21 再会

 

 身を隠している山賊たちは、意識を前方に集中しているようで、俺が上空の死角から近づいても全く気づく様子がない。


 気配を抑えて槍を構える。


 片方の男の背後にそっと回り……一気に腕を振り下ろす。


 この至近距離だ。外さない。


 鋭い槍の切っ先は、俺の狙いを過たず、その無防備な背中を一気に貫いた。


 もう一人が慌てて体勢を変えようとするが、遅い!


 こちらへ振り下ろされる剣を、即座に引き抜いた槍で強く薙ぎはらう。衝撃で男が仰向きに転倒し、まだ動揺しているところを、今度は正面から串刺しにした。


 山賊はかなり軽装で、身につけていたのは形ばかりの胸当てだけだった。「ゲオルギウスの槍」は、それをやすやすと貫通し、男に止めを刺す。


 血は一切流れない。


 ゲームのときから、そういう環境設定にしてあったからかな? もうメニューから確認することはできないけど、トレハンの基本システムとして無血仕様は採用されていた、精神的衝撃を緩和する「メンタルプロテクションシステム」も、もしかしたらゲームのときのままなのかもしれない。


 中央を見ると、まだこちらの異変には気づかれていないようだった。レオの方はどうかな? 


「こっちに新手だ!」


 レオが動いた。1人殺ったみたいだ。


 山賊たちがレオに気をとられているのを幸いに、俺は槍を刀に持ち替えて前に飛び出した。父たち4人を取り囲んでいる連中に一気に詰め寄って、その内の1人の首を即座にはねる。


 勢いよく首が飛び、地面を転々と転がっていく。


 次!


 もう1人! 【縮地】を使って一瞬で接近し、逃げられる前に首をはねる。それを繰り返す。


「加勢する!」


 念のため、父たちに声をかけてから次の標的に向かう。事が始まれば早かった。レオと父、そして3人のプレイヤーの応戦もあって、しばらくの後、山賊たちを全て仕留めることに成功した。


「これで終わりか?」


「多分」


「助かった。加勢に感謝する。あんた、前に海辺で会った人だよな? どうしてここに?」


「家族を探しに来た。こっちの彼は、俺の連れだ」


「家族?」


 父のいる方を振り返る。向こうも俺を見ていたらしく……目が合った。


「昴!?」


 驚いた顔の父に近づいていく。


「父さん、やっと会えた。怪我はない?」


「ああ……それは大丈夫だ。だが昴。どうしてここに? まさか……俺を追ってきたのか!?」


「そうだよ。行くってメッセージを書いただろ? もうちょい待っていてくれたら、クウォントの街で合流できたのに」


「それは本当に悪かった。こっちにも事情があったんだ」


「無事ならいい。後でその事情は聞かせてもらうけど」


 もう本当にそれだけだ。無事でよかった。本当にもう、ハラハラさせるなよ。


「あんたたち、親子だったのか」


 先ほど話したプレイヤーが、声をかけて来た。


「すまない。親父さんを連れ出したのは俺たちなんだ」


「その辺話をいろいろ聞きたいけど、とりあえず休憩しないか?」


 *


 山賊の死体は、間もなく光となって消えた。


 戦闘の痕跡も、何事もなかったかのように、きれいさっぱり消えている。せっかく開けた場所なので、ここで食事がてら話し合いをすることにした。


 自己紹介がひと通り終わり、彼らの3人の関係も分かった。


 長兄 「ハル」東條 春樹 24歳


 次兄 「フユ」東條 冬樹 21歳


 妹「ミーナ」東條 夏実 17歳


 なんとも分かりやすい名前で、噂で聞いた通り彼らは兄弟だった。そして「ミース」の街にいるというもう一人の家族名前がこれ。


 弟「ナツ」東條 夏樹 17歳


 ……アキじゃないのか。って、ちょっとだけ思ったけど、下の2人は二卵性の双子なのだそうだ。


 全員合わせて6人と人数が多かったが、3兄弟の1人が大きめのバーベキューコンロを出してくれたので、手持ちの肉を焼いて食べることになった。


 レオのオート調理ウサギについては、高額課金アイテムだから念のため内緒だ。


「急いでいたのには理由がある。どうやら『ミース』で、何かイベントが起こりそうなんだ」


「『ミース』でも!?」


「ああ。でもってことは、もしかして2人は、『ノア』の防衛戦に参加したのか?」


「うんそう。俺と源次郎が街を出ようとしたら、急に天気が悪くなって防衛戦が始まっちゃったから、参加しないわけにいかなくなったんだ」


「天気か。やっぱりそういった予兆はあるんだな。俺たちも、もっと早くに『ミース』に向かいたかったが、途中で『エヴリン』の街に寄っていて遅くなった」


「それに加えて『クウォント』から『ミース』までのMAPが、〈開通クエスト〉を受けないと開かないようになっていたから、それで結局、足止めを食らっちまった」


 彼らの話に出た「エヴリン」という街は、ノアから北上して2本目の大きな河川を上流方向に辿っていくと見つけられるそうだ。河口からまず西方向に向かい、途中で川に沿って北へ進路を変え、しばらく進むとたどり着く。


「エヴリン」は、βテストの時には、「クウォント」よりも前の段階で行くはずの街だったらしい。しかし、2つの街の位置関係が、ゲーム時とはだいぶ変わってしまった。街の中に入れば、以前と同じ作りだったらしいが。


 トレハンは割と「RPG要素」が強いゲームで、回収しなければならないイベントやアイテムが揃わないと、先のMAPへの移動や攻略につまづくことが多かった。


 それが彼らが、寄り道をした理由になる。


「ミース」で起こるイベントを解決するのに必要なキーアイテムが、『エヴリン』で手に入ったはず……と思い出し、わざわざ回り道をして立ち寄ったそうだ。


「何か見つかったんですか?」


「ああ。行ってよかったよ。これがなくても攻略できるのかもしれないが、あった方が間違いなく簡単になって、被害が少なくなるはずだ」


「何を見つけたのか聞いても?」


「『嘆きのノルン』、これだ」


 そう言ってハルさんが取り出したのは、身の丈30cmほどの、悲嘆にくれた表情をした1体の美しい女神像だった。





*——『次元融合』第二章[了]——*


いつも応援ありがとうございます。まだまだ続きます。

次回から第三章です。三章の最初は、ISAO世界からお送りする予定です。


 読み返して見ると改稿が必要な箇所がボロボロ出てきて、焦ってしまいます(ここまで書き直すとは思わなかった)。

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