「次元融合」あのとき分岐した僕らの世界[不屈の冒険魂ISAO]

漂鳥

第1章 災厄

01 プロローグ 激震

 

 きっかけは、地球に落ちたひとつの「隕石」だった。


 突如として火星軌道上に現れた小天体は、太陽の引力に引き寄せられ、すぐにその軌道を外れると、惑星間空間へ飛び出した。


 想定外の未知の小天体の出現は、各国の天文台や観測施設に、蜂の巣を突いた様な騒ぎを引き起こした。その正体は小惑星なのか、はたまた彗星なのか。一体どこから現れたのか?


 激しく交わされる論争を極める一方で、小天体の性状分析や飛行経路が計測・計算され始めた。


 その結果。


 小天体の色は暗赤色。表面を炭素で覆われ、周囲にガスの類はまとっていない。彗星のたぐいではなく、小惑星であるという見解でようやく意見が一致した。

 

 だがその時には、小天体は地球にとって看過できない危険な存在になっていた。


 時速約15万キロ。


 その速度で小天体が目指す先に、まるで狙ったかのように地球が位置していたことが関係者を慌てさせた。


 およそ16日後。


 地球と火星が大接近している現在、約2週間あまりの後に、小天体が「隕石」として地球に衝突するという予測が立った。


 それも規格外——重さ数百万トンという観測史上、最大の質量を保ったままで。


《非常事態宣言》


 未知の災害に対して、政府は非常事態宣言を発動した。


 避難民が落下予測地域から周辺地域に押し寄せ、交通機関が麻痺し、避難所、物資、医療機関の対応——その全てが不足して間に合わない。


 パニックを起こす者、末世の扇動をする者が巷に溢れ、生活用品の買占めや、混乱による暴動が各地で起こった。


 大気圏を突き抜け、巨大な火球となった隕石が目指すのは「日本列島」。


 同盟各国の迎撃ミサイルが隕石に照準を合わせ、見事着弾したにもかかわらず、隕石を破壊するには至らず、その進路も変えられずに終わる。


 そして遂に、隕石衝突による激震が、本州中央部にある関東山地を襲ったのである。



 § § §



 隕石が直撃した辺り一帯は「中央地溝帯」と呼ばれる、日本列島を東北日本と西南日本に縦断する幅広い帯状の地域だった。


 ——別名「Fossaフォッサ・ magnaマグナ


 その東西の境界線には、地質学的に次のような名前が付けられている。


 西境界線:「糸魚川・静岡構造線」——新潟県から諏訪湖を通り静岡県に走る大断層。

 東境界線:「柏崎・千葉構造線」——新潟県から千葉県に走る大断層。


 隕石の衝突後に生じた激震—— 「次元震」以降、両構造線に沿って、異質で途轍もなく広汎な「全てを拒む壁」が出現した。


 視覚的には陽炎のように揺らめくその壁は、有機物・無機物はもちろんのこと、電波・光波・音波・磁波、その他可能な限り試したあらゆるものを通さない。


 「次元拒壁きょへき


 その性質から、後にこう名付けられた壁により、「フォッサ・マグナ」は地域全域が〈侵入不可領域〉と化し、その中の様子が皆目分からなくなる。それは同時に、日本列島が東と西で真っ二つに分断されることを意味していた。


 それだけでも空前の大災害であるのに、「次元震」は日本列島にSF映画のような一連の超常現象をもたらした。


 「次元秩序」が崩れ、机上の理論でしかなかった「次元理論」が現実のものとなる。


 その「次元理論」とは。


《———仮想世界と現在世界は等価であり共存しうる——》


 本来異なる次元世界が「融合フュージョン」し、互いに「侵食」と「改変」を伴う。最悪の場合、「次元崩壊クライシス」を引き起こす。


 現実世界が存在する次元と、人が作りあげた創作物に過ぎない仮想世界の次元。それがひとつになった新たな世界の誕生の瞬間であった。




*—— 次回——*

主人公が登場します。



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