14 寄り道/掲示板回


 行きに通って来た道を戻るように、北上を続けた。レオは残念がっているけど、今のところPSモンスターとの遭遇はなく、進み具合は順調といっていい。


 ここでちょっと休憩。


 休むのに丁度よさそうな大樹があったので、その木陰で食事休憩を取ることにした。

 間近に海を見ながら、レオと一緒に串焼きを食べた。少し風が強いが、白い波濤と青い水平線を眺めながらの食事は悪くない。


「いい景色だな」


 こんな風に、リアルそのままの海を見ていると、今起きている異常事態が夢なんじゃないかと思えてくる。


「この辺りが源次郎が最初に現れた場所なの? 何もないじゃん」


 そう。だから困った。


「人工物や道標が全く見当たらないだろ? ゲームではオルレインでログアウトしたのに、なぜここに出たんだろうな?」


「それってさ、この辺りにクエストがあるのかもよ。源次郎個人の」


 クエスト?


「なぜそう思うんだ?」


「βテスト時からポツポツ報告があったんだけど、R種族には、特殊なクエストをクリアするともらえる種族固有のスキルがあるんだって」


 それは初耳だ。まあ俺は義理でこのゲームをやっただけだから、そういった情報に関心がなかったせいもあるけど。


「種族固有の? それはどんなものだ?」


 このゲームの特徴である豊富な種族設定。もし種族ごとの特殊スキルがあるのなら、きっと個性的なものに違いない。


「情報を開示する人が少なかったから、詳しくは分からない。知られていたのは、その種族の得意分野を伸ばすような、身体操作系や魔法系、あるいは補助系のスキルらしいってことだけ」


 情報を秘匿するほど強力なのか? あるいは……


「情報が少ないということは、取得できたプレイヤーが少ないってことじゃないか?」


「それもあるかも。でもさ、R種族にあるなら、俺たちSR種族にもありそうじゃない? ステータスで空欄になってる『血脈スキル』がそれかなって思うんだけど」


「『血脈スキル』ね。その項目は俺のステータスにもある。確かに謎ではあったけど、どうすればスキルが手に入るか見当がつくか?」


 種族固有なのに空欄になっているのが気になる。


「種族固有のスキルは『覚醒系』と呼ばれるクエストを、1人でクリアすると出てくるって。でも、そのクエストが起こるのが唐突で、いきなりクエストの発生場所の近くに転移させられるって聞いたんだ。だから、源次郎がこの辺りに居たのもそれかなって」


「なるほど。とても有用な情報だけど、今はゲームの時とは状況が違うからな。掲示板を見ると、隕石衝突時のプレイヤーの出現場所は比較的ランダムだとあった。だから、俺もたまたま変な場所に出たのかと思っていた」


「それは俺も見た。でもランダムといっても、大抵は街の近くやパワースポットの側だろ? 源次郎みたいに、1人だけこんな寂れた場所に現れた人って他にいる?」


「……うーん。そう言われるといないような。あれ? ちょっと待てよ。俺以外に辺鄙な場所に飛ばされたプレイヤーの書き込みを、以前掲示板見たような気がする」


 隕石衝突直後に見た掲示板で、1人で岩山の中にいるというプレイヤーがいたはずだ。そういえば、あのプレイヤーは、その後どうなったんだろう?



《トレハンCW・公式掲示板》


【求む! 人里情報】ここはどこ? 現在地不明。見渡す限り、岩岩岩。【Part1】

 1.名無し

「Treasure Hunters of The Cristal World(トレハンCW)」の掲示板。

ぼっちでみんなからはぐれた俺が、情報を求めるスレッド。ご協力、よろしくお願いします。


 非常事態だ! でも、荒らしはスルー。マナー厳守。次スレはスレ主が建てます!


 *******


 612.名無し

 山の中のサバイバル生活はどう?


 613.名無し

 >>612

 だいぶ慣れてきたよ


 614.名無し

 いつ山を下りるの?


 615.名無し

 もうちょいスキルを使い込んでからかな

 そうしないと下山そのものができなさそうなんだよね


 616.名無し

 岩から岩へ飛び移ったり木々の間を移動するスキルだっけ?

 なんか変わった名前だったよね?


 617.名無し

 >>616

【針山散歩】という血脈スキルだよ

 元々種族的に木の上の移動は得意だったけど

 それをかなりパワーアップした感じ

 凄い速度で移動できるから習熟度が上がれば下山するのも楽になりそう


 618.名無し

 血脈覚醒クエストって言うんだっけ?

 一応俺もR種族だから俺にも訪れることを期待している

 クエストはいつ頃来たの?


 619.名無し

 >>618

 隕石衝突から4日かな? あれ? 5日だったけ?

 食糧と水を求めて周囲を散策してたら突然きた


 620.名無し

 うーん

 俺も行動範囲を広げるべきか悩むな


 ◇


 そこまで読んで掲示板を閉じる。

 レオの考えが当たりなのか? それとも偶然かな?


「どうだった?」


「可能性はあるかもしれない。岩山に孤立したプレイヤーが、隕石衝突の数日後に『血脈覚醒』クエストに遭遇している」


「じゃあ源次郎にも来るかも?」


「もし来ても、いつまでかかるのか分からないようでは困るけどね」


「ちょっとくらい寄り道してもいいじゃん。血脈スキルを手に入れる機会は、逃さない方がいいと思う」


「イナバ君に会うのが遅くなるけどいいのか?」


 ISAO世界にいるかもしれないイナバ君。数少ないリアルの知り合いに、きっと凄く会いたいだろうに。


「イナバのことは心配だけどさ、源次郎の話を聞いて安心したんだ。イナバにも助けてくれそうな仲間が何人もいるって。それなら、ちょっと待たせる時間が増えても大丈夫かなって」


「うーん。でも……」


「この間の防衛戦みたいにさ、これから何があるか分からない。だから、取れるスキルは取っておこうよ。だって、きっと俺たちまた、戦闘の最前線に出るようだよね?」


 レオの言葉にも一理ある。見るからに希少種族の俺たちは、今の状況では敵が強ければ強いほど、戦闘に参加することを期待されるはずだ。


 やっぱりアバターは地味メンに限る。見た目で判断されてトラブル回避不可なんて困ってしまう。そうは言っても、今更アバターは変えられない。巻き込まれる可能性が高い以上は、強くなっておくに越したことはないか。


 考えた末に、期限を設けて周囲を探索することにした。その期日は3日間だ。


「前回、俺がこの辺りで過ごしたのが3日。今回、そこから更に探索範囲を広げて3日。それで見つからなければ、一旦見切りをつける。それでいいか?」


「うん! きっと見つかる気がする。いいなぁ、俺も血脈スキルが欲しい」


「気が早いな。クエストが見つかればだ」


「きっと見つかるよ。もし俺にも血脈覚醒クエストが来たら、その時も待っててくれよな!」


 まだ空振りの可能性も高いので、なんとも言えない。でもレオの嬉しそうな顔を見たら、本当に見つかりそうな気がしてきた。


「もちろん、その時は当然待つよ。俺とレオ、二人で強くなろう!」




*——お知らせ——*


近況ノートにISAO世界のMAPへのリンクを貼りました。

https://kakuyomu.jp/users/hyocho/news/16816452220314181083


全部で3種類あります。

・ISAO序盤MAP

・ISAO広域MAP:今見るのにお勧めのMAP

・次元融合広域MAP→これから出てくる地名を含むので若干ネタバレ注意です!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る