33 水堀
ミースの街のすぐ西を南北に走る川——トレハンMAPではエミール川、現実世界ではおそらく久慈川と思われる川に沿って、上流に向かって北上を開始した。
途中出てくるのは、水棲系の雑魚モンスターばかり。今の俺とレオなら、対処するのにたいした手間は取らない。
そうして、4-5時間も歩いただろうか?
陽が高く昇ってきたので、昼ごろだと見当がついた。そろそろ昼飯にしようかと話しながら進んでいると、川が急激にカーブを描き、西へ蛇行している場所に到達した。
ここで、この川とはお別れだ。
これからしばらくは、川をあてにせず、盆地を突っ切るように北上しないといけない。
川から離れて歩き始めて程なく、右手の前方に、こんもりとした高台を囲むような、街壁あるいは城壁と思われる建造物を見つけた。
「街かな? それとも砦?」
「ここからじゃ、まだよく分からないか。とりあえず一旦休憩にして、昼飯後にあの場所を調べに行こう」
何が出てくるか分からないから。万全の態勢にしておく。
この辺りに関しては、地形以外の情報がほぼない。事前にレオと話し合い、慎重に旅を進めることに決めていた。河川敷の木陰で手早く昼食を済ませたあと、先ほど見つけた建造物のある方に向かう。
近くで見ると、その外壁は石材を組んで作られたもので、高さは2メートルくらい。周囲をグルっと幅十数メートルくらいの水堀に囲まれていることがわかった。
すぐ近くの水堀の南側に、中への入口と思われる門があったので近づいてみる。
【N俯瞰】を使ってみたが、肝心の建造物内は映像がマスクされていて把握することができなかった。続いて【索敵】と【気配察知】を働かせる。
「どう、源次郎?」
「街か、城か、あるいはダンジョンか。現時点では分からないな。とりあえず入口付近に生き物の気配はなさそうだ」
「入ってみる?」
「ああ。本来なら避けたいところだけど、エヴリンで『嘆きのノルン』が手に入ったように、何かキーアイテムが置かれている可能性があるから」
「だよね。とりあえず行ってみようよ。危なそうなら、直ぐに引き返すってことで」
「それがいいな」
「俺が先に行くね」
防御力の高いレオに先頭に立ってもらい、警戒しながら幅2メートルほどの木製の四角い門をくぐった。この辺りは無人のようで、門を潜り抜けた場所に守衛室のような小屋があったが、中には誰もいなかった。
小屋を通り過ぎると、驚いたことに、目の前にまた水堀が現れた。
外壁の周囲に張りめぐらされた外堀よりも更に幅が広い。幅30-40メートルにも渡る、まるで池のような内堀だ。堀の内側には、こんもりと土が盛られ、青々しい木々が生い茂っていて、丘のようになっていた。
「二重の堀とは驚いた」
「あの中央の部分には渡れるのかな?」
「渡れそうな場所を探してみよう」
反時計回りに内堀の周囲を巡る。すると、東側に回り込んで直ぐの所に、堀にかけられた石橋があり、その奥に木製の門があるのを見つけた。
石橋を渡り門を潜る。
L字状に曲がった通路を右に折れると、そこにはまたしても門があった。新たに現れた門は、これまであった簡素なものとはまるで異なる、立派な普請の門だった。
「ねえ、あれって瓦だよね?」
「俺にもそう見える。見た感じ、和風建築っぽいな」
3つ目の門は、木製の柱と扉を組み、その上に灰色の瓦屋根がかけられたもので、いわゆる
ここで再度【索敵】と【気配察知】を働かせても、相変わらず生き物の気配はない。
「行くか」
「そうだね。じゃあ、進むよ」
門を入ると、遠くから見た時と同じように、周囲を木に囲まれた小高い丘が目の前にあった。その木々の間に1本の道があり、奥に続いていたが、途中で左へカーブしていて、その先は見通せない。
「明らかに人工物なのに、これまでNPCを1人も見かけないのが変じゃないか?」
「この道の先に何があるんだろう?」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか。行ってみるか」
「おう!」
上り坂を左に右に蛇行しながら進んでいくと、急に木々が途切れて視界が開けた。
目の前に現れたのは、御殿あるいは居館とでも言うのだろうか。知識がないので、いつの時代の様式かは見当がつかないが、和風建築の広大な屋敷がそこに広がっていた。
「この構えで何もないってことはなさそうだが……」
ふと、正面の入口と思われるところに目が留まった。
「子供?」
そこに、着物を着た幼い子供が1人で立っている。
「ちょっと、話しかけてみようか?」
子供に近づいていくと、その子供も俺たちを認識したようで、パッとこちらを振り向いた。目のパッチリとした可愛らしい子だ。性別までは分からない。
「いらっしゃいませ。主人の元にご案内しますのでこちらへついてきて下さい」
その子は、俺たちを見るなり甲高い声でそう言うと、こちらの返事も聞かずに、クルッと背を向けて歩き出してしまう。
「どうする?」
「思いっきり怪しいけど、どうやら招かれているみたいだな」
「中でいきなりボス戦とかになったりして」
「その可能性は否定できない」
訝しみながら子供についていくと、屋敷の正面口を通り過ぎ、通用門らしき入口へと通じる小道を歩いて中へ入った。左右の建物の間を抜けてそのままついていく。どうやら中庭と思われる場所に案内されたようだ。
よく手入れされた広い中庭の中央には、妖しくも美しい桜の大木が生えていた。
満開だ。
薄桃色の桜の花が枝いっぱいに咲き誇っている。非常に綺麗な光景ではあるのだが……
「よくない感じだね」
「レオもそう思うか?」
「うん。桜の木の周りって妖力が溜まりやすいんだって。だから、
……つまり。今度の相手は日本の妖怪?
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