしいけど、初めて会った人にあんまり無理は言えないもんな。とりあえず『クウォント』まででいいよ。じゃあよろしく、ユキムラさん!」
「ここでは『源次郎』という名前だから、呼び捨てで構わないので、そう呼んでくれ。こちらこそよろしく。出発は明日かな。ただ、天候状況によっては延期するので、そのつもりでいて欲しい」
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