74 南方攻略(参考資料:WORLD MAP)

 

 《アドーリア冒険者ギルド 会議室》 


「本日はお集まり頂き感謝する。竜騎士たちが、南方の山岳地帯の探索から帰還した。これまで南方調査班が得てきた知見を交えて、その調査報告及びグラッツ王国の概要のまとめを公表したいと思う」


 南方調査班は、現在グラッツ王国の沿岸の街〈ガジャ〉に拠点を据えていた。〈ガジャ〉は、三方を自然の要害に囲まれた街である。


 南東方向には山岳地帯——ゲーム内では〈シャラム神山〉と呼ばれている白神山地と、〈ウィッカ山〉と称する円錐形の山がそびえ立ち、西側は凶悪な魔物の跋扈ばっこする外海に面していた。


「既にご存知かと思うが、モーリア王国からグラッツ王国への侵入経路は三カ所ある」


 ひとつ目はアドーリアの南西にある〈巨人の切り通し〉。


 二つ目は〈ダカシュの関〉。


 三つ目は、〈常闇神殿〉と〈蛇塔聖堂〉を繋ぐ特殊な転移ルートである。


 前の二つは、この世界がまだゲームであったときに、グラッツ王国の解放クエストにより開かれた。


「ただし、三つ目の侵入経路については、それを発見したプレイヤーがゲーム内に見当たらず、関連するシークレットクエストの詳細が不明であることから、現時点で利用できる可能性は限りなく低い」


 そこへ参加者からの質問が飛んだ。


「それってつまり、本物の『神殿の人』はまだ見つかってないってことよね?」


ねぇ。そうも言いたくなるよな。あの御光なんちゃらの指導者は、どう考えてもかたりだし」


「その噂については我々も耳にしている。その上で、あの宗教クランの指導者は、『神殿の人』と呼ばれていたプレイヤーとは全くの別人であるというのが我々の一致した見解だ」


 いったい何の目的で名前を騙っているのか。それについては現在調査中であった。


「情報をありがとう。話を遮ってごめなさい。続けてもらえるかしら」


「では、グラッツ王国で見つかった街や集落について、改めて確認して行こうと思う。この地図を見てもらいたい。以前とは方位が異なっていることに注意して欲しい」



(参考資料 次元融合[広域]MAP 作画:漂鳥)

https://kakuyomu.jp/users/hyocho/news/16816700425962155266



「〈巨人の切り通し〉を通過してすぐの場所にあるのが〈ジュナス湖〉だ。湖底には〈水中都市ジュナス〉がある」


 ジュナス湖はウィッカ川の河口にあり、外洋に繋がる汽水湖である。


「ジュナス湖に流入するウィッカ川を遡上すると、川沿いに〈イアンジーク〉という中継都市があり、更にさかのぼると、〈王都ノーグ・グラッツ〉にたどり着く」


 この他に、ジュナス湖から海沿いに南下した場所に沿岸の街〈ガジャ〉が。王都よりも奥地には〈山間の村チャティフ〉と〈蛇塔聖堂〉が見つかっていた。


「これまで訪れることができた街や集落は、合わせてこの5つだ。ここにいる方たちは、おそらく全員、この5つについてはご存知のことと思う」


 水中都市は人魚の棲む街であり、ゲーム時代に発見された当初、数多くのプレイヤーが観光に訪れた。それ以外の街にも、新たなクエストやレシピを求めるプレイヤーたちが既に足を運んでいる。


「そしてここからが新情報になる。南に立ち塞がる〈シャラム神山〉の向こう側には、どうやら国が存在するということが分かった。その名称は〈キアト帝国〉。女帝が治める国らしい」


「やっぱり山の向こうにもMAPがあるのか。そこって、ゲーム時代に実装が予定されていたりする?」


「その通りだ。元運営プレイヤーの情報によれば、〈キアト帝国〉への解放イベントは、まだ構想だけの段階にとどまっていたそうだ。従ってマップも未完成で、ベースになる地形部分だけが製作途中だったと聞いている」


「その解放イベントの構想の内容は分かっているの?」


「本当に概要だけだが、ある程度は把握している」


 〈キアト帝国〉へ至るための経路は二通り。


 飛行能力頼みで〈シャラム神山〉西部に侵入し、そこで発生する一連のイベントをクリアして山を越えるか、南東にある〈ギアークの関〉を解放するか。その二択だった。


「つまり〈ギアークの関〉なら、飛行能力がなくても越えられるってこと? そうじゃないとバランスがおかしい」


「おそらくそういうことだと思う。しかしいずれの経路にしても、簡単にはいかないことが予想されている」


「その根拠は?」


「山越えの経路は、現時点では挑戦できる飛行能力を持つプレイヤーの人数が少なすぎる」


「新しい飛行方法が発見された……みたいな報告はないの?」


「残念ながら、現状まだそういった発見はない」


「じゃあ、関所越えをするしかないじゃない」


「消去法的にそうなるが、そちらにも問題がある」


「それはいったい何?」


「散々探したんだが、〈ギアークの関〉のおおよその位置が判明しただけで、侵入経路が皆目分からない。それに関する情報が全く出てこないんだ」


「ってことは、また人海戦術か。周辺MAPを虱潰しに探すしかないわけね」


「そういうことだ。時間が掛かるがやむを得まい」


「あーあ。協力はするけど、人でも物でもいいから何かこの状況を打破できるものが現れてくれないかなぁ」


「本当に。このままだと八方塞がりになりそうだ」



*——【7/21】発売 3巻書影の紹介——*

https://kakuyomu.jp/users/hyocho/news/16816700425962558234

(近況ノートへのリンクです)

何やら不穏な背景に佇むユキムラ他二人。

ISAO世界を東西に駆け回る神官物語!?

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