13 仮説☆ (参照MAP付き)
巨大隕石の衝突以降、徐々に状況を把握して動き始めた地域がある一方で、ここ東北日本最北部にあるISAO世界では、外部からの情報が一切遮断された状況が続いていた。
《西端の街・アドーリア 冒険者ギルド会議室》
室内には数十人のプレイヤー集まっていた。比較的規模の大きなクランの代表者である彼らであったが、各所に数人ずつ固まって座り、皆一様に不安気な表情をしていた。
「我々の呼びかけに応えて頂き感謝する。本日の目的は、有志による調査の結果を皆で共有することにある。いったい我々に何が起こっているのか。まずは報告を聞いてもらいたい。その上で、今後どうすべきか? という目安となる行動指針を決めていけたらと考えている」
「では早速私から。この一週間、皆様には我々の要請の元、冷静に行動して頂いたことにお礼を申し上げます。これからの時間、各地に調査隊を派遣して把握出来た状況を、順番にお知らせして参ります」
*
「……というわけで、我々のようにISAOにアカウントを持つプレイヤーだけでなく、新規プレイヤーとして、この世界に閉じ込められた人々が、少なからず存在します」
「リアルでTV中継を見ていたのに、いつの間にかキャラメイクされて、気づいたら見知らぬゲームの中か。いったいどうやったらそんなことになるんだ?」
「その点につきましては、さすがに謎過ぎると申しますか、残念ながら全く情報が集まらずにいるため、未だ結論は出ておりません」
「あとマップもおかしいわけね。東西南北、ゲームでは未解放だったエリアに、新しいマップが増えていて侵入することができる」
「でも、東以外は全て海なんだろう?」
「それも化け物だらけときた」
唯一の陸地であり、東に地続きに隣接するグリッツ王国に関しては、ゲーム時に解放済みのものを含め、平野部に5つの街が確認されていた。
残る3方向は、モンスターが出現する海マップであり、そこにも調査隊を派遣しているが、西へ向かった調査隊だけが1人も戻ってきていない。
「グリッツ王国の平野部の先は、険しい山岳地帯になっていました。今回調査では、さすがに時間も人手も足りず、山越えまでは試していません。ですから、その先にマップがあるかどうかは不明です」
「それは仕方ない。調査隊メンバーは、この短期間によくやってくれたと思う。でも、西へ向かった調査員が帰ってこないのは何故だ?」
「憶測の域を出ませんが、それにつきましては、ひとつの仮説を立てています」
「仮説?」
「はい。先程申し上げましたように、東以外の3方向には、海マップが広がっています。南北の海には水平線が確認されており、おそらく外洋だと思われます。しかし西に限っては、ゲーム時には存在しなかった海以外のものが新たに観測されているのです」
「海ではないものというと……まさか陸地とか?」
「そうです。まだ詳細は掴めておりません。でもそれが幻影の類いでなければ、西の海には対岸がある。実際に、天気の条件が良ければ見えるのです。即ちそこは、海峡ということになります」
「じゃあ、西へ向かった調査員は……」
「はいおそらく。西の海にもモンスターは出現していますが、未だ死に戻っていない。ということは、そこを無事に乗り切って対岸への上陸に成功した。そして、なんらかの事情で帰ってこれなくなった。そう解釈しています」
「なんらかの事情とは?」
「それをお話する前に、今回の調査にあたって、貴重な情報提供をして下さった方々がいたことを皆様にお知らせ致します」
「この状況で情報提供ができるって、何者だよ。……まさか運営とか?」
「はい。まさにそのISAO運営及び開発チームの方々です」
「なんだって! 運営の奴らがこの世界にいるのかよ。こうなった責任を、どう取るつもりだ!」
会議室に一瞬で怒号の渦が生じた。
現状はログアウト不可。
デスゲームに巻き込まれた? なぜゲームから出られない? 刻々とリアルの自分が死に近づいているかもしれない不安。あるいは、既に死亡してしまっているのではないかという恐怖。そういったものを、皆一様に抱えていたからだ。
「皆さん、落ち着いて下さい!」
「静粛に!」
*
ようやく喧騒が収まり、話が再開される。
「ここでお断りさせて頂くのは、彼らも我々と同じく、1プレイヤーとしてこのゲームに閉じ込められています。そして、我々がこのような状況へ至った原因とは全く関わりがありません」
「どうだかな」
「でも、もしこの事態に運営が関係してるなら、裏技とか使って、とっくにログアウトしてるはずじゃない?」
「運営の奴ら、本当にログインしっぱなしなの? それってAIとかじゃなくて、本物の人間だった?」
「はい。彼らも我々と同じです。いつ自分が消滅するかという恐怖に怯え、一刻でも早く解決するようにと、皆さんにバッシングされる覚悟で、自ら情報提供を申し出て下さったのです」
「……分かった。とりあえず運営の真偽は後回しでいいだろう。その情報について知りたい」
「彼らから提供があったのは、全体マップの構成と、実装済み、あるいは実装予定のイベント及びモンスターについての情報でした」
「そりゃあ是非聞きたいね」
「我々がまず注目したのは、全体マップについてです。皆さんお気づきでしたか? このISAOのマップが、
「マジ? 全然気付かんかったわ。どこの県?」
「もう一点。皆様の中で【方位磁石】のスキルをお持ちの方はいらっしゃいますか?」
「私、持ってるわ」
「俺も」
「ちょっとそれを使って、実際にマップを見て頂けますか?」
そう告げられて、部屋のあちこちでスキルを使ってマップをチェックする姿が見られた。
◇ISAO[広域](ISAO終盤・次元融合序盤)MAP
https://kakuyomu.jp/users/hyocho/news/16816700425962242198
「……あれ? なんか違くない?」
「北が東で、南が西だ」
「ご覧頂いたように、現在のマップは以前のものを90°右へ回転したものになっています」
「でもなぜ向きが変わったんだ?」
「おそらくその答えは、リアルに引き寄せられたから——ではないかと考えられています」
「どういう意味だ?」
「実はISAOのマップは、現実のとある県の地図を、90°左へ倒したものをベースに作られているのだそうです。つまり、今見ているマップの向きが、リアルと同じ向きになります。……もう、どの県かお分かりですよね?」
「端が切れてるけど、この特徴のある半島と内海の形からして……多分だけど、青森県?」
「当たりです。そして先程の話へ戻ります。陸地らしきものが観測されたISAO世界の西は、リアルの地図では北になります。そして運営の情報では、この方向に陸地は実装しておらず、実装する予定もなかったという話でした」
「じゃあ、なんで陸地があるんだ? やはり幻か何かか? ……いや待てよ。調査員が帰ってこないのだから、何かがあるはず」
「仰る通りです。我々も同じ考えに到達し、そしてある可能性に思い至りました」
「それはいったいなに?」
「繰り返しますが、ISAO世界の西は、現実世界では北になります。ではその現実世界では、青森県の北には何がありますか?」
「まさか……北海道か!」
「そうです。到底信じがたいことですが、その可能性を否定できない。ISAO世界の北には、リアル世界の北海道が広がっている—— これが、我々が立てた仮説です」
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